クローズドなつもりのオープン・ノート

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原油価格はなぜ乱高下するのか『石油を読む』読んだ

2017年2月に刊行された第三版。石油あるいは原油まわりの基礎知識とシェール革命も織り込みながら、最新の事情まで追った一冊。”石油がなくなる詐欺”にも、これを読んでおけば騙されない。

石油を読む〈第3版〉 (日経文庫)

石油を読む〈第3版〉 (日経文庫)

 

 読んだのはkindle版。

 

 著者は独立行政法人経済産業研究所に属す、エネルギー政策のエキスパート(らしい)。新聞や雑誌への寄稿も多い、「サハリン沖に眠る天然ガスをパイプラインで日本に輸送」しようぜと主張している人。

 

この本も、乱高下する石油業界を詳細に論じつつ、エネルギー政策上の提言として、最後には「ロシアと日本をパイプラインで結び、サハリン沖の天然ガスを輸入しようぜ」に着地する。

 

その提言のよしあしはともかく。

 

原油価格の乱高下は、今後も続くのかという一般人の素朴な疑問にも応えていて、学びが多かった。なんせこの分野についてはなーんも知らんから。なーんも知らんけど、原油先物価格WTIはニュースではお馴染み。

 

映像のインパクトはやっぱり大きくて、今年(2017年)の春先にはサウジアラビアの国王がアジアを歴訪し、豪華大名旅行を繰り広げた記憶も新しい。原油国、やっぱり金持ってんな。。と思いきや。

 

その内情は火の車で、シュワルツェネッガー知事が財政非常事態宣言を行ったカリフォルニア州や、経済破綻したギリシャ並みにやばいと知れば、相当やばい。

 

そんなに財政がやばいのなら、お金の使い方変えればいいじゃない?とはいうものの、そう簡単にはいかないのが中東湾岸産油国の事情で、石油というモノカルチャーに頼り切った経済システムの怖さも露呈する。

 

そもそもこの本を読もうと思ったのも、タイトル買いした『石油の呪い』に触発されてのこと。

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こちらは貴重な天然資源に恵まれ、恩恵をたっぷり受けるものの、社会システムには「呪い」となってふりかかり、かえって有害となることを書いた本らしいんだけど、難しすぎた。途中でギブアップしてる。

 

『石油の呪い』よりも数段やさしく書かれた『石油を読む』のおかげで、モノカルチャーに頼り切って自縄自縛となりつつあるサウジアラビアの姿がよく理解できた。

 

サウジアラビアを筆頭に、湾岸産油国が今後も経済成長を続けようとすると、原油価格の高止まりが必須。そのために彼らOPECは「減産」を外交カードに用いるけれど、減産による原油価格高騰で実体経済にダメージを受ける原油輸入国はたまったもんじゃない。

 

たまったもんじゃないから取引先の多様化を願ってせっせと油井を掘り続けた結果、中東湾外域外でも石油が生産できるようになり、湾岸産油国のシェアも低下した。

 

現在、世界最大の産油国はアメリカ。世界最大の石油消費国でもあるアメリカが、最大の産油国へと変貌したのはシェール革命のおかげ。

 

アメリカのエネルギー自給率を押し上げる形となった、シェールオイル、その掘削装置“リグ”は、原油価格の高騰、高止まりに絶妙に蓋をする。

 

シェールオイル単体で見た時の生産性その他云々かんぬんについては毀誉褒貶があるけれど、原油価格が高騰した時にこそシェールオイルは真価を発揮する。

 

バターが品薄かつ高過ぎて手が出なければ、マーガリン、あるいはオリーブオイルで代用しようとするのが、庶民の知恵。

 

マーガリンあるいはオリーブオイルにあたるのがシェールオイルで、その品質にも値段にも特に不満がなければ、バターが安価で市場に出回るまで待ちますか?いいえ待ちませんし、待てません。

 

ZOZOTOWNのセールス価格に慣れた今、デパートで定価で買いますか?デパートに勤務する従業員の生活を守るため、生活必需品の不足あるいは高騰に耐える義務が、顧客にはあるんですかね?しかもその従業員は怠惰で、1時間くらいしか働かないくせに高給取りときたもんだ。

 

というのが湾岸産油国原油価格とシェールオイル、ならびにサウジアラビア国民の極端なごく一部の姿で、こうなったら普通の企業は潰れてもおかしくない。

 

デパートの場合、たいていは駅前や繁華街などに位置し、そのエリアのランドマーク的存在かつ集客装置でもあって、存続は地域にとっての問題でもあるんだけどさ。

 

企業と違って国(しかも天然資源が豊富なだけに、厄介なんだ)が潰れてしまっては困るから、起死回生のマジックとして期待されているのが、「サウジアラコムの株式公開」で、その企業規模は、中国のアリババの4倍規模(2015年5月期の数字)と、これまた景気がいい。

 

日本円に換算するのもめんどくさい、とにかくゼロがいっぱい1千億ドル規模の、株式公開に伴い転がり込んでくるはずの大金をもとに政府系ファンドを起ち上げ財政再建サウジアラビアの)にあてるっていうんだから、捕らぬ狸の皮算用、ここに極まれり。

 

めざすは上場ゴールかい。。と、再生可能エネルギーの可能性こそ強く支持したくなるけれど、結局エネルギー政策は政治マターでもあるから、「他国のお家騒動」を鎮めるための打ち出の小槌を、何も自分とこで振ることないわなという現実路線を行くのが、トランプ政権なんだってさ。

 

振り回されたくなかったら、距離を置くのがいちばんで、最大の産油国でもあるアメリカが、サウジアラビアのお家騒動に付き合う義理も義務もないわな。

 

過去のオイルショックの話や、テクノロジーの進化によって原油掘削の技術も進み、埋蔵量も激増して石油枯渇は神話になりつつあるといったくだりは、素直に読み進められるけれど、眉に唾する箇所は確実にある。

 

そもそもエネルギー政策の話は政治マターで、市場がないあるいは機能していなければ政治の出番で、政治に頼るしかない。

 

不透明な要素が多過ぎで、サウジアラコムの企業価値を図る重要な要素、サウジアラビア原油埋蔵量についての信憑性は、いったい誰が保証、あるいは裏書するんですかね。

 

後半になるほど政治マターの話が多くなり、経済的要素の石油とその来歴、例えば掘削についてのくだりに興味がある者としては、読み進めるのが苦痛だった。政治、さして興味ないから。

 

暖房、あるいは家庭のエネルギー源は、石油かガスかIHか。どれがいったいお得???という興味からどんどん遠く離れていって、最後「日ロ間をエネルギー・インフラでつなごう構想」にまでたどり着くからめまぐるしい。

 

アルマゲドン』では、ブルース・ウィリスベン・アフレックも、石油採掘会社で働いていた。『アメリカンドリーマー 理想の代償』では、石油業界の“下流”でのし上がろうとする男性が主人公だった。最大の産油国アメリカは、とにかく掘りまくってもいるという印象は、データでも裏付けされた。

 

もっとさかのぼれば『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』と、リアリティとファンタジー要素が適度に混ざり合ったフィクション向きの職業として、石油掘削会社勤めの人間はフィクションにもよく登場する。

 

そこから派生した興味を『石油を読む』の前半部分は満足させてくれるけど、後半の政治マター多め要素になると、国際政治に興味を持って追い掛けていないと、辛い。

 

とにもかくにも一応は公平さや透明さが担保された市場に慣れ切っていると、政治に頼らざるを得ない業界の話は、非民主的で後進的であるとさえ思ってしまう。

 

政治に頼りたくなければ、市場をつくる。あるいは、より公平で透明な市場へと場所を替えるに限る。

 

読後感として強く抱いたのは、そんな感想。

 

石油業界まわりの話はパズルを解くようで、不透明さもあればこちらを選べばあちらが立たずといった、ボラティリティに満ちていた。論理的思考にどっぷり浸かりたい人向け。複雑だからこそ、この業界に魅せられる人が居るんだろうな、ということも痛感した。

(今はこんな特集記事もkindleで読めるんだね。めっちゃ安い。) 

映像のインパクトは大きいけれど、今やOPECやメジャーに昔日のようなパワーはなし。オイルマネーで先進未来都市という砂漠の薔薇。花咲く日は来るのかしらねぇと渋茶すする。

石油の呪い――国家の発展経路はいかに決定されるか

石油の呪い――国家の発展経路はいかに決定されるか

 

 序文にある一文でゲラゲラ笑った。でも全体として難解。難解だから、ゆっくり読む。

 

お休みなさーい。