ポジティブ。
自然災害を扱った映画は、天災怖い、天災に巻き込まれた人たち可哀そうとネガティブモードなものが多く、天災に巻き込まれて本当に嫌な目に遭った人は見ないしスルー。
『ツイスターズ』は、平和な暮らしや日常が一変した、意図せず天災に巻き込まれた側ではなく、積極的に天災に巻き込まれに行った側からの視点で進む。
主人公は、竜巻に近付き過ぎて死にかけたけれど九死に一生を得た女性。天災の恐ろしさを十二分にその身で知っているから慎重で、慎重な彼女に超接近するのはユーチューバー。
竜巻という驚異に立ち向かうのに、素面ではいられないとばかりヒップでダンサブルな音楽とともに派手に登場する。彼らユーチューバーが乗っている車は、月面でも火星でも活躍しそうなもはや装甲車とでも呼べそうな代物で、木っ端みじんになった被災地の人たちの住まいとは対照的。自然災害による得失差がくっきりはっきり一目瞭然。
ドローンを駆使し、普通ではみられない映像を配信することで自然災害から利益を得ている。そういう人種が登場したことで、自然災害を取り巻く環境は激変した。
そこがスタート地点で、本当の主人公は自然災害が頻発する土地そのもの。
アメリカのオクラホマかどこからしいけれど、その地が世界史に登場して何年だっけ?200年くらい?と思うような場所でのスクラップアンドビルドは壮大で、壮大なのは鳥の目で見た場合。
iPhoneや携帯電話が登場する以前と以後、あるいはインターネットや動画配信が登場する以前と以後で、その地には一体どんな変化があったのだろう。と思うくらい、ただ草むらだけがどこまでも続く、風力発電の風車ばかりが目立つその場所に、人の生活の気配はなく、森や林の影もかたちもない。
人の暮らしがあるなら、防風林くらいあるだろう。


人が住まなくなった土地だから風力発電を産業にし、より強い風が吹くよう環境を整えたら竜巻が頻発するようになった。そして恐らくは風力発電のために新しく移動した土地で新しく始めた素朴な暮らしでさえ、竜巻が直撃して木っ端みじん。
木っ端みじんになった街の惨状も壮大な鳥の目で見れば、移転させるなら自然エネルギー(=竜巻)にまかせれば、ガッーと壊してガッーと更地にして、スクラップ費用を節約しながらまた新しく作ればいいじゃない?で無神経。


生き残りがかかった人たちは、ともに生きてきた友人・知人が一人もいなくなった生活圏は、無理してとどまる必要もないから積極的に後にしやすく住民の新陳代謝も進む。
天災が頻発する環境での最適解のひとつが、移動。
軽装軽備で、何度吹き飛ばされても何度でもやり直しがきく移動か、集住して定住し、その地を手放すわけにはいかないから重装備をめざすか。
移動・定住。どちらを選んでも、簡素で軽備な暮らしに必要な住まいの材料や燃料、重装備な暮らしに必要な燃料や食べ物の需要が供給を上回る限り、土地の環境はいつまでたっても不安定で竜巻が止むことはない。
鳥の目でなく虫眼鏡で見たとき、災害が頻発する場所には木っ端みじんになった暮らしの片鱗が垣間見えるだけ。
竜巻に向かってドラム缶を、ドラム缶に入った何か(高分子ポリマーか何か)を投げつけ竜巻の威力を弱体化させようとする試みは、B29に竹槍で立ち向かうかのようで一見無意味。
だけど、竜巻=燃料や食料などのエネルギーを貪欲に求め続ける集住して定住する重装備な都市から吹き降ろすパワーだと仮定し、ドラム缶に入った何かは、高分子ポリマーに代表されるオムツを必要とするもの、老人と赤ちゃん=庇護を必要とする弱者だと仮定してみる。
そうすると、重装備をめざした都市に少しづつ着実に重装備ではないものが流入し、重装備な都市にも脆弱性が生まれ、脆弱性を抱えることとなった都市は重装備であるために何らかの対策、リバランスを考えざるを得ない必要に迫られる。
それが竜巻でも地震でも津波でも。天災をテーマとしたエンタメ作品は、ただ天災の恐ろしさを伝えるだけではだめで、被災者救済に繋げないと意味がなく支持も拡がらない。
どれほど衝撃的でアカデミック的に価値ある映像やデータが得られたとしても、生かすことができなければ意味がない。
世界史に登場してもう何年?千年だっけ?二千年?という都市の周囲にあるものが、歴史の浅い町には欠けている。
より強い風を求め、より衝撃的な映像を求め、積極的かつ作為的に環境に関与したのならその逆、破壊だけでなく生産、再生に作為的に関与することも可能だろうという意思を示した着地点だったから、ポジティブ。
天災怖いの解が、重装備な都市への流入一択だったら災害の頻発は止まらない。
重装備な都市から、ただ強い風ばかりが吹き下ろす草だらけの原っぱしかない場所をめざすのではなく、それが人でも作物でも。再生や再配分に使われる何かを育てられる場所をめざし、何かが育つ場所にこそその先、続きがあるんだと確信できたとき。
衝撃的な映像だろうが、お涙頂戴だろうが、ほほえましいであっても遠慮なく課金できる。