クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『グランド・ブダペスト・ホテル』見た。

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マグノリア・ベーカリー』のカップケーキみたいに、カラフルでキュートな映画だった。すっごい好み。おまけに、映画に出てきた『メンドルのコーテザン・オ・ショコラ』は、もっと美味しそうだった。公式HPには作り方まで紹介されてる。親切だね。
 
格式高いグランド・ブダペスト・ホテルで夢のひと時をもてなす”伝説のコンシェルジュ”がルネサンスの絵画をめぐる連続殺人事件の謎に挑む!

キュートな可愛らしさと茶目っ気あふれたどたばたコメディーで、小物や衣装にもつい目を奪われた。その間にもストーリーは進むから、見てる間中忙しかった。早くDVDが出てほしい。
 
 
観客の前には二人の語り部が現れる。『グランド・ブダペスト・ホテル』を書いた小説家と、小説家に『グランド・ブダペスト・ホテル』を書かせるきっかけとなった謎の大富豪と。
 
 
入れ子構造の映画になっていて、「誰かから聞いた話」をベースにしてると思えば、独特のファンタジックな映像にも納得する。全編「誰かが見た夢」を形にしたみたいな映画で、映画にリアリティーを求める人が楽しむのはちょっと難しいかもしれない。
 
 
おまけにこの映画、過去の映画へのオマージュにも満ちてるんだよね。
ストーリー追いかけつつガジェットにも目を奪われ、このシーンの元ネタは。。なんて考えてたもんだから、ほんと大忙しだった。早くDVDが出て欲しい。
 
 
オリジナリティー、あるいは作家性について、考えずにはいられない映画だった。
 
 
なんでこの絵が名画なのか、さっぱり見当もつかない。そんなルネサンス期の名画がひとつの鍵にもなってた。そんなルネサンスの名画と対置されるのが、ストレートに観客の劣情を誘う退廃的な世紀末絵画ってとこも興味深い。
 
 
ルネサンス期の名画、一見しただけでは、どこが素晴らしいのかわからない。下手くそな絵と一緒じゃないと、技術の素晴らしさはわからない。ポーズやモチーフに隠された意味も、わかる人にしかわからない。
 
 
この映画もそうだけど、初見、直感で見るよりも、前知識があった方がもっと楽しめる。そういうものを、絵が象徴してるようだった。
 
 
そして、労せず大金を手に入れようとする君たちには、ストレートに観客の劣情を誘う退廃的な絵画がお似合いだよ。教養は意地悪と同義なところがあるから、そんな皮肉も考えつくわけですよ。
 
仕掛けやたくらみに満ちた映画を作るんだから、製作者サイドは当然知識や教養積み上げ派だと思われるし。あぁ毒されてる。
 
 
キュートさにあふれた映画なんだけど、わかる人にしかわからない皮肉や毒がそこかしこしに散りばめられてるようで、結構ダーク。
 
 
激情の間に薄皮を一枚も二枚も挟んだように、ひとつひとつのシーンは軽くスルーできるんだけど、それ、軽くスルーだとまずいんじゃないのというところまで軽やかに描いてる。雪原を走る二人組の姿なんて、チャップリンの映画っぽくってコミカルだった。
 
 
軽やかに描いてるから、重いシーンがことさら印象的。
 
 
大戦前の栄華を誇った高級ホテルが事件に巻き込まれる、ファシズムとの対決・逃避行。主人公が守りたかった高級ホテルとしての矜持。この映画にタグ付けする時に思い浮かぶ、いくつかの単語を組み合わせても、絶対に想像もつかない映画になってる。
 
 
何か物を作りたいなんて妄想に駆られた人は、いろんなものをゴチャ混ぜにして、わかる人にしかわからないようなものを散りばめながら、それでも前知識なしで見ても楽しめるようなものを作ってしまう。
 
 
濃いもの、オリジナリティーあふれたものを作れる人に、薄いものを作れと迫るのは、罪なんだね。
 
 
大して面白くも楽しくもないものが、数の力で世の中を席巻する。そして、薄いものを作れと迫る。これ、現代のクリエイターにとってのファシズムかもね。
 
 
この映画は、シュテファン・ツヴァイクという、ナチスに人生を翻弄されたユダヤ人作家に捧げられてる。
 
作家や作品にインスパイアされながらも、出来あがったのはカラフルな色彩に彩られた、一見とてもスイートでお洒落な映画。濃い内容を軽やかに、お洒落に描く、ウェス・アンダーソンのオリジナリティーに貫かれてる。

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激情をストレートにぶつけてくる映画だと、何度も見返すのはきつい。激情の間に薄皮を一枚も二枚も挟みこんだような映画だから、何度も見直せる。
 
夢から覚めて、見た内容もだんだんおぼろになって、何だかきれいな夢を見た。そんな淡い感情だけ残るのもいいもんだけど、何度もDVDで見返して、くっきり記憶に刻みつけたくなる。
 
 
チャップリンへのオマージュは、絶対入ってるはず。ここは大脱走か。もしかしてこの滑走シーンはクールランニング!?と、元ネタを自由に想像して、見終わった後も楽しんでる。早くDVDが出てほしい。