クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『しあわせへのまわり道』見た

人生の後半戦が見えてきた人にふさわしい映画、『しあわせへのまわり道』見てきた。ヒロインはアラフィフ女性。何かに対して真っ直ぐに情熱を注げるとは限らない、夢見る頃を過ぎた大人にも心地いいストーリーだった。ストーリーやその他の点(見てのお楽しみ☆)でも、アラフォー以上におすすめ。
 
実体験を綴ったエッセイの映画化である本作は、陽光きらめく夏のニューヨークを舞台に、突如結婚生活が破綻した主人公ウェンディの哀歓を飾りたてることな く描き出す。偶然出逢った"教官"ダルワーンとの会話には機知とユーモアが満載。落ち込んで凝り固まったウェンディの心がいつしかほぐれてゆく。
(映画公式サイトより引用) http://www.shiawase-mawarimichi.com/intro.php
 
主人公のウェンディは、NYに住む著名な書評家。アッパーウエストサイドの瀟洒な家に住む彼女は、長年連れ添った夫から離婚を切り出されて憔悴する。憔悴する彼女に寄り添い、人生の軌道修正を手伝うのは、タクシー運転手のダルワーン。裕福な白人女性と移民のタクシー運転手をつなぐのは「車」。
生粋のニュー ヨーカーで都市生活者のウェンディは、車の免許さえ持ってない。免許取得のために、ダルワーンから個人レッスンを受けることになる。単なる気分転換で始め た車の運転なので、熱心とはいえないウェンディ。一方のダルワーンは、辛抱強い教師。相性最高とは言えない二人が歩む、免許取得というゴールまでの出来事が綴られている。
 
 
若き日のロバート・デニーロが出てくる古っーい映画『タクシードライバー』も、”訳あり”でタクシードライバーになる人を描いてた。読書家のデニーロに向かって「部屋を見ればあなたが教養ある人だってことはわかるけど、そんな人がなぜタクシードライバーをやってるの?」と尋ねるシーンがあったように記憶し てる(そのへんうろ覚え。。)
タクシードライバー (字幕版)

タクシードライバー (字幕版)

 

 教養と職業が結びつかないのが”訳あり”たる由縁。ダルワーンも、タクシードライバーに甘んじなければならない事情を背負ってる。

 
 
離婚という人生の岐路に立 たされた女性の個人的出来事を描いた映画のようでいて、そこにはしっかり今のNYが抱える事情や問題も織り込まれてた。小さな村や、同一性が保たれた郊外のニュータウンと違って、都市生活者は社会の矛盾や暗部、見たくないものとも向き合ってる。
 
 
書評家であるウェンディは、日々自分の好きなもの、本に囲まれた生活を送ってる人。見たくないものはスルーで済む生活を送ってるウェンディは、 社会の矛盾に対して素朴な疑問と激しい怒りを時折見せる。時々だけど。矛盾に毎日向き合ってる人が失った、「これが見過ごされていいわけないでしょ」というピュアな感情の発露が、ダルワーンの心にも作用する。ウェンディとダルワーンの、友情以上愛情未満な関係がよかった。
 
 
もしもウェンディが裕福な白人女性でなかったら。もしもダルワーンが、本来の彼に相応しい地位の人物だったら。いくつかのifが「もしも」でなかったら、まったく別の関係になってたかもしれない、淡い関係。
 
 
見たくないものを見た後だけに、ウェンディはクリーンであることを望む。
 
 
ター バン姿にあご髭、浅黒い肌を持つダルワーンは、911後のNYで最も割りを食った人とも言えるはず。そこをちゃんと盛り込んだところに、「これが見過ごさ れていいわけないでしょ」という監督のメッセージを感じるのは穿ちすぎ?ついでに、ダルワーンに関係するジャスリーンが直面するのも、「これが見過ごされ ていいわけないで
しょ」という事態。
 
 
見たくなかったもの、経験したくなかったことを経験し、人生の軌道修正を図る時に望むのはクリーンであること。初心に還るってそういうことなんじゃないのかな。ウェンディの人生と、NYの未来のカタチが重なって見える。
 
 
ウェンディ演じるパトリシア・クラークソンが、アラフィフとは思えないほどキュート。最初はやつれて、年齢以上に老け込んでいたのに。年齢不相応に若々しくあるためには、ピュアとクリーンが欠かせないのかも。
 
 
離婚をめぐってのシビアなやりとりも、参考になる。熱狂とは無縁の、都市生活者の感覚に寄り添ったらこうなったのか。もっとドロドロと湿っぽくなりそうなところは極力回避し、離婚・移民といったテーマであってもどこかドライ。一見地味でも滋味あふれる映画だった。
 
 
この映画と同じ監督による『死ぬまでにしたい10のこと』も、好きな映画。何度も見返すには重いんだけど、忘れがたい。
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 お休みなさーい。