クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

ここ掘れ、わんわん

狼に育てられた少女というワードでピンと来るのは、きっと一定以上の年齢に限られる。国民的少女漫画の劇中劇にもなっていたから、知っている人は知っている系の、知らなくても全然恥じゃない系のお話というかネタ。

 

狼に人間の子が育てられるのか???といった、真偽不明の要素が多分に含まれている、現在地点から見ると眉唾エピソードも豊富だから、今さら真面目に検証する人もいなさげ。実在したのか否かという事実の検証に取り組むよりも、どうしてあのお話が生まれたのかと考えた方が面白い。

 

舞台は第一次大戦後、1920年代のインド(ということになっている)。だからあれは、教化目的で征服民族が被征服民族と遭遇した時には起こりがちな出来事と捉えると、個人的にはしっくりくる。

 

教化というタスクを請け負っているのは、孤児院を営む一神教の伝道師。教化というタスクを請け負うのにもっとも自然だからたまたまそうなってるだけで、本当に孤児院を営んでいる必要も本物の伝道師である必要もない。ただ何かを教えるのに不自然でない職業が、選ばれてるだけ。

 

1920年代のインドだったら、まだまだ地方豪族、藩王にも勢いがあったんじゃないかと思われる頃。インド全体を支配する誰かの首がすげ変わっても、中央とはまた別の時間が流れていたら無問題。

 

だから教化対象の狼に育てられた少女は、その土地の庇護や保護を強く受けた者で、何しろ生まれ育ったホームグラウンドなんだから、征服民族の前でも無防備でノーガード。征服民族の前で見せる多神教世界しか知らない無防備でノーガードな振舞いは、一神教しか知らない無知な征服民族から見れば野蛮で洗練からはほど遠く、野蛮で洗練からは遠い振る舞いを動物に擬せたから、狼に育てられたことにしてみたのかも。

 

その頃のインドならすでに大陸横断鉄道も完成済みかもしれず、陸上輸送や移動手段が手軽で簡便になると、エキゾチックな土地に入り込んでくる層も変わって、お手軽で簡便になる。最初期の大名旅行でわざわざ僻地にまで足を運んだ、お金と暇と教養を備え、博物目的で見聞を広めたいような層とはきっと違う。

 

教化という技術には欠けるまま教化というタスクを請け負った、教化目的の征服民族が無防備でノーガードな被征服民族を無理に教化しようとすると、無防備でノーガードな被征服民族は、教化を通じてただダメージを受けるだけ。

 

狼に育てられた少女の話は、そういう教訓めいたエピソードとしても受け取れる。

 

無防備でノーガードで教化対象になり得るものは、教化という技術に欠けるまま教化というタスクを請け負う輩には、うかつに近づくもんじゃない。という教訓めいたエピソードは、征服民族はおっかないというイメージの流布にはぴったりなんだけど、時代は第一次大戦後で、征服民族の優位性だっていつ崩れるかわからない頃だったというところがミソ。

 

よーく観察すれば、単に利便性がよくて便利な土地で、有効利用が見込める。そういう場所なのに、近付くと危険あるいは危ない目に遭うぞと必要以上に脅しつけるのは、よーく考えなくても地上げ目的の人がよく使う手段。

 

うっかり近付くと危ない目に遭うぞと必要以上に脅しつける方は、じゃあその場所には近寄りもせず、ましてや居住するなんてもってのほかのはずなのに、なーんでその場所に固執するのかといえば利用価値があるからに決まってる。

 

征服民族の優位性だって、いつ崩れるかわからない時代情勢のなか。教化目的の征服民族が教化対象の被征服民族を動物のように扱い、教化なんて果たせずただダメージを負わせるという怖いお話は、マイナスイメージを広めるのにお役立ち。

 

教化は、技術のあるものが行うから効果がある。

 

在野で教化というタスクを請け負ったものよりも、正規の教化機関で教育機関が行うとより効果があり、マイナスイメージを帯びた怖いお話が流布するほどに、正規のものに対するプラスイメージは高まっていく。

 

生まれ育った土地でのーびのび。という地方豪族や藩王に近くなるほど、征服民族が営むといえども正規の教育機関に対する心理的障壁も低くなり、低くなると越境も厭わなくなって高等教育への道も開かれやすくなる。教える方としても、地方豪族や藩王とお近付きになると、何らかのメリットがあったに違いない第一次大戦後の揺れる世界。

 

ホニャララ(←偉い人)はお疲れですし、いささかでも軍事に関することについては一切お話できません。という認識が、いつ頃から始まるのか知らないけどさ。

 

話せないことが増えるとその代わりに、真偽は確かめようもない、何かに見立てたよくできたお話が重宝されるのは間違いない。

 

北米では、大陸横断鉄道が完成したことで、それまで半年はかかっていた大陸横断が一週間ほどでできるようになったんだとか。急いで移動したいし、急いで運びたい。そういう欲求が、極限まで高まる時期を舞台にしてるってところがまた、興味深い。