実写パートとアニメーションパートがひとつの作品の中に同居する、一風変わった映画『コングレス未来学会議』を見てきた。『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督が、SF作家スタニスワフ・レムの小説を映画化したもの。ぶっ飛んでた。
2014年、ハリウッドは、俳優の絶頂期の容姿をスキャンし、そのデジタルデータを自由に使い映画をつくるというビジネスを発明した。すでにキアヌ・リー ブスらが契約書にサインしたという。40歳を過ぎたロビン・ライトにも声がかかった。はじめは笑い飛ばした彼女だったが、旬を過ぎて女優の仕事が激減し、 シングルマザーとして難病をかかえる息子を養わなければならない現実があった。悩んだすえ、巨額のギャラと引き換えに20年間の契約で自身のデータを売り渡した。~映画公式サイトより引用~
実在する有名女優を主役に起用し、虚実入り混じりながらストーリーは進む。『プリンセス・ブライド・ストーリー』のお姫様役として、大人気女優となったロビン・ライトももはや四十路。出演作品を選り好みしてるせいで、人気もキャリアも下り坂。そんな彼女に大いなる転機が訪れた。
巨額のギャラと引き換えに、20年間の契約で自身のデータを売り渡すよう迫られる。
はい、ここで意味わかんない人はさようなら~。多分この後読んでも面白くないし、きっとこの映画にも向いてない。観客を選ぶタイプの映画だから。
自身のデジタルデータを売り渡すとは、つまり映画専用のフリー素材になること。そのために最高の笑顔や涙など、あらゆる表情をスキャンして映画会社に売り渡す。生身の女優や俳優は文句も言えば、スケジュールを擦り合わせるのも大変。でもデジタルデータになってしまえば製作者側の思うがまま。出演を渋ったあんな作品やこんな作品にもキャスティングできて、効率よく映画製作が進められる。
予告編でもピッタリとしたボディスーツに覆われたロビンが“スキャンニング”されるシーンが出てきてる。この、ロビンが自身のデジタルデータをスキャンニングされるシーンが実写パートでいちばんぐっと来た。お姫様女優として華々しく活躍したものの、ついには大成できなかった彼女の欠点を暴くとともに、彼女の救済にもつながっていた。誰かが救われるシーンは、いつでも感動的。
デジタルデータを売渡してから20年後、ロビンはかつてデジタルデータを売渡した映画会社から、『コングレス未来学会議』に招待される。ここからアニメーションパートの始まり。
ドキュメンタリーアニメーションの系譜に連なるせいか、それともアメコミ風のせいか。日本の萌えアニメと違って、カワイイはなし。アーティスティックでどこかキモチワルイ。面白くもあるけど。
ロビンが招かれた『コングレス未来学会議』とは一体何なのか。そこがアニメーションパートの見どころで、この映画の一番の肝。皮肉と風刺がきいて、ものすごーくスパイシー。
願ったことはなんでも叶いそうな、浮かれ騒いだ世界でありながら“アニメーションの世界”はもうもたないと予言されている。生産現場が疲弊しているから。誰かのための面白おかしい夢を作る人たちは、夢見ることもなく酷使されている。
夢のために自滅していく人が後を絶たないのなら、違うカタチで夢見てもらえばいいじゃない?そう考えた製作者サイドは神か悪魔か。
デジタルデータ女優として最も大成したロビンは、新世界の広告塔になることを期待されるけど、彼女もともとあれもイヤこれもイヤな人なのよね。。という訳で、新世界の幕開けになるはずだった『コングレス未来学会議』は、大混乱。ついでにロビンも錯乱してしまう。
錯乱のあげくとはいえ、見たくないものは見ずにすむ、何でも思い通りになる“あっちの世界”でロビンはそれなりに幸せそう。そのまま、夢見るように暮らしていくのも幸せの一種かもしれない。
でも自我、自分を手放せずに女優としても大成しなかったロビンは、夢見るような世界でもやっぱり自分は手放せない。デジタルデータのロビンを恋い慕っていたツバメが一緒でも、ロビンの心が求めるものは別。
享楽的な世界で、夢見るように楽しく過ごすことが幸せとは限らない人もいる。求めるものがそこになければ。
見たくない現実を直視してでも、最後にたどりつくのは大切な人のいる場所。大切な人を求めて互いにすれ違うあたりも、そうそう思い通りにはならない現実を踏まえていて、容赦ない。
全体的に“イカれた奴が夢見た狂気“風で、容赦なくお先真っ暗なディストピア世界を見せてくれる。お先真っ暗であっても、求めてやまない人がそこにいれば、心は穏やかでいられる。互いに求め合うもの同士が一緒にいることの奇跡、みたいなことも感じた。
音楽もよかった。ボブ・ディランの『Forever young』、映画見終わった後に歌詞かみしめた。ディストピア風ではあるんだけど、同時に求めることをやめるなというエールが沁みる。
『ソラリスの陽のもとに』も我が家にある、スタニスワフ・レム。小説は睡眠導入剤がわりで、表紙も中身もピッカピカなまま。アイデアは面白いんだけどね。。てんてんてん。となってる。リーダビリティあふれるとは言い難いから、映像の方が面白かった。
『コングレス未来学会議』の原作はこっち。
(DVDにブルーレイも、もう少し待てば発売される予定)
アニメーションパートを取り入れることで、より「それ」っぽくなってた。万人向きではないけど、ハマる人はきっとハマる。残虐シーンがあるかもと警戒してた『戦場でワルツを』も、見たくなった。