クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

高効率で豊かになる社会で、さぁ何しましょ?『スマホでサンマが焼ける日』読んだ

タイトルの勝利で、ついお買い上げ。

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 (本文とは関係のない画像。でっかいイチゴやでと見せびらかしたかっただけ。)

5年前だったらエイプリールフールネタかな?と一顧だにしなかったけれど、今だったらアリだと思う『スマホでサンマが焼ける日』。

 

スマホが普及して、手のひらサイズの高性能通信機器が行き渡ったら次に起こるのは、電気・エネルギー分野の大転換なんだってさ。電気を必要とする機器の形がワイヤード(有線)からワイヤレス(無線)に変われば、ライフスタイルも変わる。

 

一般社団法人エネルギー情報センター理事による著書だけに、多分にバラ色の未来を描き出すPR要素が強め。

 

そこは差し引き、あるいは眉に唾つけて読む必要あり。とはいえ“電力自由化”というとっつきにくい話題はスルーする人にとっても、2024年までには全世帯に設置されるスマートメーターの普及によって変わる世の中が、イメージしやすい内容になっていた。

 

スマートメーターが各家庭にやってくる

ライフスタイルが変われば、レガシーな印象が強かった電気・エネルギー産業の中身だって変わらざるを得ない。

 

電気使用量を検針するだけの簡単で単調なお仕事は、デジタル式のスマートメーターが各家庭に普及すれば不要となる。その代わり、デジタルでの自動検針が可能となり、30分ごとの電気利用データが取得できるようになるんだから、業界としては大きなビジネスチャンスが転がり込んでくる。

 

電気・エネルギー産業がビッグデータを直接取り扱うようになるんだから、お仕事内容だってデータサイエンティストへとアップグレードされる。

 

ビッグデータが転がり込んでくることによって、新しいお仕事が業界内にできるだけでなく、従来の電気使用量予想だってアップグレードが可能になる。

 

まずはスマートメータの普及によって、可能になる諸々が描き出される。スマホファーストで、すでにデジタルへシフトしたライフスタイルを送っている人にはイメージしやすく、アナログなライフスタイルを送っている人には、文字だけとイメージしにくいかもしれない。

 

電気データを、商取引に利用すると言われてもピンと来ないけど、そこは巧みな比喩、例えば

花キューピッドのシステムで遠くにいる人に花を贈れるように、あなたが送りたい人に電気を送ることができる

と言われれば、イメージもしやすい。

 

コストが安くなることで、活性化する産業がある

電気そのものを遠方とやり取りすることは難しくとも、デジタルデータのやり取りなら、遠隔地でも可能。飛脚が手紙を届けようとすると速度や距離にも限界があるけれど、電子メールになってデジタル化すれば、スパムメールだって送り放題になった。

 

スパムメールは悪い使い方の見本だけれど、エネルギーというコストが安くなることで、一気に実用化あるいは活性化する産業があるのも確か。

 

送電ロスが減り、エネルギーハーヴェスティングのようにごく微小なエネルギーでさえ電力に変換できる技術が可能になって、余剰電力を足りない場所に振り替えるような柔軟かつ高効率な電力利用が可能になることを誰よりも渇望しているのは、新しい産業。

 

スパコンにドローンにビットコイン、そしてEVに宇宙開発に植物工場と、既視感のある新産業群が目白押し。

 

名前だけはよく知ってる新産業群が、実用化し、産業として日本社会に定着するまでに必要な道程のひとつが、電気のデジタル化だったんだなということが、よくわかった。

 

スマホで操作可能な機器、言い換えればネットにつながる機器が爆発的に増えるのが、IoT(Internet of Things)の世界。

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その世界を、より細分化して具体的にイメージして障壁となる事柄をこまめに排除して、新世界を作り出そうと周到に準備を重ねてきたクラスタに、準備不足のクラスタが果たして太刀打ちできるのかというと、かなり疑問と不安も沸いてくる。

 

豊かな未来の形は、個々人が決めること

デジタル化によって豊かな未来が訪れる、おもにバラ色っぽい側面が強調され過ぎていて、そこにはちょっと引っ掛かりを覚える。

 

スマートメーターの普及によって到来する未来の形をPRするという目的は、十二分に果たした本。PRというものは得てして負の側面には目を向けないものだから、負の側面には敢えてスルーなところが引っ掛ってしようがない。

 

デジタル化によって、今まで以上に豊かな社会が訪れることも、無駄を省いてより高効率で豊かな社会に向かうことも、テクノロジーファーストで技術大国が資源大国に変わって覇権を握ることにも基本賛成。

 

だからといって、ライフスタイルを細部まで分析され、「お前はこういう生活をした方がいい」と、出過ぎたアドバイスをされると鼻につく。

 

Amazonのリコメンドに代表されるように、履歴から個々人の好みを予測した選択肢は、便利な反面頼り過ぎると、洗脳に近くなる。

 

高効率で豊かになった社会でも、「自分の頭で考える」ことは最後まで手放したくない。

 

Amazonのリコメンドなら趣味の範疇で済むけれど、電気・エネルギーのような社会インフラからのリコメンドには、“社会”からの要請も含まれていたらどうしましょ。三人寄れば社会ができるとはいえ、社会のために個人が存在するものでもなし。

 

ワイヤレス給電、エネルギーハーヴェスティング、VPPや果てはフォグコンピューティングといった用語を散りばめ、電力・エネルギー分野から考える未来の形をまとめた本。

 

平易だから、変わる世の中でお前は何がしたい?と、非理系な人が最初の一冊として読むのにちょうどいいけれど、眉に唾をつけるのはお忘れなく。

 

蓄電・発電設備が手のひらサイズにまで小さくなるのにかかる年月は、馬鹿でかいパソコンが手のひらサイズに収まるまでかかった年月よりどれくらい早くなるのかしらねぇと、渋茶すする。

お休みなさーい。