クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『しんがり 山一証券 最後の12人』読んだ

クリスマス・イブに読み終わりました報告をするには、全くふさわしくない本を読み終わった。

 『しんがり 山一証券最後の12人』は、2014年度講談社ノンフィクション賞受賞作。

「俺 たちで決着をつけよう」会社の消滅時に、最後まで意地を貫いた社員の物語。16年前、四大証券の一角を占める大手、山一證券金融危機のさなかに破綻 した。幹部たちまで我先にと沈没船から逃げ出すなか、最後まで会社に踏みとどまり、真相究明と顧客への清算業務を続けた社員たちがいた。彼らは社内から 「場末」と呼ばれ、煙たがられた部署の連中だった―。
本書は山一証券の司法部門、今でいえばコンプライアンス担当部署である業務管理部所属メンバーを主人公に、倒産にいたる一連の違法行為の調査・究明過程に肉薄した本。
 
 
議事録、あるいは関係者による詳細なメモをもとに再構築されたためか、その場にいるかのように臨場感たっぷりだった。
 
 
ノンフィクションとはいえ、そこは著者の主観が入っているので、著者の年齢に近い人ほど、感情移入できそう。
 
 
貧乏くじを引いた真相究明チームである”ギョウカン”メンバーには肩入れする一方で、社長などトップに対しては冷淡。その視線は、ノンフィクションとはいえあんまりフェアではないように感じた。
 
 
あの当時、不良債権を抱えた企業は他にもたくさんあったけれど、山一は、「簿外債務」というインモラルな行為が仇となって市場から退場させられた。
 
 
山一のような大きな会社がなぜインモラルな行為に手を出し、ついには崩壊してしまったのか。本書を手に取った理由はそこにあったので、敗戦処理にあたっての美しい出処進退にはあまり興味がわかなかった。これは個人の感想です。
 
 
実は同時代性というものをあまり信用してない。期限を切って解決しなければならない問題があった時は、ていのよい落としどころが用意されるものだから。
 
 
だから、自主廃業騒ぎから相当な年月がたち、関係者が今なら明かすことができる画期的な何かがあるかと期待して読んでたけど、見事にその期待は裏切られた。
 
 
山一のように大きな組織ともなると、インモラルな行為でさえ「業務の一環」として、淡々と遂行されてるだけだった。
 
 
一部個人の葛藤も露わにされているけれど、どっちかというとそれは、「どうしてこんな間の悪い時に居合わせたのか」という、担当役員の嘆きだったりして、当事者意識がすっぽり抜け落ちていた。

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 ある意味とても組織らしい話で、組織に絡め取られた個人からは、私人としてのモラルが失われていた。私人としてのモラルが失われた組織からは、公としてのモラルも失われ、最後は市場の信頼も失った。巻き込まれた真っ当な人は、たまったもんじゃない。
 
 
たまったもんじゃないという意識が、簿外債務発生に至った詳細な『社内調査報告書』作成に向けられた。
 
 
清算が決まった会社での不正原因究明という不毛な作業に、進んで協力する者は少なく、心ない人は良い機会とばかりに個人の不正をあげつらう。
 
 
会社の終わりという事態を迎えてさえ、『簿外債務』発生という大きな不正の究明よりも、個人の溜飲を下げることを優先させる。うんざりするような人達とのやりとりを経て、600ページという大作、『社内調査報告書』が出来上がる。
 
当時の監督官庁である大蔵省からは、非公開にするようクレームを受けながら。
不正防止のために実施してる検査が、お手盛りだってことがバレバレになるから。
 
 
客観的に見れば貧乏くじを引いた、調査チームの”ギョウカン”メンバーだけど、本人達に貧乏くじの意識は乏しい。
 
 
コンプライアンスにより厳しくうるさくなった現在から見ると、当時の無策、いい加減ぶりは信じがたいレベル。真面目な人なら血圧上がりそう。
 
 
今日も明日も明後日も。同じ毎日が続くと思ってなければとてもできないようないい加減さを露わにすることで、過去に引導を渡した。
 
 
将来に禍根を残すものをすっかり露わにした。嫌がられながらも。その自負があるから、”ギョウカン”メンバーたちは、清々しく描かれている。
 
 
かつての”業界の雄”で起こった出来事だから、その教訓は業界健全化に生かされた。完全ではないにしても、そう信じてる。
 
 
潰れるはずがないと思われてきた会社が潰れる。不安定さが増せば、これからも起こりうる。会社の終わりにどんな残念なことが起こるのか。知っておくと、もしもの際にも呆然としなくてすむ。
 
 
破綻した金融機関勤務の人を積極的に採用しようとしてた動きもあって、あの当時の出来事は暗いことばかりでもない。
 
 
当事者にしかわからないこと、でも明かせないこともたくさんあって、そんな時は記録、メモを残しておくに限る。
 
 
のちのち人の目に触れることを計算尽くで、自らの潔白を議事録などの公的記録に残しておく。そうした高等テクニックに対抗するためにも、納得のいかないことはとにかく記録に残しておくこと。
 
 
十数年たって日の目を見る。そんなことも世の中にはあるわけだから。
 
 
クリスマスは過去の亡霊の声を聴く日。案外クリスマスにふさわしい本のような気もしてきた。
 
 
メリークリスマス。

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