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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

風変わりな贋作師にしてアウトサイダーアーティストを描いた、『美術館を手玉にとった男』見てきた

実在するスゴ腕贋作師を主人公にしたドキュメンタリー映画、『美術館を手玉にとった男』を見てきた。古い宗教画から、印象派にディズニーのようなカートゥーン風のイラストまで。あらゆるジャンルの贋作に長け、その腕があれば素晴らしいオリジナルだって生み出せそうな人が、なぜ贋作にのめり込むのかに迫ってた。

 

スゴ腕贋作師のマーク・ランディスは、ロードオブザリングに出てくるゴラムのような風貌で、見た目だけでなくその生活スタイルも一風変わってる。


映画『美術館を手玉にとった男』予告編

贋作制作に執念を燃やすランディスと、彼を追うことに執念を燃やす人々。そして彼に騙された人々。彼ら自身や社会が持つ歪み、苦悩、そして良心が、ユーモラスかつ鋭く描かれるドキュメンタリーが幕を開ける。(フライヤーより引用)

 ユーモラスというより、終始哀しみを感じたよ。。

 

マーク・ランディスは、ゴージャスかつチープで乱雑に散らかった部屋にこもり、暇な時間のほとんどを贋作作りに費やしてるような人。他に家族もなく、孤独。十代で統合失調症を患い、現在も治療を受けている。恐らくは遺産のおかげで生活には困ってない。「善意の贋作師」とも呼ばれ、お金や自己顕示欲といった、従来の贋作師のイメージを大きく裏切る人物。本人を目の前にしたら、どう考えても怒りは沸いてきそうにない。だってこの人、めちゃくちゃ孤独だもの。

 

自分が描いた贋作を、「遺産として相続した美術品を寄付したい」と、もっともらしい嘘とともに美術館に寄贈してまわる。その数30年間で46の美術館に100点以上なり。材料となる画材は持ち出しだから、実質赤字。美術館行脚の旅も全米に渡るから、旅費だってかかる。寄付だから、自分の懐はちっとも潤わない。なのになぜそんな奇妙なふるまいを続けるのか。

 

この映画は、風変わりな人物の奇妙な行動にフォーカスしてるので、実はあらすじほどの躍動感もなく、マーク・ランディスに興味が持てなかったら退屈さえ感じるかもしれない。間違いなく万人受けしない。

 

マーク・ランディスに迫る追跡者、わりとあっさり接触に成功してる。隠れはするけど逃げはしない。聞かれたことにもちゃんと答えてる。史上まれな贋作事件(でも経済的損失はないので、実は事件性薄いんだけど)を引き起こした人物としては、ものすごく風変わり。承認欲求や自己顕示欲も、ないわけではないけど薄い。認められたーい!!!という魂の叫びみたいなものも薄い。

 

贋作という、言ってみれば反社会的な行動も、彼にとっては習慣で気晴らしで、欠かすことのできない生きがいになっている。生きがいだから、彼を非難するのは難しい。

 

贋作師と考えれば腹立たしい存在だけど、稀代のアウトサイダーアーティストと考えれば貴重な人材。彼に騙された美術館サイドの人たちも、彼にオリジナル作品を書くようすすめるくらい。ランディスの技量が素晴らしく、彼を贋作師で終わらせるのはもったいないから。

 

説明のつかない行動、非合理的な行動をとる人物にはそれなりの深い理由があり、その理由を受け入れた上で、マイナスをプラスに転じようとするところまで描いてた。なぜランディスは美術館への寄贈を続けたのか。その理由を知ってしまったら、彼を単なる贋作師に終わらせることは、教養ある美術人だったら罪深いことのように思えてくる。贋作師ではなく稀代のアウトサイダーアーティストとして、世の中の人に知ってほしい、ランディスを認めてほしいという、ヒューマニズムも感じた。

 

正規の美術教育を受けてない人、くらいの意味でアウトサイダーアートという言葉を使っている。定義はいろいろあるらしいけど、有名どころではヘンリー・ダーガー山下清が思い浮かぶ。

 

つい先日Twitterに流れてた、この絵なんかもそうかもしれない。

カフェに飾ってあってもいいような絵。わりと好き。びっしり書き込み系の絵、乏しい知識をもとにしたアウトサイダーアートでは、わりとよく見るタイプのような気がする。

 

宗教画から印象派まで。いろいろなタイプな絵の模写に長けたランディスなら、従来のアウトサイダーアートとはまた違った、新しいタイプの絵が描けそうと期待してしまう。

 

誰からの指導も受けず、贋作とはいえ独力で才能を開花させたランディスの、制作過程も興味深かった。贋作とはいえ熱量を持って制作してる。熱量のこもらないオリジナル作品と、相当の熱量を持って作り込まれた贋作と。それでもやっぱりオリジナル作品の方が評価されるなら、彼が熱量のあるオリジナルを作ればいい。作れるようになって欲しい。

 

一風変わった人物を追い、その人物に迫りながらも注がれるまなざしは優しくて、間違った印象を持たれないよう注意深く描いてるようだった。テンポよく進まないのは、きっとそのせい。

 

シアターキノにて鑑賞。2月12日(金)まで上映予定。

 

お休みなさーい。