クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

シーニックバイウェイ

北海道限定の謎ワード、シーニックバイウェイ。景色のいいドライブウェイ、くらいの意味で理解してる。広義ではシーニックバイウェイのひとつに入るのかな?というルートを使って、ニセコに行って来た。

f:id:waltham70:20180527000915j:plain

札幌からニセコに行くルートには二通りある。国道230号線から中山峠を越えてニセコに入るルートと、札樽道から毛無山を越え、赤井川村を経てニセコに入るルートと。今回選んだのは、赤井川村を経てニセコに入るルート。

 

国道393号線はメープル街道と名付けられていて、紅葉の季節はきっと見事なんだろうなと思わせる景色を横目にしながら、ニセコに入る。今は新緑が見事。春先だから、たんぽぽや名前も知らない野の花、あるいは雪解け水であふれんばかりの清流、たいそうきれいに手入れされた花いっぱいのフォトジェニック農家の姿が点在している。なるほど、この景色がシーニックバイウェイなんだな。

f:id:waltham70:20180527001044j:plain

これは新緑のイメージ画像。

グネグネとした山道を越えながらなので、写真を撮ってる暇はなし。とはいえ、ニセコ連峰の一部がきれいに見えるポイントでは車が止められたりと、景色に対する配慮もなくはなかった。

f:id:waltham70:20180527001049j:plain

めざすは、藤倉英幸展を開催中の有島記念館。

f:id:waltham70:20180527001116j:plain
f:id:waltham70:20180527001023j:plain

大正時代前期に、白樺派の作家・思想家として活躍した有島武夫。元薩摩藩士の官僚で成功した実業家を父に持った、学習院出身のお坊ちゃん。その時代にあって、アメリカ留学やヨーロッパ遊学を経験していた特権階級で、彼がいかに恵まれていたかは、残された有島記念館を見てもわかる。

f:id:waltham70:20180527001102j:plain

これらがパパからの贈り物。の残滓。
f:id:waltham70:20180527001120j:plain
f:id:waltham70:20180527001106j:plain

立派な建物とだだっ広い地所、そして地所から望む素晴らしい景観からは、最初期の入植にあって“いっちゃんいいもの”を遠慮なく選べた人の立場が透けて見えるよう。こんなに立派な建物と場所だと思ってなかったから、びっくりした元農場。

 

東北以北には、持てる者が私財をつぎ込んで開拓した近代日本の来歴が色濃く残る歴史的遺物が結構残されていて、きっとそれは巨大資本による再開発を免れてきたからなんだろうと思ってる。

 

それはともかく。

 

JR車内誌の表紙でおなじみのアーティスト、藤倉英幸。北海道に来てから始めて知った作家さんで、多分ローカルでの知名度は抜群に高いと思われる人。色使いがきれいで、好き。

 

作品は“はり絵”の技法で作られていて、版画やポスターではわからない、オリジナルならではの趣が間近に感じられて、とっても満足。じっくり見てきた。版画やポスターだと、のっぺりつるりん。原画にははり絵ならではの凹凸があって、手間暇かかった細かい手作業が確認できる。

 

デフォルトされた、北海道の四季を描いている人。

f:id:waltham70:20180527000907j:plain
f:id:waltham70:20180527001110j:plain
ビフォー、アフター。

雪が降る広大な原野。住むのは大変でしょというネガティブ面を、でもきれいだよ?のひと言でプラスに転じる魅力を放つ。とか言ってみたりして。

 

翳り、あるいは闇がちっとも感じられないところが好き。

 

光差すところ必ず影が現れるものだけど、影でさえ榛色とか呼びたくなるような“色“がちゃんとついている。誰もが知り、巨億の値段がつくオールドマスターの作品は、そりゃ美術史的には貴重で高価なものかもしれないけれど、時に暗過ぎて「きれいねー」とはとても言えない。闇深過ぎ。

 

有島武郎つながりで、岩内町の木田金次郎美術館でも期間限定で(2018年5月27日まで)藤倉英幸展を開催中。『生まれ出づる悩み』のモデルとしても知られる、木田金次郎。作品中ではずいぶん酷い扱いを受けていて、社会矛盾に敏感だった有島らしさが、思えば凝縮されていた。

 

文庫では同時収録されている『小さき者へ』が結構好きだったけれど、今読み返すとわりと複雑な気持ちになる。

 

母を失った我が子を不憫がる有島には、妻を失ったとはいえ母が健在で、彼にとっての幸福は母が健在であることだから。

f:id:waltham70:20180527001058j:plain

これは白樺林。

有島武郎の代表作、ついでに『暗夜行路』と並ぶ白樺派の代表作は『或る女』で、自我あるいは自己の確立こそが白樺派の特長なんだと文学史で学んだもので。『カインの末裔』を推されてもなぁ。。という気持ちも去来する。

f:id:waltham70:20180527001054j:plain
f:id:waltham70:20180527001030j:plain
ブックカフェからの眺め。

保守=個人への抑圧で、個人に対する干渉に躊躇いがないのなら、どれほど革新を標榜して改革派に属していても、結局は保守。宗教的あるいは歴史的経緯があるとはいえ、21世紀の今さら人工妊娠中絶が国民投票にかけられるアイルランドが、ヨーロッパでもっとも保守的と言われるのもよくわかる。

 

自らも農場を経営しながら社会矛盾にも敏感で、それでいて出自から労働者や農民の立場には絶対に立てないからと、最後は農場を解放するとか。己に正直過ぎ、有島武郎。社会矛盾には敏感だけれども、労働者や農民と決して同化できないという自我や個人の選択が許されるには、生まれるのが百年早かったかもね。かもかも。今だったら、資本家にしかできないお仕事ができたのにね。

f:id:waltham70:20180527001039j:plain

農場解放を宣言した歴史的舞台の弥照神社も、現在は観光ルートに。

資本家にしかできないお仕事があるから、労働者や農民に迎合せず社会矛盾に敏感な資本家としての発信や活動が許される、本邦におけるソーシャライツの最初期の例にも見えてきた。

 

お休みなさーい。