人気漫画『ONE PIECE』を新作歌舞伎にして、さらに映画化した『スーパー歌舞伎Ⅱワンピース』を見てきた。
ONE PIECE×歌舞伎!映画『シネマ歌舞伎 スーパー歌舞伎II ワンピース』予告編
兄弟愛と友情と師弟愛と。FriendshipにPartnershipで、Ship、Ship、Shipと海賊だけに船がいっぱい。彼らが乗ってるのは、友情と友愛の船なんだね。
大人気とはいえ、『ONE PIECE』については、“麦わら帽子の少年ルフィが主人公“くらいしか知らなかった。ルフィの本名も、今回初めて知ったくらい。猿之助がルフィを演じるのも、何かの運命か。
ライブで観れた人が羨ましい反面、映画ならではの編集もあって、ONE PIECE初心者が見るのにちょうどよかった。贔屓のキャラが登場するだけで盛り上がれる通じゃないから、無編集のライブだと何が何やらさっぱり???の可能性もあったかも。何しろ登場人物がいっぱいだったから。
ルフィと仲間たちは、大秘宝ワンピースを探す大いなる航海の途中。しかし、シャボンディ諸島での海軍との戦いでルフィと仲間たちは散り散りになってしまう。
一人になったルフィは兄エースの処刑宣告を知り、救出のため監獄インペルダウンへ向かうが、エースはすでに海軍本部マリンフォードへと移送された後であった。
エースを救おうとする海賊団やルフィと、海軍の間で壮絶な戦いが今始まる!(シネマ歌舞伎公式サイトより引用)
衣装も音楽も全然歌舞伎じゃない
“スーパー”歌舞伎だけあって、当たり前の歌舞伎とは何もかもが違ってた。衣装にびっくり(@_@)音楽にびっくり(@_@) パンチにアフロに金髪に青い髪と、自由過ぎ。スーパー歌舞伎を創出した自由な市川一門こそが、海賊王を演じるのに最もふさわしい。
時折鳴り響く柝の音(きのね)の乾いた音が、そういや歌舞伎だったねこれは。。と思い出させてくれる。
歌舞伎らしい衣装をつけてる人が、そもそも殆どいない。衣装デザインをする人は、さぞかし楽しかったのではなかろうか。エース役を演じる福士誠治はカッコいい現代風の衣装なのに、ルフィ演じる市川猿之助は、奴(やっこ)さんみたいであんまりだ。。
主人公だけは、濃厚に伝統の衣をまとってた。
キャラクターの名前が出てこなくて説得力に欠けるんだけど、地下帝国のシーンはまるでミュージカル。歌舞伎見に来て足でリズム取るとは思わなかった。しかも衣装も大胆で、ドラァグ・クィーン風でヘドウィグ・アンド・アングリーインチ風。
大衆に近いエンタメは、敏感に貪欲に、大衆が好むものを取り入れてくる。その心意気さえあれば、メインカルチャーとサブカルチャーが入れ替わったとしても、きっと続いていけるよどこまでも。
二次元の壁に、正面から挑んでいく伝統芸カッコいい。
二次元には重力がないから、キャラは簡単に宙を飛んで、変幻自在に姿を変える。漫画だから楽しくゲラゲラ笑える表現を、重力のあるヒトが演じるのは難しい。重力もあれば生活という重荷も抱えてるヒトは、簡単に空を飛んだりできない。猿之助、宙を舞ってたけどね。
一切の重みを感じさせずに、二次元の世界と遜色ない動きを見せるには、子供の頃から鍛えに鍛えた人たちが最適なんだ、やっぱり。重力を感じさせずに、花道でバク転を繰り返す人、飛んだり跳ねたり、チャンチャンバラバラやったり。
そもそも歌舞伎は、身体を使って演じる芸。身体能力の高さとキャラ立ちした歌舞伎メイクが相まって、二次元に限りなく迫っていく。伝統に裏打ちされた鍛錬と身に着けた型で、彼らなら二次元並みの無重力を手に入れられるのかも。
福士誠治をはじめ、普通の俳優さんも出演してたけど、彼らはやっぱり“重い”んだ。イケメン担当だからそれでいいとはいえ、地に繋がれたかのようで、飛んだり跳ねたりしない。できない。
軽やかに宙を舞えない、変幻自在に姿を変えることもできない。ハリウッド並みのVFXで誤魔化すことも無理っぽい日本では、重力に囚われた人があがくしかない。
水まみれの戦闘シーン、ライブではどう表現されていたのか。
高くそびえる二次元の壁に、舞台全体で真っ向から挑んでいるからいい。14歳の頃夢中だったものに、もう一度熱狂するのは難しい。単なるアニメ映画化だったらきっと見に行かなかった。誤魔化しのきかないライブだから、どうなるのか見たかった。
型があるから、変幻自在。
ルフィだけでなく、女帝ボア・ハンコックに赤髪のシャンクスと、猿之助は三役も演じてる。どれもルフィとは性別も年齢も違う役。
型がしっかりしてるから、アレンジ自在に演じ分けている。正義の役柄を演じるに必要な要素がわかっていれば、その逆の悪役だって演じられる。若者役に必要な要素が身についていれば、そこから年齢をプラマイするのも自在。型が身についている人は、何にだって化けられるんだ。伝統芸強し。
ストーリーよりも、型破りの舞台を楽しんだ
ONE PIECE通であれば知識で補うこともできたに違いないけど、なにしろこちらはルフィの名前しか知らなかった人。詰め込まれたストーリーに、ついていくのが精いっぱい。漫画のように、説明セリフがスクリーンに映し出されていて助かった。
わかりやすかったけど、ライブではどう処理してたのか???
セリフも多く、歌舞伎らしい口上や見得も少な目。そういう意味では、限りなく普通の舞台に近かった。歌舞伎の伝統芸に慣れた人が見たら面食らうけど、歌舞伎ビギナーの人にとってはきっとワクワクする。
ルフィの強さや能力については、よくわからないまま。しょっちゅうハグしては仲間を増やしていたので、それが彼の能力なんだと納得するしかない。主役であるルフィよりも、白ひげ(=エドワード・ニューゲート)とエースに焦点をあてたストーリー。彼らのための花道って感じー。それと、海賊たちの結びつきの強さとにスポットをあてていた。
窮地に陥った仲間を救おうと、全力を尽くすルフィ達。
白ひげとエースを救うために集結した海賊たちの船は、助けられてきた者たちが今度は助けようとする姿。愛を捧げる対象が具体的な人たちに、博愛主義者は太刀打ちできっこない。人類全体に対する愛より、顔の見える友人・知人や家族に対する愛の方が、ずっと深いのさ。
メインカルチャーがサブカルチャーを取り込んで、進化していく番がやってきた
かつてイロモノ扱いだったサブカルチャーは、音楽・文学・ファッションと、メインカルチャーを取り込むことで進化してきた。
著名な音楽作品や文学作品をモチーフやテーマにして、メインカルチャーの人をうならせてきたからこそイロモノ扱いから昇格して、評価されるようになったんだ。
アニソンが売れ、小説などの文芸作品よりもコミックが売れる、メインカルチャーとサブカルチャーがすっかり入れ替わったこれからは、その逆の現象が起きる番。
サブカルチャーを取り込んだメインカルチャーが、進化して評価される世の中へ。
流行りや人気に迎合しているわけではなく、そうでなきゃ生き残れない。大衆に近いエンタメほど敏感で貪欲だから、きっとこれからも見たことのない新しいものを生み出してくれる。
ライブで見れた人がやっぱり羨ましい。けど、シネマ歌舞伎という編集が加わった作品だからこその見やすさもあって、個人的にはこれくらいの距離感の方が落ち着いて鑑賞出来たから良かった。上映時間は2時間弱。札幌シネマフロンティアにて11月11日(金)まで。
ところで冒頭に出てきた人魚、どこ行っちゃったんでしょうね???それだけが気がかりさ。
お休みなさーい。