クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『花、香る歌』見てきた

ロマンチックなタイトルと、可憐な立ち姿のヒロインに惹かれて見てきた『花、香る歌』。

 

19世紀後半の朝鮮時代末期を舞台に、タブーを破って伝統芸能“パンソリ”初の女流唄い手となった、実在の人物を描いた伝記映画。地理的には近いのに、その国の文化や伝統についてはほんとに何にも知らないな、と思い知らされる作品でもあった。

朝鮮時代末期。女性が伝統芸能のパンソリを唄うことは固く禁じられていたが、あきらめきれない少女チン・チェソンは、性別を偽りパンソリ塾の門を叩く。紆余曲折の末に朝鮮最高のパンソリの大家シン・ジェヒョのもとで修業を積むチェソン。1867年、時の権力者・興宣大院君が主催した宴に、危険を冒して臨むが・・・・・・。

最後まで夢を信じる少女と、命がけで支えパンソリの全てと愛について教えた師匠。そして、ふたりの運命を握る絶対的な権力者。知られざる実話が、いま美しくスクリーンに花開く――。

(映画公式サイトより引用)

 

“知られざる実話“となっているので、本国でもさほど知名度の高い人物ではないのかもしれない。パンソリという伝統芸能も、日本人にとってはなじみが薄い。ユネスコの「人類口伝および無形遺産傑作」に選定されてるくらいなので、歌舞伎や能楽人形浄瑠璃文楽と同じような位置づけと思えばいいのかも。


映画『花、香る歌』予告編

現代の歌舞伎や能楽人形浄瑠璃文楽も「かしこまって」観るものになっているけれど、そもそもは娯楽の少なかった時代にあって、庶民を楽しませてきたもの。そこはパンソリも同じ。集落のちょっとした集まりに欠かせないエンターテイメントとして、パンソリが庶民の身近にあった時代を舞台にしてる。身近にあったから、のーびのび。

 

大らかに、あるいはことさら哀し気に。単純な鼓のリズムに合わせ、身振り手振りで「物語」を唄い上げる。

 【公式サイト】映画『花、香る歌』4月23日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー

(↑上記にてパンソリの説明あり)

今では伝統芸能だけど当時は流行歌でもあったから、悲恋や悲喜こもごもの人生がテーマ。庶民に近い芸能だから、パンソリにがっちりハートをつかまれたのも、幸薄き女の子であったチェソン。この映画のヒロインで、韓国のトップアイドルのひとりだそう。そうか、アイドル映画でもあったのか。。

 

正直パンソリにハートをがっちりつかまれることはない。のれない。初見から2時間では、パンソリとはこういうものだと理解するのでせいいっぱい。

でも、チェソンの一番の見せ場である“時の権力者・興宣大院君が主催した宴”で彼女が唄う姿は、確かによかった。女性は唄うことを禁じられ、男装までして極めようとした芸の道。ようやく晴れやかな舞台で存分に唄う喜びにあふれていて、パンソリっていいものだな、これなら笑えるし泣けると思った。

 

とはいえ観客を飽きさせないストーリーに撮影テクニックにテンポと、リッチになったエンターテイメント性あふれる他の作品と比べると、退屈さを感じたのも事実。ズートピアとか、決して引き合いに出してはいけない感じ。そもそも見てないけど。

芸の道を極めようとするあまり、人と人との感情のぶつかり合いは後回し。激情は、パンソリに込めるものとの隠しメッセージか。

唄い手としてのチェソンは、大きな欠落を抱えつつ権力者の庇護下にあった時代の方が優れていたのか。それとも、ただ唄える場所を求めて師匠シン・ジェヒョとともにあった時の方がアーティストとして優れていたのか。そこにもっと突っ込んでくれてたら、アーティスト映画として、さらに深みが出たのにな。

そこは、”宮廷お抱え”として唄うシーンは出てこないところから察するべきか。曖昧なものは曖昧なままにするところには、日本映画に通じるアジアっぽさが濃厚かつ、観客の想像力にゆだねるタイプの作品なので、見る人を選ぶ。

 

しかーし、この映画全体を、流麗な作風を得意とする少女漫画家に描かせたら、叙情あふれる大変ステキな作品になるのではないかと妄想がほとばしった。例えば清水玲子とか。

 

目に星、背景に花がよく似合い、時々ギャグが混じる。喜劇要素はあっても全体としてはシリアスで、セリフ少な目で絵で語らせる。そんな感じ。

 

ヒロイン・ヒロインの師匠・権力者と、主要登場人物はそれぞれ欠落を抱えていて、想いはそうそう報われることがない。

 

身分違いの恋でも待ってるかと思いきや、ヒロインのチェソンが追い求めたのは、最後まで芸の道。

 

人が、誰かや何かに深い愛情を感じるのは、自由を与えられたとき。

 

女人禁制の掟をやぶってチェソンをパンソリの唄い手に育てあげた、師匠シン・ジェヒョとの師弟愛と呼ぶにはもっと曖昧で、哀愁もあって、複雑で深く結びついた関係は、実に実に少女漫画向けだと思うんだ。

 

例えばチェソンがのびのびと唄う姿。思うように声が出ないチェソンを労わるように鼓でリードする師匠ジェヒョの姿。チェソンを手放した時の大院君の姿と、絵になるシーンがいくつかあれど、そのことごとくが少女漫画的で、少女漫画脳にはわりかしおすすめできるかも。※これは個人の感想です。

 

あんまり見ない時代劇、それもよく知らないお隣の国のものであったものの、これはこれで好き。Aラインのスカート(というより袴?)がふわっと広がる衣装も、ヨーロッパのドレスちっくで、着物とはまた違ったよさや華やかさがあった。

 

花は、香るから花なんだってさ。

 

お休みなさーい。