そして王子様とお姫様は幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃん♪では終わらない。いわばシンデレラ・ストーリーその後の日々という感じで、なかなかにサスペンスフルな映画でございました。
ア ルフレッド・ヒッチコック、マリア・カラス、アリストテレス・オナシス(JFK夫人ジャクリーン・ケネディと再婚した海運王)に、シャルル・ド・ゴール仏大統領と、歴史上の有名人もたくさん登場し、国際謀略もの好きとしても満足した。
心労は人を老けさせるもの。そう思えばオッケイ。
とはいえニコールも大変お美しいので、そのゴージャスな衣装ともども目の保養になった。ハートマークを3つはつけ加えたいくらい、キラキラ成分が補充された。
この頃のモナコは国庫が空に近かったとか。そういうのは映画でも明かされているけど、そこになぜオナシスが絡んでくるのかの説明はすっ飛ばしてるので、豆知識で補うしかなかった。衣裳やジュエリーに夢中になってて気付かなかった可能性もあるけど、多分詳しくは触れてない。
グレース・ケリーを描いた映画なので、夫であるレーニエ大公とオナシスのカジノをめぐる確執を始めとして、「男の事情」は大体すっ飛ばしてる。
大事なことはいつも黙ってるよね、あなた。
なじったところで危機が消えるわけじゃない。
「男の事情」を細かに知らされていたとは到底思えないグレースが、
それでも家族や新たな”ホーム”となったモナコを守るためにがんばる。平和的手段で闘う姿がよかった。
愛する場所には、爆弾より花でしょ。
グレース、オスカーまで獲っちゃうくらいだから、女優としてのキャリアを極めた人。つまり、キャリア女性でもあった彼女の側面をちゃんと描いてた。
いろいろと恵まれた女優であっても、そういつも良い監督、良い脚本に恵まれるとは限らない。
良い映画にするために払ったであろう努力を危機にも役立てて、”役作り”に励んでた。投げ出したら、駄作が出来あがって全てが台無しになって、そこで終わりになるだけだから。
これ、モナコ公妃を演じる上で、彼女の人生の中でも最も演技力が必要とされた、ハイライトシーンを切り取って映画にした。そうも思った。
グ レースは結局スクリーンに戻ってくることはなかったけど、この時演じた公妃以上の難役かつ演じ甲斐のありそうな役なんて、きっとそうはめぐりあえない。それに、片手間に映画になんて出てられないほど、モナコ公妃としての生活は、演じ甲斐があったはず。陰謀うずまく宮廷生活を、リアルにおくってた人ですか ら。
この映画は1962年の設定になってる。1962年といえば、第三次世界大戦、核戦争に最も近づいたと言われるキューバ危機が勃発した年。
アメリカVSソ連、およびソ連の代理としてのキューバ。資本主義・自由主義陣営VS共産主義・社会主義陣営という冷戦構造の中で、米仏関係は冷え切っていた。フランスの大国化、第三極化は世界のパワーバランスを崩すから、アメリカは常にフランスを牽制していた。
そんな、世界が異様な緊張に包まれていただとか、小国モナコの行く末が世界のパワーバランスにも関わっていただとか。その辺の「大人の事情」も華麗にすっ飛ばしてて説明足りないんだけど。男なんて大体そうよね。
その辺盛り込んだら、国際謀略ものとしてもっと面白かったかなーとちょこっと思う。思うけど、一国の命運どころか期せずして国際謀略の場に引き摺り出されてしまった、いち女性の決意として見るから面白くもあった。
策をいろいろとめぐらすのはいいんだけどさ、大事なこと忘れてませんかね、もっと足元見てよね、と。
映画化にあたっては、事実に反するとして、現モナコ大公から抗議もあったとか。どこまで嘘かほんとかわからない。
わからないけど、良き家庭人であったといわれるド・ゴール大統領の心を動かすには十分な演技を彼女はした。そう考えとく方が、おとぎ話好きとしては楽しい。
おとぎ話を愛してやまない世界中の女性票を背後に背負った、グレースの影響力を無視できなかったという現実路線より、そっちの方が夢がある。
アメリカ人観光客という、ドル箱をたっぷり背負って嫁いできたグレースの、一世一代の大舞台にアメリカの国防長官マクナマラが居合わせる。それも、下衆な方向へと想像の翼がどこまでも広がって行く、よい趣向でございました。
グレースの夫・レーニエ大公は、怒ってることの方が多いし横暴だし、いつも忙しそう。でも、セレブ婚なんてそんなもの。家族も大切にするけど、家族と同じくらい大事なものもテンコ盛り背負ってる人が相手なんだから。
ガッツも才覚も要求されるのが、現代のシンデレラ。
そして王子様とお姫様は幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃん♪の夢を見がちな、セレブ婚志向のある人が見たら、性根もすわるんじゃないかな。
結局はオナシスとの愛に破れ、よりによってJFK未亡人にもってかれてしまうことになるマリア・カラスとの差は、一体どこで広がったのか。
登場人物が無駄に豪華なだけに、考えなくてもいいことまでつい勘繰ってしまう、歴史好きゴシップ好きにとっては想像の翼がどこまでも勝手に広がっていく、そんな映画でもあって堪能した。女性ファッション誌で培った豆知識、こんなところで開花するとはね。