クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

恋しくて

村上春樹が翻訳した恋愛をテーマにした小説に、自身の書下ろし短編も加えた計10篇の恋愛アンソロジー、「恋しくて- TEN SELECTED LOVE STORIES

 

ベッドの中のキスを思い出すような、官能が色濃く立ち昇ってたらどうしましようとちょっと心配した。でも、「恋しくて」というタイトル通りの、もっと初々しい恋バナが多かった。もちろんちゃんとした大人の、一筋縄ではいかない恋も有り。

 

各話の最後に、恋愛甘苦度(甘いか苦いか)を星付きで表した訳者の寸評つき。これって心の中のどの引出しにしまえばいいのー?って思うような掌編も、こうしたベンチマークがあれば、ものすごい読み違いすることもないから親切だなーって思った。そうしたベンチマーク参考にしながら「自分はこう思った」組み立てていけばいいんだし。

 

ラストシーンに拍手喝采したくなる、幸福度満点の「愛し合う二人に代って」。

 

ひそやかな恋のお話しだと思っていたら、一体どこに着地するの???っていうくらいスケールの大きなクロニクル読んじゃいましたっていうアクロバティック読後感の「L・デバードとアリエットー愛の物語」の二編が特に好き。

 

西洋人だって、誰もが自然にいちゃこらベタベタできる訳ではないっていうのが良くわかる、「甘い夢を」も良かった。新しい関係性が始まったばかりの頃の不安な気持ちが丁寧に描写されてて。

 

そういう気持ちは最初期にしか味わえない、恋愛の最良の部分だよなーって思うから。思い通りにならないし、力任せでわからせるのもちょっと違う。わかって欲しいっていう相手への期待が、むやみに高い時期特有の、もどかしいような心持ち。と、分析はできても応用はできない時期って誰にでもあるよねーって一般化しとこ。

 

世界の真ん中で愛を叫ぶ人がいたら、あほちゃうかって思うだけの理性は一応持ってるんだよね。これでも。

 

ただ、見たことないもの・どう判断すればいいかわからないものに出会ったら、とりあえずダメ出ししとく。そういう対処方法続けてたら、そりゃ見慣れた景色ばかりになりますよ、とも思うから。

 

いいな、素敵だなって思ったら、ブラボーって拍手喝采して。いいな、素敵を着々とストックしていってる。そんで、いつか感受性が枯れ果てた時にはそのストック取り出して、ああそういえばあの頃はこうだったわねーって思い出して楽しむの。これ、自家発電的感受性の保ち方。

 

恋するザムザも。キモ可愛くて良かったなー。

 

恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES