クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

気候はライフスタイルと直結、『人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか』読んだ

温故知新という言葉が示す通り、古い事柄を調べることで、新しい知見が得られることもある。例えば、1万年以上にわたって通用した経験則が、これからはまったく通用しない可能性だってあることとか。

 

『人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか』は、過去10万年にわたるデータをもとに、気候の面から未来の姿を捉えようとしたもの。氷期と温暖化を繰り返すことで、地形や景観をも変えてきた、気候変動という暴れん坊について考察してる。

年稿により、気候についての研究が前に進んだ

データのもととなるのは、「年縞」。

 

福井県景勝地三方五湖のひとつである水月湖には、7万年に及ぶ堆積物が確認されていて、この分野での「世界標準時計」となっている、第一級の試料。

 

水月湖の泥に含まれた堆積物を調査・研究することで、過去の景観、水月湖周辺の景色を再現できるようになったところが、水月湖研究のハイライト。

 

植生景観のデータを気候に換算する技術は、最近の20年ほどで劇的に進歩した。水月湖は、この手法を日本で応用した最初の本格的な事例となった。(本文より引用)


 水月湖の堆積物が「世界標準時計」に採用されるまでには、いち研究者による地道な基礎研究への取組みかつドラマありで、『情熱大陸』に取り上げられていても、おかしくないほど。

 

地味で退屈な作業を地道にやり遂げることの偉大さがわかる人なら、このくだりをきっと面白く読めるはず。

 

時に研究者や研究そのものにもスポットをあてながら、本書の目的である気候面から未来を考えるヒントを提供するというテーマは、一貫している。

 

地球の温度は、極地の氷がなくなるほどに温暖になることはある。しかし、海の水が沸騰するほど極端な高温になることはない(本文より引用)


 と知ると、凍りつくことはあっても、海の水が沸騰するような灼熱地獄に包まれることはないと知って、とりあえずは安心する。ついでに温暖化には限度があり、過去何万年にわたって一度も起こらなかった、レアケースについて過剰に心配するのは科学的ではないとも知れる。

 

気候はライフスタイルに直結、気候変動はライフスタイルを変える

とはいうものの。極地の氷がなくなることは、それはそれで問題で、東京がフィリピンのマニラ並みの暑さになったら、諸々ライフスタイルの変更を迫られるように、気候変動はライフスタイルに直結している。

 

東京から沖縄、あるいは札幌へと旅行することを考えた時、多くの人はまず着るものに悩むはず。暑さ寒さは衣食住にまで影響し、着るものや食べるもの、住まいの形まで変えてしまう。

 

食べ物の北限・南限が変われば、農業や漁業に影響が出、主要産業の収量や在り方も変えることも想定内。

 

本書の第7章では、気候変動によって生活に影響を受けつつも、人類がどのようにやり過ごしてきたか、別の言い方をすれば適応してきたかが語られる。

 

現在は、人類史という長いモノサシで眺めた場合には、比較的おだやかで暮らしやすい、どちらかといえば穏やかな気候ではあるらしい。

 

過去を見れば、氷期氷期の間に温暖期が訪れ、いつ温暖化するのかについては未知数で、気まぐれ。

 

日本の氷期は今より10℃ほど寒かったと考えられているので、氷期には「鹿児島が札幌のようだった」と考えておけばおおむね間違っていない

(本文より引用)

20世紀の100年間で、東京は宮崎になった(本文より引用)

 

 と説明されれば、温暖化による数字のインパクトもイメージしやすい。東京が宮崎になるのに必要な温度上昇は約1℃。そして今後の100年間で、最大5℃の気温上昇を、多くの研究機関が予測している。

 

技術としての農耕が世界各地で発明された後も、少なくない人々が数千年にわたって狩猟採集生活を維持し、その一部は現代に至るまで近代化を拒否しているという事実にはおそらく意味がある(本文より引用)

 

今年と同じ来年には期待しない、安定を前提としない選択肢にも一定の意味があり、複数の選択肢がヒトの生存確率を高めることにもなっていた。

 

未知数と変数だらけの未来予測から、何を選ぶのか

長いモノサシで見た場合、現代は比較的安定した穏やかで温かい時代であるらしい。

 

なのに、同時に「未曽有の」や「経験したことのない」との冠付きで報道される、異常気象もお馴染みで、気候変動という暴れん坊が、暴れ出す直前なのかとも思う。

 

世界人口増や、増えた人口による経済活動により、本来訪れるはずの氷期の到来が遅くなっていると考える研究者もいて、地球相手の基礎研究には、簡単な出口はないとも知れる。

 

現代を未来から長いモノサシで振り返った時、気候変動という暴れん坊が暴れまわった後で訪れるのは、氷期か否か。今の段階では未知数という態度こそが、もっとも科学的。わからないことがわかるというのも、科学の一種。

 

1000年に一度の変事に1000年後も耐えられるよう対策を講じるのか、もっと短いスパンで起こり得る変事についての対策を優先させるのか。

 

未知数が多くて変数も多いのなら、「必ず起こり得る近未来の変化」から手をつけていくのが、現実的対応ってもの。

 

気候変動という、従来は長いモノサシでしか見れなかったものを、寿命100年程度のヒトの一生というタイムスケールに落とし込み、より身近に感じられるよう嚙み砕いた、親切な本。気候変動についていっちょかみするなら、この程度は知っておいた方がいいのかも。かもかも。

 

水月湖の堆積物が「世界標準時計」となるまでの、 科学者の奮闘によりスポットをあてた関連書が、こちらになるらしい。

 

時を刻む湖――7万枚の地層に挑んだ科学者たち (岩波科学ライブラリー)

時を刻む湖――7万枚の地層に挑んだ科学者たち (岩波科学ライブラリー)

 

 

お休みなさーい。