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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

フランス版リバースモーゲージを扱った『パリ3区の遺産相続人』見た

遺産相続で豪邸を相続。いいっすね。誰もが一度は憧れる、夢のシュチュエーション。もしも一文無し同然の時にそんな美味しい話が転がってきたら?棚からボタモチと思った相続物件に、訳あり老婦人が住んでいたら?という状況を映画にしたのが『パリ3区の遺産相続人』。人生における家、ホームのありがたさが心に沁みるお話だった。

パリの旧市街マレ地区。マティアスは父親が亡くなり、相続したアパルトマンを売りにやってきた一文無しのニューヨーカー。アパルトマンは部屋数が多く、しかも庭付きで、これは高く売れそうだと期待するが、誰もいないはずの部屋には老婦人マティルドが住んでいた。

 

彼女が言うには、このアパルトマンは、フランス伝統の不動産売買制度「ヴィアジェ」によって、元の所有者であるマティルドが亡くなるまで売却できない上、マティアスは毎月2400ユーロを年金のように支払い続けなければならない。頭を抱えるマティアスだが、さらに夜になって帰って来たマティルドの娘クロエには、ヴィアジェを払わなければ不法侵入で訴えると脅される始末だ。

 

何とか金策に走り、アパルトマンを売る機会を虎視眈々と狙うマティアスだったが、マティルドたちと暮らすうちに、秘められた彼の家族の歴史を発見してゆく。(フライヤーより引用)

 「ヴィアジェ」についての説明が入っているため、長々しく引用してしまった。。

 

ヴィアジェとは、フランス版リバースモーゲージとも言うべき不動産取引制度。日本のリバースモーゲージだと集合住宅はほぼ対象外だけど、フランスではアパルトマンでもOKだった。ヴィアジェの場合、物件の所有権は買主に移動するけれど、特殊なのは所有権を得た買主が、売主に毎月一定金額を支払い続けるところ。『パリ3区の遺産相続人』の場合、その額2400ユーロ、本日のレートだと31万円なり。高っ!

 

前払い金を払った上で、さらに毎月支払う金額が2400ユーロ。売主の寿命が短いと、総支払額は圧縮されて買主はお得に。売主が長寿で、毎月の支払いがかさめばそれだけ割高になる。のるかそるか。賭けの部分が大きいだけに、資本力のある人はヴィアジェには手を出さない。手を出す人は、その場所でなければならない理由のある人。


映画『パリ3区の遺産相続人』予告編

もともとマレ地区はセーヌ河にもほど近い旧市街にして高級住宅街。もし買うとしたら1200万ユーロ、約15億の物件。それでもヴィアジェ物件なので格安。予告編を見ると、古いけどメゾネット形式のスバラシイ豪邸。パリのような大都市で、これだけの建物となるとひと財産。

 

ひと財産だけに、そのまま住み続けたい人、売っ払いたい人、安く買い叩きたい人それぞれの思惑が交錯する。

 

「ヴィアジェ」に興味があって見に行った映画だけど、別にこの映画はヴィアジェのプロモーション映画でも何でもないわけで、ストーリーの核は「家族」。人はなぜ終の棲家を求めるのか。ホームがあるとないとでは、人生の安定度は大きく変わる。不安定な人生を送る二人の大人、父親からヴィアジェを相続したマティアスと、ヴィアジェにすむ老婦人の娘クロエが、人生の安定を取り戻すまでのストーリーにもなってた。

 

マギー・スミス演じる老婦人は90歳オーバーで、その娘であるクロエももういい歳をした大人。クロエと大体似たような年頃のマティアスもいい歳した大人。自立してないという意味では、大差ない二人。

 

クロエはパラサイトシングル(もはや懐かしいな、この言葉も)で、母親が死ねば彼女は行き場を失ってしまう。一方棚からボタモチでアパルトマンが転がり込んできたマティアスは無職で、その言動からロクでもない人生を歩んできたことがわかる。口八丁手八丁で、ある意味サバイバル能力は高いのかもしれない。言い換えれば、サバイバル能力を磨かなければ、生きてこられなかった人生を送ってきた人。

 

人生一発逆転で、ヴィアジェ付きとはいえ売り払ってしまえばひと財産。物件の持ち主は一文無しなのに、そこに住んでいる住民は、毎月支払われるヴィアジェのおかげで一見優雅に暮らしている、ねじれた関係。ねじれた関係が、あるべき姿におさまるまでを描いてた。フランス映画らしく、時々小粋な演出アリ。

 

持ち主もそこに住む人も双方ハッピーで、持ち主が毎月ヴィアジェを支払ってもいいと思える関係性にたどり着けたら、ヴィアジェにした甲斐もあったってもの。

 

ビジネスライクな不動産取引に、人道主義ともいうべき温情を盛り込んでいるところが、いかにもフランスらしかった。ストーリーに惹きつけられるというよりは、ヴィアジェという制度に心が鷲掴み。そういう意味で面白かった。

 

パリの高級アパルトマンでの暮らしぶりも、優雅で目の保養になった。日本だと次々に新築マンションが建設されて、不動産価値も目減りするばかり。年取れば取るほど安心できなくなるから、ヴィアジェには心惹かれる。

 

結局ヴィアジェは都市、それも世界級都市の産物で、その街に住みたい人が次から次へと押し寄せる街でしか有効ではなさそう。

 

いかにもパリらしい雰囲気が味わえる、パリの旧市街で過ごした人が、老後を新興住宅地で見知らぬ住民ときには移民含むと快適に過ごせるかというと、恐らく厳しい。日本の場合はその辺容赦ないから、公営住宅にだって家業が傾いた後の由緒正しい人が住んでたりする。階級のない、日本らしいお話。

 

ヴィアジェがうまくいっている人ばかりとは限らないけど、ヴィアジェによって守られるものは、その場所が本来持っていた空気や風情といった、金銭に交換不可能なもの。落ちぶれたとはいえ教養ある人がその一画に住み続けていたら、地域の風格の維持に貢献する。都市が持つ、金銭に交換不可能なものを次代に伝えるための知恵が、ヴィアジェにはあるように見えた。

 

住まいについて考えさせる要素満載の映画で、家のカタチも色々。セーヌ河を住処に変える、ボートハウスもステキだった。ボートハウスも、庶民が生んだ都市生活者の知恵のひとつ。知恵さえあれば、都市に住み続けることもきっと難しくないと、ある意味勇気のもらえる映画だった。

 

結局ヴィアジェの契約を結ぶことは、疑似家族を選ぶようなもの。この人物になら後を託してもいいと、後見人になる買主を選んでる。契約に任せるところが、いかにも都市生活者っぽい。

 

お休みなさーい。