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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『FOUJITA』見た

映画 レビュー

ピカソモディリアーニにキスリング、あるいはマリー・ローランサンと同時代に活躍した画家の藤田嗣治(=レオナール・フジタ)。エコール・ド・パリの寵児にして、戦争協力画家でもあった彼を描いた映画、『FOUJITA』を見てきた。

 

当時芸術の最先端都市であったパリのモンマルトルと、第二次大戦中の日本の片田舎と。振れ幅の大きなフジタの生涯を追いつつも、静かな映画だった。

エコール・ド・パリ-戦時の日本。二つの文化と時代を生きた画家藤田嗣治の、知られざる世界を圧倒的な映像美で描く。

~『FOUJITA』公式サイトより~

主役のフジタを演じるのはオダギリジョー。フジタが個性的な人だっただけに、独特なヘアスタイルに丸眼鏡、そしてちょび髭とフープのピアスさえあれば、そっくりさんの出来上がり。


画家・藤田嗣治をオダギリジョーが演じる!映画『FOUJITA』予告編 - YouTube

グラン・フォン・ブランと絶賛された美しい裸婦像の数々と、『アッツ島玉砕』に代表される戦争協力画と。同一人物が描いたとはとうてい思えない、極端な画風にいたった秘密でも解き明かされるかとちょっと期待したけど、そこはスルー。

 

だからフジタはこうなったという、製作サイドの主観は限りなくうすい。パリと日本。淡々と、フジタが見たであろう景色を観客にも見せながら、彼がどうして後年の彼に至ったのかのジャッジは、観客にゆだねてた。

 

フジタを取り巻くのは、3番目と5番目の奥さん。そして、モンパルナスの女王キキ*1

 

エコール・ド・パリの寵児と持ち上げられ、馬鹿騒ぎの中心に居ながらも、実は彼自身は静かな人だったんじゃないかと思えた。台風の目が静かなように。勤勉でもあったフジタの意外な一面も描いてる。

 

当然フジタの絵も何枚か出てくるので、フジタの絵が好きな人には嬉しいサービス。

 

スキャンダラスになればなるほど、バカをすればするほど自分に近づく」というセリフ(予告編でも出てくる)が意味深。先生と呼ばれ、バカをすることも許されず、バカ騒ぎに興じる仲間もいなかった。戦時中の日本での時間は、じゃあ本来の彼とは遠く離れた姿だったのか。

 

日本で過ごした間に描いた絵にはどんなものがあるのか。知識がある人が見れば、より楽しめそうで羨ましい。

 

芸術家が洗練をめざすと、大衆からは離れていくらしい。大衆から離れた芸術家に近づくのは権力者。自身の描いた戦争協力画『アッツ島の玉砕』を傑作と認めつつも、あんまり好きではなさそうに描いてたところが印象的。

 

戦争というテーマは、コンテンツとしてパワーがあり過ぎる。パワーがあり過ぎるから、時には人を狂わせる。

 

自分の描く絵には、人を動かす力があるらしいと悟ったフジタは後年その路線を封印する。

 

ピカソモディリアーニ、20世紀最高の芸術家と面白おかしくバカ騒ぎに興じていたフジタは、最強のコンテンツとなった戦争画に何を思ったのか。戦争画が最強のコンテンツになる状況に、疑問や嫌悪を感じても不思議じゃない。

 

説明的セリフに乏しくて、ブツ切れで突然パリから日本に舞台が飛び、最後はフジタが手掛けたフランスの礼拝堂内を映し出して映画は終わる。

 

ステンドグラスに壁画。そこに描かれた絵には戦争協力画の面影はなく、官能的な女性の姿ももう見られない。小さな子供を描いた挿絵画家としてのフジタがちょっぴり顔を出し、キリストの受難を再び見守る人となって、フジタ自身とおぼしき人も登場する。

 

自身の描く絵には、人を動かす力があると悟った人が最後に選んだのは、誰も傷つけない絵。

 

フジタが振れ幅の大きな人生を歩んだだけに、絵そのものよりも画家その人に興味を抱きがち。フジタがピカソやキキと親しく交わったこと、五人の奥さんが居たこと、賞賛も非難も味わったこと。どのエピソードにも好奇心がそそられるけど、フジタその人よりも、やっぱり彼の描く絵の方が素晴らしい。素晴らしいから目を奪われてきた。

 

京都にある日仏会館が、今のような姿になる前『ル・フジタ』というレストランがあった。それなりのお値段がするちゃんとしたフレンチレストランだったけど、ケーキが特に美味しくて、ランチも手頃だった。そのお店の壁面を飾っていたのが、フジタの絵。今も日仏会館に残されているはず。

 

レストランの壁面を飾るくらいだから、見て心地いい絵だった。フランス絵画といえば印象派という先入観も、裏切ってた。その次に出逢ったのは、白く輝く肌を持つ裸婦像。真珠を砕いて塗り付けたかのような、なんともいえない白さが好きだった。その次に出逢ったのは、かわいらしい子どもや小粋な女性を描いた、挿絵画家としてのフジタ。遊び心にあふれていて好きだった。

 

最後は誰も傷つけない絵を選んだ画家なんだから、見る方も画家を傷つけることなく、ただ賞賛だけを送りたい。

 

初日にシアターキノで観賞し、藤田嗣治の研究者である道立近代美術館・学芸部長さんの記念トークつきでラッキー。

 

布が好きだったこと、ディオールが好きだったこと。自身でも針やミシンで服を作る、器用な人だったことなど、映画にもそのディテールは生かされていた。

 

特異な人物を描きながらもジャッジは観客にゆだねていて、まったく説明的ではない映画。その代り、判断の根拠については丁寧に提示してる。フジタやフジタの絵が好きな人向けではあるけれど、これからフジタを知ろうとする人にもちょうどいい。

 

フジタの作品、近美コレクションとして12月19日(土)から近代美術館で何点か展示されるらしい。 フジタが挿絵を手掛けた本も、再び展示されるらしいので楽しみ。

藤田嗣治 異邦人の生涯

藤田嗣治 異邦人の生涯

 

お休みなさーい。

*1:映画には出てこないけど、キキを描いた画家で、墓地までキキの遺体につき従ったのはフジタだけというエピソードが好き。