クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『黒い十人の女』見た。

昭和の名女優には、若尾文子以外にもお美しい人がいっぱい。今でもエレガントな岸恵子山本富士子、そして中村玉緒とビッグネームな女優さんが揃い踏み。浮気性のひとりの男をめぐる、10人の女たちの物語。女の黒い本音が次々と飛び出すから面白かった。

 

あぁ、誰か殺してくれればいいのよ あの男・・・

クール&モダン!フィルムノワールの美学!妻がいるにもかかわらず、他に9人の愛人をもつテレビ・プロデューサー風松吉。たまりかねた女たちは共謀して彼の殺害を企てた。

~アマゾン・プライムビデオの作品紹介より引用~

 

 1961年制作の映画ながら、白黒です。先日見た『しとやかな獣』と大体同時代。カラー映画も撮れるような状況で、敢えて白黒で撮ったのかな、と。サスペンス風な内容に合っていて、雰囲気あり。陰影ある画面のおかげで、女優さんもより美しく見える。

黒い十人の女

黒い十人の女

 

 恐らくは開局間もない頃のテレビ局が舞台。スタートアップだから、めったやたらと忙しそう。忙しいテレビ局の中でもひときわ忙しそうなプロデューサー風は、すこぶる女癖の悪い人。忙しいが口癖ながら、大変マメに愛人宅まわりを欠かさず、新しい女の子を引っ掛けるのも忘れない。一見優男だけど、本性は単にだらしのない人。ぶん殴ってやりたいほど憎たらしい、軽薄なギョーカイ人風役を演じる船越英二がお見事。

 

船越英二の演技はお見事だけど、ムカつく男。プロデューサーという小権力を行使して、女を引っ掛けるあたりも姑息。でも、「何かあったら僕に言ってきなさい」で引っ掛かる女もどうよ。ということで、「ツマンナイ男に引っ掛かった」ことに気付いた女たちが、一致団結して男を凝らしめにかかる。男の寵愛を得ようと張り合っているうちに、バカバカしさに気付いちゃったのよね。

 

 

愛人は10人も居るけど、「そうよ!そうよ!」と言うだけのモブも含んでいるので、メインは山本富士子演じる本妻と、岸恵子演じる女優、宮城まり子演じる古風な10番目の女に、コマーシャルガールの中村玉緒、ついでに岸田今日子くらい。

 

 

Wikiを見ると、10人の女たちの名前にはすべて数字が使われている。三輪子に五夜子、七重といった具合。面白いのは本妻が「双葉」で二番目を表していて、妾筆頭とも言える岸恵子演じる女優が「市子」と、一番目になってるところ。小技効いてる。

 

 

被害者意識で結ばれた女たちが、「あんな男」と風を罵りながらも、それぞれ身勝手なところがとってもイイ。好かれた方も、災難だったねこりゃと思えてくる。すっごいチープ。吹けば飛ぶような愛情なのに、「殺しちゃえ!」と盛り上がれるところは、いかにも女子にありがち。

 

 

いい歳した働く女たちなのに、貴様いつまで女子でいるつもりだとジェーン・スーさんに怒られそう。いつまでも女子でいられることが許されたのは、きっと映画の中だけだから、いかにも女子っぽい描写の数々が印象的。テレビ局のような新しい職場の中くらい、女が男にギャフンと言わせる夢くらい見てもいいじゃない。という理由でテレビ局が選ばれたどうかは知りません。

 

 

男に対する仕返しが痛快ではあるけれど、忙しいを連発する当時の世相への反発もしっかり込められてた。

忙しく飛び歩いて、事務的な処理はたいへん上手くなるけれど、心と心を触れ合せることのできない生き物になってしまうのよ。女は男に求めるものはもうないのよ、あなたの中には。だけどあなたは男のカタチをしている。だからあなたは抹殺されたのよ

(作中のセリフより引用)

 

 プロデューサーといえど中間管理職。「あれどうなった?」と上司に突き上げられれば、部下に丸投げ「やっとけと言っといたよね」で逃げる。でも部下聞いてない。やな感じ。忙しいと書いて、心を無くす。心を無くしたイキモノへのメッセージにもなってた。

 

 

心を触れ合わすことのない生き物でも、ペットとして愛玩するにはちょうどいいのか。

 

 

愛に殉じる人もいれば、「生活を腐らす愛ならいらない」と、本妻(その時はもう元妻だけど)からは名言も飛び出し愛のカタチも三者三様。チープな男に惹かれる女たち、一見哀れだけどたくましく、ちゃっかりしてる。

 

 

同じ時間を生きてるはずなのに、何から何まで噛み合わない。そんな状況なら今もあり。心を無くした人と、心を通い合わせようとすることほど虚しいもんはない。古い映画だけど、2002年にはテレビドラマとしてリメイクもされたとか。そっちも見てみたい。

 

 

女の黒い本音が次々と飛び出すあたり、SATCに通じる面白さ。アマゾン・プライムビデオにて視聴。堪能した。古いからと、スルーするのはもったいない。

 

waltham7002.hatenadiary.jp

 お休みなさーい。