クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『しとやかな獣』見た。

若尾文子目当て。往年のゴージャスハリウッド女優にも負けないくらいの存在感がステキ。ハートマーク十連発したいほど、きれいだった。
 
 
そもそも邦画をあんまり見ないからよく知らないけど、邦画には珍しいブラックコメディ。映画そのものも奇妙で面白かった。CGが使えない、撮影技術に制約がある時代ならではの工夫みたいなところが印象的。縛りがキツイ方が、表現の自由度も上がるのかも。
 (怪獣や妖怪が出来てきてもおかしくない感じのイントロ)
 
予告編では若尾文子の存在感が大きいけど、この映画の真の主人公は奇妙な一家、前田家のひとたちだと思った。前田家が住む郊外の団地の一室を舞台に映画が進み、そこに出入りするひとたちと、大抵は金策絡みの悶着を描いてた。すべての出来事は団地の一室で起こるので、演劇でも見てるよう。奇妙な映画の中でもひと際奇妙なのが、この前田家のひとたち。すべてがアンバランス。
 
 
そもそもこの団地は、売れっ子作家の愛人をやっている前田家の姉娘のために、作家が用意したもの。そこに住みついたのが、前田家のひとたち。成人して働いている長男も同居しているから、手狭。手狭な部屋には洋酒*1など贅沢品がいっぱいで、キャビアなんか食べてる。昭和37年、1962年に。それでいて自宅には電話を引いてない。近所で赤ちゃんが泣き叫んでるよう な、生活臭あふれるお宅の電話を借りて済ませている。贅沢するお金あるんだったら、電話くらい引けばいいのに、どこか感覚がおかしい人たち。何かが狂ってる。
 
 
前田家の父親は、元海軍中佐で戦前は偉かった人。戦後にどん底の貧乏を経験してから、カネカネカネのオカネスキーに変貌した。詐欺やペテンで食べてるような もので、妙な出資話が大好き。胡散臭いことこの上ない人物。娘が愛人、息子が詐欺を働いていても、咎めるどころか小遣いの増額を要求するような人。
 
 
上品で教養もありそうなのに、すごく下世話。貧乏は二度とゴメンだー!と激白するシーンが怖かった。人をオカネスキーなペテン師に変えてしまうんだから、貧乏反対、戦争反対と思ったね。
 
 
それ誰も豊かになれへん奴やんな案件見つけた時には、GIFアニメにして流したいシーン。貧乏ダメ絶対。
 
 
この前田家のひとたちに比べれば、複数の男を手玉にとってお金巻き上げてても、若尾文子演じる会計係、のちの旅館経営者は大変しとやかなもの。色香を売った対価にお金を得てるんだから、ある意味体張ってる。対する前田家の父親は口八丁。口先三寸で人を丸め込もうとするから、小狡く見える。
 
 
引っ張れるところから、いかに楽してお金引っ張るかに一生懸命な前田家のひとたちから、若尾文子は「たいしたタマ」と罵られる。複数の男をちょっと手玉に取っただけなのに。本来自分たちのものだったお金を、長男が貢いでしまったのが悔しいらしい。怒りのポイントも、どこかピント外れ。前田家的には正しい怒りだけど、外野からすれば、あんた 達が怒る筋合いでもなかろう。。と徒労感を覚える。
 
 
色香を売った対価はちゃっかり貯金しておいて、そのお金で新しく事業を始めようとする彼女のどの辺が悪女なのか。平成も30年近く経とうとする現在からすると、いまいちピンとこない。過去にきっぱり引導渡してケジメつけるあたり、めちゃ健全。当時としてはセンセーショナルだったかもしれない、生き方もお色気シーンも、今から見るとカワイイもの。
 
 
それよりも、物質的には満たされていながらも、楽してお金儲けようとする前田家がとことん不気味。最初から最後まで、不快で不可解なひとたち。
 
 
この映画では、覗き見するシーンが頻繁に出てくる。覗き見と詐欺師は相性良しで、修羅場や愁嘆場をじっーと覗き込んでいてキモチワルイ。ウォッチャーなんて、そんなものだけど。
 
 
「人間なんてひと皮剥けばみんな一緒」で一緒にされたくないタイプのひとたちが織りなす人間模様。こんなひとたちとは絶対にご近所付き合いしたくない。犠牲になるのは小心な人。
 
 
当時としてはモダンなはずの、シャワー完備の団地を舞台にしながらも、能楽がBGMに使われてる。演劇見てるようだと思ったけど、狂言だ、これ。面白おかしくて皮肉が効いてるから。
 
 
前田家の父親もイヤだけど、一番恐ろしいのは「お父様の言うとおりになさい」と、いつでも夫唱婦随の山岡久乃演じる母親だったかも。詐欺師に寄生する人は、ペテン師そのものよりもキモチワルイ。ミヤコ蝶々もチョイ役で登場し、いい味出してた。
 
 
若尾文子も、前田家の長女を演じる浜田ゆう子も、現代の感覚からするとむっちりしていて肉惑的。日本女性のスタイル、ほんとに良くなったものだと実感できた。
 
 
昭和30年代の映画なのに、平成の今見ても斬新。似た映画を思いつけないから面白かった。
しとやかな獣 [DVD]

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しとやかな獣

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 アマゾンインスタントビデオにて視聴。この手の古い昭和映画、女性客が大変借りにくいコーナーにあったりするので、便利になった。

 

 お休みなさーい。

*1:昭和30年代、外国産のウィスキーやブランデーはお高いもので、お金持ちアピールのインテリアにもなってた。