クローズドなつもりのオープン・ノート

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初学者にもとっても親切な、『知っておきたい情報社会の安全知識』読んだ

初学者にもとっても親切な、『知っておきたい情報社会の安全知識』読んだ。

知っておきたい 情報社会の安全知識 (岩波ジュニア新書)

知っておきたい 情報社会の安全知識 (岩波ジュニア新書)

 

 インターネットなどのITまわりを「正しく怖がる」ための解説書。ジュニア新書ということで、子供にもわかりやすいよう書かれていて、初学者、情弱な大人が読んでも読みやすくてわかりやすい。

コンピュータやインターネットの発展は、高度な情報社会をつくりあげる一方で、かつてない事件や事故を引き起こす存在にもなっている。ITを基盤とした情報社会を、どうしたらより安心・安全にできるのか。また私たちの対策は何か。そのために必要な知識を、現実におきている事例をとりあげて、ていねいに解説する。

Amazon内容紹介より引用)

 日本ではWelqに代表されるキュレーションメディアによる著作権侵害が大きな話題となり、アメリカの大統領選ではデマニュースによる世論の撹乱が問題となった2016年。

 

インターネットを通じて得られる情報の信頼性が、揺らぎまくった一年でもあった。かといって、今さら新聞や雑誌のオールドメディアにはもう戻れない。ネットに触れずに情報を得るのは、非現実的で非効率。

 

ITあるいはICTの世界の人は、IoTやAIが生活のすみずみにまで行き渡る未来を夢見ているけれど、同時に悪意ある人物により悪用されることも想定済みで、安心感もいや増した。

 

触れずにはおれないインターネットとコンピューター(スマホ含む)を、安全に使うためのTIPSや実用的なお役立ち情報が、盛りだくさん。

 

なかでも「見破られにくいパスワードの作り方」は、パスワードの設定に悩む人に特にお役立ち。どの安全対策も、“悪意をもってインターネットを使う人の存在を前提としている”ところが、たいへん実用的なんだ。

 

インターネットには、明確な悪意をもって活動している人もいるから気をつけなさいとは言うものの、一体何にどう気を付けりゃいいのさという疑問に、微に入り細に入って答えてくれる。

 

著者は、東大教授でICTセキュリティの専門家。なぜか歌集も出している“うた心”のある人で、初学者でも読みやすい文体なのはそのせいか。安全対策を謳う以上、避けて通れない、守るべきインターネットやコンピューターの仕組みについての説明も巧み。

ITの世界では、小さいことはいいことだ(本文より引用)

 なんて知らなんだ。すまんかったな、ITの人。いつもダラダラした、役にも立たない長文ばっか書き綴って申し訳ないけど、書きたいんだ。

 

「最善は尽くすが補償はしない」ベストエフォート型で運用されてること。にもかかわらず、性善説に立って作られた成り立ちから、性悪説に転換することもなかなか難しいことが、よくわかる。

 

操作を「数」で表すのがITの世界で、10進法の“172”が2進法では“10101100”になり、

ある桁の数字が2になるごとに、上の桁の数字がひとつ増えるという規則にしたがう(本文より引用)

 と解説されても、こちらは文系にとってはわかりにくい。

 

ところが私には「わからーん」と訴えれば、正月からわざわざ馬鹿にでもわかるように解説してくれる人がいる、便利。ついでにソフトは人間に近い言語(プログラム)で書かれ、プログラム言語の中には機械により近いマシン語もあって。。というプラスアルファの情報まで入手できて、ますます便利。

 

知恵袋で「これはどういう意味ですか?」と聞くこともない。恵まれてる。

 

ITの世界が性善説で成り立っているのは、恵まれてない人にもチャンスを与える、機会の平等のためでもあるんだ。

 

もしも。今はまったくITとは無関係の仕事をしているけれど、ちょっとプログラムの勉強でもしてみたいなーと思ったものの、身近には「師」となる人物が見つけられなかったら、その人はいつまでたってもワナビーから抜け出せない。

 

知恵袋のようなナレッジサービスが出来た時、本当に便利なものが出来たと思った。割と特殊なことをやっていて、誰にも聞くわけにもいかず、悶々と一人で悩んだこともあったから。

 

信頼できる情報を持ってきた人から、教えてあげるかわりにこれお願いと頼み事でもされたらどうしましょ。断れるのか?よく知らない人との対面でのコミュニケーションの怖さは、そこにある。

 

信頼できる人を見つけるより、信頼できる情報を見つける方が、本来は早くて安全であるべきなんだ。そして、信頼できる情報に早くたどり着きたいと焦る人に向けて、悪意ある人物が罠を仕掛けるのが地獄インターネットの負の側面。

 

危険なウェブページに誘導する手口は枚挙にいとまなしで、検索サーチの脆弱性をハックしたWelqの例は、最も新しい例としてインターネット史に刻まれることになってしまった。あーあ。

 

この本の中でもっとも有用だと思ったのは、「悪意ある人物の具体例」で、その具体例として、ドストエフスキーの小説『悪霊』の主人公スラヴローギンを挙げている。

 

スラヴローギンは、すべてに恵まれた若者。家柄も良ければ頭も良く、容姿端麗なスポーツマン。性格破綻者というわけでもないのに、誰かを痛めつけることが大好きで、冷静に冷酷に、獲物を追い詰めていく。

 

厄介なのは、彼はサディストではないこと。傷みに悲鳴をあげる人の声に喜びを感じる倒錯性は無さげで、生きることに飽きてることがすべての原因っぽい。思想も使命もないところが、なおさらおっかなくて厄介な奴。

 

そんなに退屈で生きることに飽きてるんだったら、自分を殺せよ臆病者と思ったら、小説の最後ではちゃんと自殺してた。あぁ良かった。という恐ろしい人物がネットの向こうに居て、無作為にターゲットを物色していたら、善意を前提に運営されてるサービスは、たまったもんじゃない。持たない。

 

2010年に発行されたこの本では、スマホアプリについては言及されてない。スマホアプリの全盛により、パソコンを前提としたかつての人気サービスはみな斜陽になった。利用者の世代交代を否応なく推し進め、サービス運営者が関与する部分が多くなった。

 

本書も危惧してた通り、お金儲けに走り過ぎるとモラルと教養に欠けた人物が跋扈するようになり、甚大なモラルハザードが起こることを思えばしょうがない。

 

誰にでも開かれたオープンなインターネット社会か、それともごく少数の訓練された者しか恩恵を受けられない、クローズドなインターネット社会か。

 

バラク・オバマさんも言ってたけど、

 “テクノロジーにどのような価値観を組み込むべきか”が、これからは問われる時代。

wired.jp

今が過渡期で、万人にとっての有用なテクノロジーを実装するには、「わからーん」で投げ出すユーザーも、そんなお馬鹿ユーザーとのコミュニケーションを「やってられねー」と投げ出すエンジニアでも、ダメなんだ。

 

悪意や誹謗中傷、あるいは悪質なデマの発生源も、以前とは比較にならないほど素早く見つけ出されるようになったインターネットの世界は、本来もっと安全なはず。

 

新聞や雑誌といったオールドメディアには今さら戻れず、テレビがネットで話題のニュースを放送するほどなんだから、ネットの情報が信頼できないと大勢が困ってしまう。

 

トラブルに巻き込まれた時に、相談できるネットの窓口リストもついていて、ほんと親切なんだ、この本。

 

特定の個人や企業のためではなく、万人にとっての良識をより多くに届けたものがマスメディアとなり、よいコンテンツになる。くらいの気持ちでいた方が、これからはいいのかも。かもかも。担い手が誰だとか、歴史のあるなしにカンケーなく。

 

デマニュースによるPVでアフィリエイト収入が得られてしまい、国境さえ越えて悪意を持つ込む人間を、どう排除していくのか。理論的支柱がないと、やってらんないでしょ。

 

現在のシステムでホワイトサイドにとどまろうとする初学者は、暗記するレベルで読んだ方がいいと思えるほどに、有用でした。

 

最後に、自分にとって未知の分野で信頼できる人を見つけるポイントのひとつは、「教科書を書いてる人」を見つけること。参考書でも、攻略本でもなく、できれば大学の講義にだって耐えられそうなものがベスト。

 

書く人にとってのメリットを考えた時、教科書は割りに合わない。割に合わなくても書くのは、後進となる多くの人のメリットを考えてのことで、より公共性が高いから信頼度もマシマシ。最前線で活躍する、業界のトップリーダーが書く時間を捻出するのは大変なんだけどね。

 

あるいは、子供のために書かれたもの。どちらにしても、暗黙知をより多くの人に届けようとする試みは、たいてい良心的なのさ。

 

お休みなさーい。