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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

囁くような小さな声しか聞こえてこない、『ひそひそ星』見てきた

映画 レビュー

邦画では珍しいSF、しかもモノクロ。ごりごりのハイテクノロジーで魅せるSFではなく、きっとストーリードリブンな作品に違いないと思って見に行った。ゆっくりと流れる時間について、つい思いを馳せる。そんな映画だった。


園子温監督作/映画『ひそひそ星』予告編

主人公はアンドロイド・鈴木洋子“マシンナンバー722”は、昭和風のレトロな内装の宇宙船レンタルナンバーZに乗りこみ、滅びゆく絶滅種と認定されている人間たちに大切な思い出の品などの荷物を届けるために、宇宙を何年も旅している。(映画フライヤーより引用)

 登場する宇宙船は、内装が昭和のアパートの一室風なだけでなく、外観も一風変わっている。ビジュアルだけだったら、ヘンテコ宇宙船ナンバーワンとしてSF史上に輝けそう。帝冠様式」という建築用語が、脳内をよぎる。

 

きっとハイテクノロジーの真逆をいくに違いないという、予想に違わぬアナログなシーンが冒頭から続く。

 

ヒロインのアンドロイド・鈴木洋子がマッチを擦って煙草に火をつけるシーンは、日本映画がまだ元気だった頃、1960年代を彷彿とさせる。2016年の現代に撮ったとは思えない映画。

遠い未来から見れば、平成の2016年も昭和の1960年代も、誤差の範囲でひとしく過去なんだというメタファーと見ることもできる。その一方で、鈴木洋子さんはせっせと宇宙船の中という生活空間で、掃除したり洗濯したりお茶飲んだりしてる。どれだけ遠い未来に生きようと、生活は無くならないと見ることもできる。

 

未来というとついテクノロジー万能で、キラキラピカピカした風景を思い描きがちだけど、ここで描かれる未来は、アナログ臭が濃厚。鈴木洋子さんの乗る宇宙船は、未来においても“ポンコツ”という設定で、みんな一緒に「せーの」で最先端に移行できるわけでもないことを織り込んでる。

 

未来でも、きっと残るであろうアナログ臭濃厚な宇宙船に乗って、鈴木洋子さんが届ける荷物もアナログ。何しろ宇宙は広大なので、鈴木洋子さんが荷物をお届けするペースも超スロー。託されたすべての荷物を配り終るのには、十数年を要するのんきさ。彼女のお仕事は、超スロービジネスなんだ。

超スロービジネスだから、宅配業者の鈴木洋子さんは、アンドロイドでなければならない。生身の人間だと時の試練、時間の重圧に耐え切れないから。

 

呼べばすぐ来る現代日本の宅配便と違い、宇宙空間のクーリエサービスは時間がかかり過ぎる。しばしば届けるべき人の手に届けられず、荷物だけが宙に浮くことも。

 

届けられなかった荷物、あるいは長い時間をかけてまで届けようとする、その荷物の中身は何なのか。鈴木洋子さんでなくても気になるところ。ところがその中身はボトルメッセージのようなもので、とてもはかない。

 

届けと託した時には新鮮だった何かも、時間が経つにつれてシワシワカサカサになって、当初託された思いも色褪せる。荷物ともいえないような何かを受け取る人たちの、姿かたち込みで、切ないんだ。受取人はみな人間なんだけど、マシンが幅をきかす未来社会では、肩身狭そうで存在感も薄い。

 

人間の存在感が薄い世界では、大きな声を出すのも憚られるのか、すべての会話はひそひそ声。喜怒哀楽もかぎりなく薄くなって、ひそひそと、小さな声が世界を支配する。

 

ポンコツ宇宙船は、ポンコツなのになぜか子供の声を持ち、鈴木洋子さんと会話する。まるで宇宙船に意思があるようだけど、洋子さんともども人工知能と思えば違和感もなし。

 

子供の声なのにポンコツな宇宙船が、昭和の時代からタイムスリップして未来社会に飛ばされた、寄る辺ない子供みたいでこれがまた切ないんだ。

 

鈴木洋子さんも、宇宙船も、廃墟のような場所*1 に生きる洋子さんの荷物を受け取る人も、何もかもが切ない。取り残される哀しみや切なさが、画面全体から漂ってくる。

エンデの『モモ』が、なぜだか無性に思い出された。時間泥棒は出てこないけど、ここではゆっくりと流れる時間がかえって残酷なほどに溢れかえっている。『モモ』では時間泥棒に盗まれた時間(=余裕)をモモが人間たちに取り返すけど、『ひそひそ星』では凍った時間を人間にお届けするのが、アンドロイドなのさ。シュール。

 

ひそひそ星が、ひっそりと静かに光る星なら、真逆は超新星。ピカピカに光って眩しいほどだけど、実はあれ、爆発による滅亡の光なのよね。

 

「爆誕」「爆速」。華々しく登場した何かは、それまでにあった秩序やしきたりをぶっ壊して、成長を続ける。新世界の登場によって、粉々に砕けて各地に散っていった星のかけら、それまでの秩序や旧世界をしのぶよすがが、ひっそりと光るひそひそ星。

呼べばすぐ来る、検索すれば瞬時に目的にたどりつける効率化のかげで、ひっそりこっそり光っているのがひそひそ星。

 

効率とは真逆、いつ届くとも知れない、届くかどうかも怪しい荷物=メッセージを託された人たちも、荷物のお届けに戸惑ったり、心待ちにしてたり。その反応もまちまち。

 

ゆっくりと時間が流れる世界では、過去と今とをつなぐ荷物も確実には届かない。過去とのつながりを心待ちにしてる人には残酷だけど、過去とのつながりが希薄でいい人には、そのペースで十分なのかも。

 

効率や実用性がますます尊ばれる今だから、スローで効率とも実用性とも真逆な世界観が新鮮。アナログと接続する未来社会、あるいはアナログとも共存する未来社会で人間の相手をするのはアンドロイドという設定は、かなり好き。

ひそひそ星

ひそひそ星

 

 

モモ 時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語

モモ 時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語

 

 

監督・脚本の園子温氏について、何も知らなかったので下記リンクが参考になった。

realsound.jp

お休みなさーい。

*1:ロケ地は福島県の富岡町・南相馬浪江町だとか。廃墟らしさにリアルがあるのはそのせいですね。