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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『エール!』見てきた

フランス発の映画『エール!』を見てきた。耳が聴こえない家族を持つ少女が、パリの音楽学校をめざすお話。そう書くと重そうだけど、実際はコミカルで笑える、コメディ要素満載のヒューマン・ドラマ。泣けるけど、泣かそうというあざとさはないので素直に感動できた。主人公の歌声が、とってもいい。


映画『エール!』予告編 - YouTube

耳の聴こえない家族の中、唯一聴こえる少女には歌の才能があった。少女の夢と家族への愛を乗せた歌声が起こした、最高の奇跡とは?

~映画公式サイトより引用~

 「世界で最も美しい村」に選ばれていてもおかしくないような、美しいフランスの片田舎が舞台。主人公のポーラは高校生ながら、家族思いで働き者のしっかりした少女。彼女の父親も母親も弟もみんな耳が不自由で、手話で会話するしかないから、彼女がしっかりしなくちゃいけない環境。

 

親や大人に「いい子」「がんばってる」と褒められる子は、同世代からは煙たい存在。彼女の家族環境が特殊なこともあって、学校では人気者とは言い難いポジションにいる。というより、今以上に目立たないようあえて大人しくしてる感じ。

 

そんなポーラなのに、嫌々とったコーラスの授業で「君には才能がある!もっと上をめざそう!そうだパリの音楽院を受験しよう!」と、音楽教師に認められしまったところから物語が始まる。

 

パリを目指せば家族のいる故郷を捨てることになる。普通の家族と違って、彼らは唯一耳の聴こえるポーラを公私にわたって頼りにしている。そんな家族を捨てて、ひとり歌手を目指してもいいものか。タイミング悪く村は村長選のシーズンで、選挙の成り行きによっては家族の経営する農場の未来も左右するという、嵐の前。

 

単にポーラの将来だけでなく、家族の将来、ひいては村の未来までかかわってくるから、ポーラはなかなか決断できない。歌いたいと素直に口に出すこともできない。十代の女の子が背負うには重過ぎる決断に、小さな恋のメロディーも絡んでくる。

 

ポーラには、振り捨てたい過去なんてなんにもない。ただ大事にされた、たっぷりと愛情を注がれた記憶しかない女の子。過去を選ぶのか未来を選ぶのか。未来に決まってるでしょと、そう簡単には言えないポーラの葛藤は、歌声にも表れてる。

 

どれだけ素晴らしい才能に恵まれていても、安心して歌える舞台が用意されなければ、声も出ない。

 

“宝石の声”に恵まれた彼女が、初めてその輝きを放つシーンの演出がお見事で、あっとオドロイタ。声の聴こえない両親にも、ポーラの声が人を動かす力を持っていることがわかる、ものの良し悪しがわからない人間をも納得させる演出を用意していて、素晴らしい。ビューティホーでワンダホー。これなら実話にも負けない。圧倒的事実を凌駕するのはテクニックだね。作り物である映画は、テクニックや演出で魅せてくれる。でもこれ、まだ序盤なのよね。圧巻のラストが待っていた。

 

この映画を見てると、いろんな先入観が覆される。

 

「4人家族のうち3人も耳が不自由」で想像する家庭像を、まず思いっきり裏切ってくれる。ハンディがあってもポーラのお父さんは成功者。広い農場を持ち、チーズも生産してる。花咲き乱れるの石造りの大きな家は、内装もおしゃれでインテリアにもお金かかってる。ポーラのお母さんは、お洒落で美人。弟は、耳のかわりにパソコンを使いこなしてる。

 

惨めな雰囲気はどこにもない、豊かな一家で人望もある。

 

村長選の行方によっては、その豊かな生活も持続不可能になりそうなところ、お父さんは立ち上がる。文化大国フランスは、実は農業大国でもあって、農夫たちは時に激しい抗議活動を繰り広げる人たち。

 

政府の方針が気に食わない時は、道路にミルクぶちまけた豚を放ったり。やることも過激。理不尽なことには徹底的に抗う。ポーラのお父さんも、「成功した弱者」として宣伝材料にされることを嫌い、嫌なことは我慢しない。

 

愛情をたっぷり注いで育ててくれた人たちが、人格的にも優れていたら?ますます故郷を後にするのが忍びなくなる。

 

ポーラの才能を見出した音楽教師も、都落ちしてきたような人で最初は感じ悪かった。ところが音楽への情熱は人並み以上にあって、才能ある生徒を「大きな世界」に送り出すことには熱心。感じ悪い教師も、ポーラともうひとり、才能ある原石を手に入れたことで、彼自身も教師として輝き出す。

 

家族の宝物から、もっと多くの人の心を動かすみんなの宝物へ。徐々に輝きを増していったポーラは、恐れや憂いからも解放され、ついにステージでキラキラと光輝く。

 

耳の聴こえない家族のための、便利な道具。ツールでしかなかったポーラの声は、宝石のような輝きを放つ芸術品へと大化けする。ツールだった時には抑え込んでいた感情も解放し、鳥籠から元気に飛び立っていく。

 

なかなか飛び立てない。未練を残して当然の状況から、ようやくポーラが飛び立てたから、見てるこっちも感動する。

 

かわいくて、あるいは大切にし過ぎて何かを手放すふんぎりがつかない人も、手放すことがサヨナラとは限らないと知る。

 

進学や就職をきっかけに、家族の元を離れざるを得ない人は、日本でもきっと珍しくない。故郷を後にしてもいいものか。悩む人には、それでいいんだよと背中を押してくれる。手放す側も、大きな世界に送り出すことは正解だったと安心できる。

 

手放す側、飛び立つ側。どちらから見ても、楽しめる内容。泣くかもだけど。

 

近くの席にいたおじさん(もしかしておじいさん???)が、号泣してた。巣立った娘や息子、あるいは孫を思うと涙が止まらなかったのか。涙を流しても、後に残るのはとびきり美しいものを見たというキモチ。大団円が心地いい。

 

最後の最後まで、“善きもの”を見せようという精神に貫かれた映画。よかったよ。

 

お休みなさーい。