クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

才能を育てたいというのも欲望の一種、『ギフテッド』を見た

映画には「数学もの」とでも呼びたくなるような、数学者を取り上げた作品、古くは『グッド・ウィル・ハンティング』から『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』に『ビューティフル・マインド』と色々あるけれど、『ギフテッド』も数学ものと呼べるかも。

 

ただしヒロインはとっても可愛くてあどけない女の子で、数学ものであってもハートウォーミングな家族もの。人並み外れた才能に恵まれた子供を、どう愛するのかを描いてた。

 

早熟な天才をどう育てるのか

あるところに叔父さん、亡き母親の弟と暮らす女の子メアリーが居まして、彼女が小学校(エレメンタリースクール)に進学するところからお話はスタート。

 

協調性ナシ、授業でもやる気ナシでとっても学校生活に向いてないメアリーは、実は数学の才能に恵まれた天才児。普通の子供ではないと見抜いたメアリーの担任は、天才児向けに特別教育を施す学校をメアリーの保護者であるフランクに薦めるけれど、フランクは乗り気じゃない。

 

フランクがメアリーに望むことは、普通の子としての生活。

 

とはいえメアリーは、ほっとけば終日小難しい数学の本にかじりついているような子で、普通の子への道もなかなか厳しい。でも仲良しの叔父さんの前で見せる、子供らしいあどけない仕草がとっても可愛いんだ。そのうち疎遠なはずのメアリーの祖母(何しろメアリーは、彼女に会ったことさえない)まで現れて、メアリーの教育方針をめぐってフランクと対立。

 

天才児メアリー、どうなっちゃうの?というストーリ―で、常人にはない才能に恵まれた子供を、どのように育てるのが本人にとってもっとも幸せなのかを丁寧に描くあたり、才能を本気で大事にするお国柄らしいっちゃらしい。

 

才能を育てたいというのも欲望の一種

メアリーの祖母は、メアリーの天賦の才を最大限に伸ばそうと、やる気満々。対するフランクは、才能を伸ばすことよりも、メアリーに子供らしい普通の生活を送らせる気満々で、二人の教育方針はすれ違う。

 

メアリーは大人顔負けの難問を次々と解いていくけれど、その世界を志すものにとっては解けて当たり前のもので、いわば通過儀礼。フランクが見ているのは通過儀礼の先に待つ世界で、メアリーにとっての本当の壁は、学位を得たあとにやってくることを彼は知っている。メアリーに期待されているのは、前人未到という高い壁を乗り越えることなんだから。

 

才能の片鱗を見せたら嬉々として乗り込んでくる女性に育てられたのは、フランクとその姉(=メアリーの母)であるダイアンの方が先。その彼らが、メアリーには普通の生活「も」知って欲しいと望むのに、英才教育の第一世代である彼らの母親にはなかなか通じない。

 

メアリーの親権をめぐっての裁判で、0勝2敗と皮肉られた挫折経験が、祖母のメアリーに対する執着に拍車をかけているのは間違いなし。

 

才能を育てたい、次こそは我が手で才能を開花させたいという欲望は、たぶん度し難い欲望のひとつで、才能を育てたいというエゴを爆発させるのはたいていジーサンバーサン。しかも彼らの方が、お金も権力も持ってるから大問題。メアリーに対する愛情では勝っていても、フランクには不利なんだ。

 

一生を捧げるのか、一身で二生を生きるのか

メアリーの祖母はメアリーに、生涯をかけて数学の道を究めることの素晴らしさを説き、共に歩む仲間の素晴らしさも説くけれど、最先端では結局ひとりで孤独が待っていることはすっ飛ばす。

 

メアリーの母ダイアンは、一生を研究に捧げ、二生を生きることなくその生涯を閉じた。

 

フランクやダイアンがメアリーに普通の生活を望むのは、一身で二生も三生も生きられるよう願ってるからと言えるかも。かもかも。

 

非凡な人生を子供に望む親や保護者は往々にして、平凡な人生を歩んでるものなんだ。

 

非凡な人生を歩んだ、あるいは歩まされたフランクやダイアンは、一身で二生を生きるのに失敗したかうまくいってない人。だからこそ平凡な人生の尊さを知っていて、メアリーの人生の選択肢を増やそうとする。普通の子として育てることで。

 

フランクは才能を育てているわけではなく、ただメアリーという可愛い姪を育てているだけ。メアリーも、素晴らしい才能の器として愛されてるわけではないと知ってるから、フランクの前ではだらしなく伸びたり飛び跳ねたり。無邪気な子供の面を露わにする。

 

メアリーの子供らしい可愛らしさが強調されているのは、彼女は単なる才能の器、入れ物じゃないことを強調してるよう。才能もその入れ物も同時に育てていかないと、どちらかがどちらかを凌駕した時バランスが崩れ、人としては不完全になるかもしれない先例が、数学というジャンルには多過ぎる。

 

ついでにダイアンは、世界で最も優秀と言ってもいい人で、その人が一身で二生も三生も生きる方がいいと答えを出してるんだから、才能に惹かれてしゃしゃり出てきたババアの出る幕じゃない。念のため、作中ではそんな下品なことばは使われておりません。

 

非凡な人生を掴み損ねた人ほど、平凡な人生を否定しがち。才能をめぐっての悲喜劇を、幾多も見てきたお国らしさ満点だった。子役を演じたマッケナ・グレイスが、とにかく可愛いくて、いい。