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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

ニコール・キッドマンが砂漠を行く、『アラビアの女王』見てきた

映画 レビュー 映画館

月の砂漠をはるばると~♪ ニコール・キッドマンが駱駝に乗って砂漠を行く。極論すれば、ただそれだけの映画とも言える、『アラビアの女王』を見てきた。サブタイトルの“愛と宿命の日々”で、察するべきだった。。

 

スクリーンに映し出されたタイトルのフォントが、まず昔の少女漫画っぽい。ヴェルサイユのバラ全盛期の、マーガレットコミックスみたいなんだ。

20世紀初頭、ひとりの女性が英国を旅立ち、アラビアの地へ向かおうとしていた。彼女は英国鉄鋼王の家庭に生まれ社交界デビュー、オックスフォード大学を卒業した才女ガートルード・ベル。

自由なトラベラーであり、考古学者であり、諜報員となったベルは、やがて“イラク建国の母”と称されるほどにアラビアの地に根付き、情熱を注いでいくのだった。

望んでも叶わない2度の悲恋、アラビアのロレンスとの出会い、度重なる困難―。それらが彼女のこころを嵐のように翻弄し大きな傷跡を残したとしても、約束の地こそが、彼女の大いなる生命の源となっていく―。やがて時代は大きなうねりとともに転換し、彼女はその渦の中心の存在となっていくのだった・・・。

(映画フライヤーより引用)

 あらすじ説明がもっともドラマチックって、どうなのよ。。


『アラビアの女王 愛と宿命の日々』予告

朝ドラでは二十歳そこそこの女優さんが、老け役まで演じるのに慣れ切ってしまっている今日この頃。1967年生まれでアラフィフのニコール・キッドマンが、大学を出たての二十歳そこそこのベル役を演じるところにもっともドキドキしたさ。いえ、お美しいのでいいんだけどね。

 

オペラ、例えば『ラ・ボエーム』だって、ドドーンとした女性が可憐なミミ役演じてたりするからな。それと一緒それと一緒それと一緒それと一緒とそれと一緒(以下略)と、心の中で10回くらい唱えたさ。

 

砂漠を楽しめる者は2つしかない。ベドウィンと神々だ。それ以外の者には灼熱地獄に過ぎん。

 という台詞が『アラビアのロレンス』にはありまして、ニコール・キッドマン演じるガートルード・ベルは、神々の系譜に連なる人。

 

水をめぐって殺人さえ起こる砂漠なのに、のんびりお風呂に入ってるような人なんだから、常軌を逸してる。そして、「あなたのためなら命もいりません」という忠実な下僕を従えてのベルの旅は、緑滴るイギリスのお屋敷も社交界にも飽いた彼女を楽しませる。

 

たゆたゆーん、と緊迫感なく砂漠を進むベルに、目標は後からついてくる。

 

廃墟をのぞけば文明の影も形も見えない砂漠、時折現れるオアシスは、ほとんどの文明人が目にすることも足を踏み入れることもない土地だから、そりゃ物珍しかろ。

 

アラビアのロレンス』が、特異な時代と特異な傑物を描いたものだとすれば、『アラビアの女王』は、特異な時代にあって、好きを貫いた変わり者のお話。

 

サイクス・ピコ協定にその悪名を残す、外交官サイクスにもベル、怒られまくり。

 

政府の制止もきかず、テロリストが横行する渡航禁止区域に平然と出入りする女性、しかも有力者の娘。「何か」あれば、それこそ自国の外交政策を左右しかねず、現地駐在官吏としては腹立たしい存在なのに、「私そんなの知らなーい」と、どこ吹く風で勝手きまま。

 

自重しないベルだからこそ崇拝者が現れるのか、成就しなかった恋を二回ほど挟み込み、それがまた「神々の遊び」っぽさを濃厚に醸し出す。

 

砂漠を行く神様というより女神様だから、行く先々で歓待を受け、危害を加えられそうなサスペンスフルな場面も皆無。砂漠の民のみなさまは、どの部族も女神様には優しくて、いろーんなお話をベルに話して聞かせる。

 

男性優位なベドウィンの社会に、白人、それも輝くような金髪美女が降りたって、彼らと対等に話をするもんだから、大抵の族長の鼻の下も伸びまくり。

 

砂漠の民ベドウィンは、色々な部族から成り立っていて、氏族関係が複雑に入り組んでる。外部からはうかがい知れない氏族社会の抗争関係や、誰が有力者なのかといった情報こそ機密情報で、ベドウィン攻略、あるいはアラビア情勢の鍵。

 

自衛隊イラクに派遣された時も、現地情報、キーパーソンを把握するのに苦労したとかいうエピソードを読んだことがある。道先案内人を間違えたら、どこに連れていかれるかわかったもんじゃないのと一緒で、キーパーソンを間違えれば、間違った戦略を選ぶ羽目になる。

 

間諜という呼び名は仰々しいけれど、結果的にベルが“愛する人”にあてた手紙に書かれた細やかな情報が、イギリス政府にはお役立ち。ハニートラップという語を噛みしめたさ。

 

アラビアのロレンスもベルも、イギリス社交界の異端児。ともに考古学者ということもあって、意気投合してた。大義なき戦争で疲れ切る前のロレンスは、若々しくて野心もあり、野心が擦り切れおぞましい経験をした後の『アラビアのロレンス』との対比が悲しい。残酷だな、戦争は。

 

治外法権の衣をまとって紛争地帯を行くベルは、最終的にキングメーカーのような存在になる。

 

誰にも決められない、誰が決めても禍根を残すなら、いっそ神様に決めてもらおうとの思し召しか。砂漠という地と超自然とは相性よしで、科学は役に立たないんだ。

 

幾日も灼熱の砂漠を行くベルの、髪も肌もさしてダメージは受けず、最初から最後まで艶やかで美しいまま。超自然すぎて、その美容法の秘密が知りたいぐらい。

 

『フィツカラルド』で船が山を越える、仰天映画を撮ったヘルツォークも、老境に入ると丸くなるんだね。。

フィツカラルド Blu-ray
 

 ただニコール・キッドマンが美しい。砂漠という過酷な状況に身を置いていても美しく、美しいものしかもう見たくないとの意思表示かそれともか。

 

ヨルダン映画なんちゃらかんちゃらも制作に協力していて、砂漠も、砂漠の中のオアシスも、きれいねーと物珍しく見入った。

 

美しく物珍しい砂漠の景色、本来なら観光資源となって外貨をザックザク稼いでくれたものを、サイクスの二枚舌野郎めコンチクショウめ。という、アラブ世界のメッセージが込められてたような気がするのも、超自然か。

 

砂漠なのに、滝のように清らかな水が流れ、先史時代の石器が見つかる美しい場所、気軽に訪れることも叶わないのは、ただ残念さ。

 

生き急ぐ人にはまったくおすすめしないけど、たるたるーんとしたい人ならそれなりに楽しめる。

 

お休みなさーい。