クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

子供の頃に感じた故郷の美しさは本物、『フラワーショウ!』見てきた

ガーデニング界におけるオリンピック的イベント、チェルシー・フラワー・ショーがテーマのアイルランド映画、『フラワーショウ!』を見てきた。


バラにラベンダーにすももにひまわりに。季節の花を見るためなら、遠征も厭わないお花畑好きにとっては、見逃せない。キュートなガールズサクセスストーリーで、安心して楽しめた。


7/2(土)公開 『フラワーショウ!』予告篇

アイルランドの田舎で育ったメアリーは、「自分のデザインした庭で世界を変えたい!」という夢を叶えるため有名なガーデンデザイナー、シャーロットのアシスタントに応募。晴れて採用されるも、高慢で貪欲なシャー―ロットにコキ使われた挙句、長年書き溜めていたデザインノートまで奪われクビに…。

どん底のメアリーがひらめいたのは世界中が注目する「チェルシー・フラワー・ショーで金メダルを獲る」ということ。コネもお金も経験もないメアリーだが、わずか8枠に殺到した2000人の応募者の中から見事合格―。ヒッピー風の庭師や密かに思いを寄せる植物学者のクリスティらで寄せ集めチームを結成し、一路チェルシー・フラワー・ショーへ。果たして―? (映画公式サイトより引用)

 恋は二の次の方が、人生うまくいく

ランドスケープ・デザイナーというお仕事を、初めて知った。現在はランドスケープ・デザイナーとして第一線で活躍する、実在の女性メアリー・レイノルズをモデルにしてる。

 

メアリーが成功のきっかけをつかむ、チェルシー・フラワー・ショーをめぐるストーリー。ところどころご都合主義、時々スピリチュアルあり。でもいーの。

 

若くてコネなし金なしキャリアなしの女性が、100年以上の歴史を持つ世界で成功しようと思ったら、ちょっとくらいハンデもらわないと、やってられない。しかも、メアリーがやろうとしたことは、伝統に大きく背くもの。

 

メアリーをアシストする、優しくてハンサムで多芸な植物学者クリスティは、メアリーがゲットした強力なハンデ。情熱だけでは乗り越えられない、さまざま壁を乗り越えるためのキーパーソンがクリスティ。頼りにならないようで、頼りになるんだ。

 

恋に流されないのが、現代の女性。メアリーにとって一番大切なことは、思い描いた通りの庭をフラワー・ショーで披露すること。生き方がぶれないメアリーに、恋も仕事もついてくる。アイルランドも飛び出す、紆余曲折を経てだけど。

 

生き方がぶれない人には、周囲から支援の手が差し伸べられる。ここも、一見メアリーに都合がいいようだけど、現実だってそんなもの。現実を変えたい人はひとりじゃない。やりたい!と手を挙げた人から順番に、幸運の女神も微笑んでいく。

 

いちばん大切なことは、人と自然との調和

フラワー・ショーは豪華に花を飾り立てる、とても不自然なもの。デザインの新奇性を競う、自然とはかけ離れた庭が、世界でいちばん素晴らしいガーデンデザインと称賛される世界。

 

アトラクションとしては面白いけれど、正直“ほっとする”とか“のんびりする”といった感想は出てきそうにない庭も並ぶ。

 

メアリーは最先端を競う場所に、太古の自然を思わせる庭で挑み、嘲笑もあびる。洗練とは遠く、野暮ったいから。でもさ、最先端を競う場所に、ぽっかり抜け落ちてるものこそ「新しい」んじゃないの?

 

今までになかったもの、これまでの常識を覆すものだったから、真価がわかったのもトップオブトップの人たちだけ。メアリーがアシスタントとして仕えるシャーロットは、イヤな女だけど、見る目だけはあるんだ。

 

とあるシーンでは、もっとイヤなことをするかと冷や冷やしたけれど、そこはやっぱりデザイナーで美を尊ぶ人だもの。美を尊ぶ人は、そうそう醜には転じない、転ばない。

 

子供の頃に見た故郷の美しさを、原風景を信じること

メアリーが育ったのは、アイルランドの雄大な景色の中。しょっちゅう殺虫剤でケアしないといけない、ひよわな花や植物よりも、生命力旺盛な野の花や木々が幅をきかせる場所。

 

王侯貴族のお庭のように、人の手がかかりまくった庭も美しいけれど、雄々しささえ感じさせるワイルドな自然も、同じく美しい。サンザシの花、意識したことはなかったけど、すでによく見知った花だった。

 

メアリーがやろうとしたのは、人の手がかかりまくった不自然なものこそ素晴らしいとされる美の基準を、もっと素朴で簡素な方向へと引き戻すこと。

 

世界のフラワーマーケットを牽引するガーデンデザインや、最先端のガーデンを飾る花もまた、最先端の育成技術を駆使して生まれたもの。最先端のものは、きらびやかな世界、資金力豊富な都市でまずはもてはやされる。最先端の商業施設とか、セレブリティが集まる場でとか。

 

ところが美の基準をもっと素朴で簡素な方向に引き戻すと、素朴でワイルドな野の花や木々がある場所も、あら結構いい所ねと見直されるようになる。見直されると、花を見るためなら遠征も厭わないお花畑好きが、はるばるその場所へと足を運ぶようになる。

 

メアリーはフラワー・ショーで成功への足掛かりをつかんだとはいえ、そこは茨の道。彼女の挑戦は、それまでのガーデンデザインの常識だけでなく、経済的な生態系も覆すことになるから、ギョーカイの人は彼女に冷たいんだ。

 

サポーターも増えたけど、むしろフラワー・ショー以後の方が、実際は大変だったのかもしれない。そこは描かれてないけれど。

 

子供の頃に見た原風景こそ素晴らしいとぶれないメアリーだからこそ、不毛な大地に木々を、いずれは花を芽吹かせるのかも。“残ったものを守り、失ったものを再生させ”ながら。名前も覚えられない新種が逐次投入される、市場とはまた別の場所から。

 

正直ある種のアピールが時々ウザかった。とはいえ、そこは甘受しましょ。何しろヒロインは、コネもお金も経験もない若い女性だったんだから。

 

魂が震えるような大きな感動とは無縁だけど、希望が感じられて、それなりによかった。

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