クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

死にたくても死ねない長寿社会の一面を描いた『ハッピーエンドの選び方』見てきた

ブコメを予想させるタイトルを思いっきり裏切った、イスラエルの老人ホームを舞台に終活を描いた映画、『ハッピーエンドの選び方』を見てきた。文字通り、ハッピーな人生の終わり方、今どきっぽく言えば終活を模索する老人たちをユーモラスに描いてた。

 

老人ホームが舞台だけあって、登場人物のほとんどが前期高齢者、65歳以上と思われるおじーさんとおばーさんばっか。でもお茶目。地方都市に住んでいると、気がついたら周囲はジジババばっかりという状況はさして珍しくもないので、違和感少なし。

 

老人ホームといっても小奇麗で、プールや温室などの娯楽施設もある、お金持ってないと入れなさそうな老人ホーム。ただし保険はきくみたい。出てくる老人たちも小奇麗で、テーマはずばり「安楽死」。


映画『ハッピーエンドの選び方』予告編

 快適で小奇麗で、することといえば暇をつぶすだけ。そんな人生の楽園のような場所で、いかにして最後を迎えるのか。適度にお笑いシーンも入るので、湿っぽさはナシ。笑いありしんみりありで、ちゃんとエンターテインメントに仕上げてた。

 病に苦しむ友のための“ある発明”をきっかけに、結束して救出プランを立てるヨヘスケルと仲間たち。友のために奮闘し前向きな彼らは、常にユーモアを忘れません。彼らの姿は可笑しくも、生きる力をくれます。秘密だったはずの発明に依頼が殺到する一方、妻レバーナの認知症は進行してしまいます。自分でなくなることを恐れる妻と、現実をなかなか受け入れられない夫。それぞれに葛藤し、想いあう夫婦が下す決断とは。

(映画公式サイトより引用)

 予告編ですでにバレバレなんだけど、ヨヘスケルおじいちゃんの“ある発明”とは安楽死マシーン。安楽死マシーンという秘密兵器を携え依頼をこなす彼らの姿は、必殺仕事人みたい。必殺仕事人と違うところは、恨みを晴らすためでなく、希望を叶えるところ。

 

そろそろ後期高齢者となる実家の親も、死にたくても死ねずに長生きすることを恐れてる。生きてるのか死んでるのかもわからない、あるいは苦痛だけが続くような状態で、医療に生かされ、緩慢に死を迎えるのが高齢化する先進国の今の姿。(イスラエルが先進国かどうかという話はひとまず置いておいて)。

 

高齢者自身がその状態をどのように捉えているのか。老人、当事者を主役にしたところがスバラシイ。老人医療に携わる医療者やケースワーカーが主役だったら、もっと社会性が強くなり過ぎて、場合によっては“嘘くさく“なる。映画そのものがそもそも作りものだけど、そこはやっぱり見てきたような嘘の方が楽しい。製作者インタビューによると、安楽死の当事者に取材もしてるとか。

wired.jp

 基本的にお笑い要素多めだけど、妻のレジーナの認知症が発覚する辺りから物語は転調し、もの哀しさ多めになる。

 

年齢層高めの観客席からは、実はむせび泣くような声も聞こえてまいりまして。このあたりは、経験者であれば胸を衝かれるようなエピソードになってるのかもだけど、未経験なので泣き声の方が気になった。。

 

とはいえ予告編を見ればわかるけど、老いてもなお美しく、若い頃はさぞかし美人であったと思われる素敵な女性が、自分を見失っていく姿は辛かった。ハッピーな人生の締めくくりには、看取る方の覚悟も問われることを織り込んでた。友人やパートナーの、「もう終わりにしたい」というリクエスト、あなたなら素直に受け入れることができますか?残される方も辛いっす。

 

この映画の中で、不道徳ではあっても限りない優しさを感じさせるシーンがあって、その温室のシーンがお気に入り。どこかの巨匠が描いた一幅の絵のような、素晴らしく美しいシーンだった。マネの草原の食卓にちょっと似てる。

 

死にたくても死ねない生き辛さに寄りそうのは、ありのままを受け止める限りない優しさで、泣けた。

 

年明け早々、樹木希林を起用した宝島社の「死ぬときぐらい 好きにさせてよ」の企業広告も話題になってた。「いかに死ぬか」がこれからのトレンドなのかも。

prtimes.jp

わりかしマジメに「美魔女と呼ばれたまま60歳でポックリ逝く5つのステップ」みたいなハウツー本、必要とされるかもと思ってる。60歳を65歳にしても70歳にしてもいいんだけどさ。あら3タイトルもできてしまった。

 

美を追求してたら、いつまでも若くて健康なままで、長生きする予感しかしない。適度な運動に栄養の行き届いた食事で髪もお肌もツヤツヤ。睡眠もたっぷりとって、精神衛生上よくないストレスとは無縁に生きてたら、短命に終わりようがない。佳人薄命とはならないのが、今の高齢化社会往年のアイドル、いつまでも若くてキレイなままで、今でもミニスカートがよく似合う。

 

いかに死ぬか。寿命のコントロールに柔らかく切り込んだ、ユニークな作品で面白かった。

 

お休みなさーい。