クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『細雪』と四姉妹考

着物の柄を見るのスキー。朝ドラ『あさが来た』の主人公姉妹、今はお嫁に行ってしまって質素な着物になったけど、幼少期のふたりはそれはもう素晴らしい着物を着てた。着物の柄を見るのスキーとしてはたいへん目の保養になった。

細雪

細雪

 

 着物に姉妹とくれば『細雪』でしょと、アマゾンインスタントビデオにて鑑賞。文豪谷崎潤一郎の原作を市川昆が映画化したもの。何度か映画化されていて、今回見た市川昆監督による『細雪』は三度目のリメイクで1983年作。今も作ることができるのかどうか。素晴らしいお着物の数々を堪能した。映画もだけど。

 

 大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季 折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。三女の雪子は姉妹のうちで一番の美人なのだが、縁談がまとまらず、三十をすぎていまだに独身でいる。幸子夫婦は心配して奔走するが、無口な雪子はどの男にも賛成せず、月日がたってゆく。~小説版『細雪』の内容紹介より引用~

 

 内気で優柔不断な実家暮らし(厳密には分家で暮らしてるけど)のアラサーが、最後には粘り勝ちで超がつく上玉を婿としてゲットするまでのお話。そういってしまうと文学史上に残る名作も台無しだけど、吉永小百合演じる三女の雪子、最初から最後まで見合いしてる。お見合いの合間に、音楽会に行ったり京都に桜見に行ったり、ご飯食べにいったりと、上流階級が有閑生活を満喫する姿が描かれてる。生活費は実家持ちで、佐久間良子演じる次女の一家(小学生の女の子ひとり)と、四女とともに芦屋で暮らしてる。

 

 大阪・船場にて本家を守る長女鶴子を岸恵子、奔放な四女を古手川裕子が演じてる。脇を固める俳優陣も豪華で、『まんが日本昔ばなし』でおじいさんの声を担当する常田富士男が、登場してたりする。何を語っても日本昔ばなしにしか聞こえない、安定のおじいっさんぷりだった。

 

 内気ということもあって三女の雪子、使用人をのぞけば家族以外の他人とはほとんど話さない。話す機会もない。上流階級の人であってもパーティ三昧とは限らず地味な生活をおくってる。音楽会に出掛けたり、それなりに遊び回ってるけども基本地味。しょっちゅう同じような階層の人と集ってお茶会したりパーティしたりする、パーティーピーポーな社交的生活は、ハイカラなもの。海外由来なんじゃないのと思えてくる。親戚付き合いに忙しいのが日本人だった。

 

 家族でありながら友人とも違う、「勝手知ったる」関係性の姉妹でがっちり固まっていれば、他人と深く交流する必要もないのよね。美人姉妹が往々にして仲良しなのも、他者を必要としないから。

 

 四姉妹といえばまず真っ先に『若草物語』が思い浮かぶ世代でもあるんだけど、海の向こうでも姉妹の結束が固いと、友人の存在は希薄。若草物語赤毛のアンみたいに続編が出ていて、成人後も彼女達の結束は固い。それなりに他人とかかわりつつも、“心の友“は姉妹だけ。そんな描かれ方。

 

 幼少時、遅くとも十代前半までに『若草物語』と『赤毛のアン』と『あしながおじさん』を読んでなかった女性は、話し掛けないで欲しいとわりと本気で思ってる。是とするものが恐らく根本的に違ってる。大人になって目覚めてメーテルリンクさんってどんな方?と言い出す人にも、そりゃにっこり笑顔で接するけどさ。

 

 それはさておき『若草物語』で、恐らくもっとも同性の支持を集めそうなのは次女のジョー。サバサバ系ボーイッシュ女子で、作家志望。宝塚の男役的でありながら、隣家の大富豪ボーイに好かれるという夢のような設定。容姿よりも明確なクリエイター志向や性格で好かれる感じ。キャラ立ってるから。

 

 女子なら誰もがジョーに憧れそうなところ、昔からなぜか四女のエイミーの方が好きだった。見栄っ張りで甘ったれでおしゃれ大好きな、今でいうキラキラ女子っぽいキャラ。なぜならエイミーが四姉妹の中で一番おのれの欲望に忠実だから。おのれの欲望に忠実だから、欲しい物はちゃっかり手に入れる。姉の元恋人であっても躊躇せず我が物にして、大富豪ボーイと結婚して何不自由ない生活をおくる。

 

 おのれの欲望に忠実に行動すれば、すべてを手に入れられてハッピーハッピーなのが、海の向こう。一方の日本、『細雪』では、四姉妹の末っ子妙子は奔放で、好きを貫く自由人。好きを貫くのはいいけど、客観的に見ればろくでもない男にひっかかって客観的に見れば貧しい生活を強いられる。本人は幸せそうだからいいんだけど、“自由の代償“みたいな“ほら見たことか、言わんこっちゃない”描かれ方で、好きを貫くと幸せがイコールで結ばれてない。すごく日本的。

 

 好きを貫く四女は厄介もの扱いで、大人しくて優柔不断、ことば少な目の三女雪子に、蒔岡家の男たちは甘い。陰に日なたに雪子を贔屓にする次女の婿(石坂浩二)も、厳しいこと言いながらも本人を前にすると猫撫で声になる長女の婿(伊丹十三)も、鼻の下伸ばしっぱなし。あぁ本当に日本的。

 

現代の恋愛神によると、「本命になれる」女子の適性ばっちりなのが雪子

wedding.mynavi.jp

お金かからない(生活に入用なものはたいてい自分で持ってる、散財の趣味なし)

家庭的(子ども好き、バツイチでもカワイイ女の子もちなら可)

一途(ってか男性は苦手っぽい)

 

 というわけで、もう三十過ぎてるんだから贅沢は言うなとばかりに、バツイチの男性も薦められまくるわりに、最後には超大物をゲットする雪子。

 

 元華族で帝大とアメリカの学位を持ち、航空会社(当時の最先端)勤務の超高給取りという、大物を釣り上げる。ちなみに相手も初婚で、四女の醜聞も気にしない進歩的な人。

 

 これが日本男児の本音だよと、文豪谷崎センセーに見せつけられるようでございます。ムカつくジジイだ。

 

 映画バージョンも男性監督によるものだけあって、姉妹がじゃれ合ってるだけの姿がミョーにエロティック。ほんまもんの姉妹の喧嘩知らんな。。あさりちゃんとタタミみたいに取っ組み合って喧嘩する姉妹は、上流には居ないといわんばかりで夢見すぎ。

 

 四姉妹という設定はいつでも魅力的。友情はすぐに壊れるけど、姉妹なら切っても切れない縁が続く。同じ環境に育っても違う個性を持ち、同時代を生きながらも違う道を行くのが姉妹。そのせいで多分、ドラマチックに描きやすい。現代の四姉妹は、鎌倉や杉並を舞台にする。杉並の四姉妹にいたっては、肉親でさえない。

あの家に暮らす四人の女

あの家に暮らす四人の女

 

 日本の四姉妹像も、そろそろアップデートされてもいい頃。『細雪』をやめて、新しい四姉妹像が、おのれの欲望に忠実でも幸せになれるモデルとしてリメイクされてくといいな。

 

 『細雪』、着物の柄見るのスキー&クラシカルな建物スキーとしてはとっても満足できたけど。

 

 お休みなさーい。