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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

ぶっ壊れていくナタリー・ポートマンが見ものな『ブラック・スワン』見た

映画 レビュー

ブラック・スワンというと、“金融市場での予測不可能な大惨事”を思い起こす方ではあるけれど、一般的には映画の方が有名なんだろうな。。

 

映画『ブラック・スワン』は、ナタリー・ポートマン主演でアカデミー主演女優賞も獲ったサイコサスペンス。古典的名作バレエ『白鳥の湖』を、官能的に、現代的に演じようとするあまり、追い詰められて精神がぶっ壊れていくバレリーナのお話。

 『赤い靴』(異人さんに連れられていく方ではなく童話の方)は、踊りに取りつかれてやめられなくなったバレリーナの悲劇で、『ブラック・スワン』は、完璧をめざそうとするあまりに自分がぶっ壊れていく悲劇。

 

赤い靴を履いた少女は、生涯踊り続けるという呪いをかけられ、白鳥の女王に抜擢された女性は、悪魔の餌食となる呪いをかけられてしまう。

 

白鳥の湖』なのに、王子様の影はごく薄い。

 

ナタリー・ポートマンをはじめとするバレリーナはみな、“魔物”の寵愛を得るために競わされている。舞台における魔物は演出家。魔物の寵愛を失った踊り子は踊れなくなり、やがてやさぐれる

 

近頃ウィノナ・ライダーは、やさぐれて落ちぶれていく役柄がすっかり板につき過ぎて、わたしゃ哀しいよ。。『シザー・ハンズ』に『エイジ・オブ・イノセンス』、可憐で清潔感ある彼女が好きだった。

 

白鳥の女王は、白鳥姫オデットと黒鳥姫オディール、陰と陽で光と影を同時に演じなくてはいけない、難役にして大役。

 

見るからに清楚で可憐なニナことナタリー・ポートマンは、オデットにはぴったりなんだけど、なにしろ色気がない。ついでにバレリーナを演じるために減量してスリムになったおかげで、見事なまでに胸もない。王子様を誘惑するオディールを演じるのは、かなり無理め。

 

とはいえ真面目で練習熱心で、舞台への情熱も人一倍あるニナは、逆に極端なまでの潔癖さで演出家トマの心を掴んでしまう。そして、ありのままの自分とは対極な役を演じるよう命じられた時から、ニナの悲劇が始まる。

 

白とベビーピンクがお似合いで、自室も二十代(多分)とは思えないファンシーさ。ぬいぐるみが多数転がってるニナの部屋は、ティーンのまま時を止めたかのよう。自身もかつてはプリマを目指していた母親は過保護で、いつまでたっても子離れできない。バレエの練習に忙しくてボーイフレンドもおらず、そのことに焦りも感じてない。

 

バレエ団に所属してるくらいだから、バレリーナとしては優秀。美人で才能を生かした職に就き、仕事に忙しいあまりに恋愛は後回しなキャリア女性が、時としてひどく世間知らずで初心なことを思えば納得のキャラ。

 

おまけに自傷傾向があり、鬱屈した感情を外に向けずに内に貯めこむタイプ。あぶねー。ストレスが嵩じると自傷傾向にも拍車がかかり、血を見るまで自身を傷つけてしまうタイプ、超あぶねー。

 

それはヤメテーヽ(>_<)ノ、絶対痛い奴やから。。というシーンがたびたびあって、直視できない。大きなスクリーンで見なくて良かったと、心から胸を撫で下ろしたさ。血、キライ。

 

そもそも精神的に不安定な優等生が、役柄に必要だからとフェロモンを出すよう求められ、ニナは出せないフェロモンに苦しめられる。ライバルとなるリリーはフェロモン撒き散らし系で、ごく自然に彼女の周囲には男が寄ってくる。

 

器質的にそもそも備わってないものを、出すように求められても無理なんだ。

 

普通人であればフェロモンが出ないからと精神が苛まれるほど苦しむこともないけれど、なにしろ彼女はプリマをめざすバレリーナだから、死活問題。死ぬほど苦しんで、死に向かって駆け出していく。

 

黒鳥姫オディールに、観客はそこまでフェロモン求めてへんで。というツッコミは許されないのが美とかなんとかで、退廃と背中合わせな美の世界は厳しくて排他的。

 

32回連続フェッテ、クルクル回ってすごーい!!!や、白くてフワフワしたチュチュがステキ☆とかで満足してたら見下されるんだな、変なの。

 

途中から二ナの妄想ダダ漏れで、妄想と現実の境界が限りなく曖昧になってニナを追い詰めていく辺りからが佳境。サスペンスからホラーへと、ギアチェンジ。

 

ニナ自身も魔物に生まれ変わりそうで、ムズムズする。

 

魚卵系が苦手な人はきっとムズムズするような箇所は、後に立派な黒い羽根へと生まれ変わり、舞台のニナも喝采を浴びる。その頃になるとニナはもうすっかり陶酔状態で、役にのめり込んじゃってる、キケーン。

 

忘我、我を忘れるほどに打ち込むと、物凄いものが出来上がるけれども再現はできない。それでいいのか?

 

黒鳥の女王の誕生は、ブラック社会の幕開けでもあって、突如誕生して世間を引っ搔き回して混乱に巻き込んで、あっけなく幕切れを迎える“ブラック・スワン”とそっくりさ。

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質

ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質

 

 

ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質
 

 そのために失われたうら若き女性の命に、ブラボーと喝采を送るなんてどうかしてる。どうかしてるから、これは悪魔の餌食となるような呪いは、二度と復活させてはならないとする、戒めの物語として見るのが正解。

 

『赤い靴』では、静止の声を振り切って踊る少女の両足は切り落とされた。童話でファンタジックなんだけど、ほんとは怖い怖いお話なんだ。

赤い靴 デジタルリマスター・エディション Blu-ray

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 生身の人間を使って、フィクションの世界以外でやることじゃない。やりたい人は、いかれてる。頭のネジ、しっかりと巻き直してもらった方がいい。

 

出せないフェロモンを出そうと苦悩する、優等生ナタリー・ポートマンの姿に喜ぶ向きはいるかもしれない。スキものが好きそうなシーンも多数で、女優さんは大変ねぇと同情する。女優冥利に尽きるのかもしれないけど。

 

私は最初からフェロモン撒き散らし系でサバサバ系小悪魔の、リリーの方が、この映画では好きさ。

 

お休みなさーい。