クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

甘いぶどう

いちごにマーマレードラズベリー・ブルーベリーにアンズ、いちじくにルバーブと美味しいだけでなく色とりどり。

 

見てるだけで楽しくなるようなジャムが増えて、作るよりも買う方が多くなったけれど、季節になると作りたくなるのはぶどうジャム。素材がお手頃だと、作りたいから作ろうまであっという間。

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ぶどうを実と皮に分け、種を取る。面倒くさいと思うのは当たり前で、そもそも面倒なことをやろうとしている。

 

皮からは美しいぶどうの色が、種からはジャムのとろみ(=ペクチン)が出るからわざわざ分けて、お茶パックに詰めておく。砂糖(ぶどうの正味量に対して70%くらい?)をまぶしたぶどうの実からぶどうジュースがたっぷりしみだしたら(1時間は置く)コトコト煮詰めていく。

 

ぶどうの実の形が崩れ、液体状になった頃が火の止め頃で、仕上げにレモン汁を大さじ1杯くらい加えて出来上がり。

 

加える砂糖の量、煮詰める時間によって甘さやとろみが変わってくるから、果物の風味を残しつつジャムとしてちょうどいい固さに仕上げようと思うとやっぱり経験がものを言うんだろう。

 

たっぷり作ったジャムで作りたいのは、リンツァートルテもどき。

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クッキーのような柔らかい生地でタルト生地を焼いて、ぶどうジャムとクランブル(小麦粉とバターと砂糖から作ったそぼろみたいなもの)をトッピングしてみる。ジャムタルトなので相当甘い。

 

相当甘いので滅多に作らないリンツァートルテもどきを頬張りながら、思い出すのは村上開進堂(京都の方)のロシアケーキという名のソフトクッキー。赤・黄色・緑にチョコ、そしてぶどうジャムとトッピングがカラフルで、素朴だけど素朴だから美味しかった。

 

ロシアケーキにクッキーの詰め合わせにみかんゼリーと、置いているお菓子の数もそう多くなく、ダックワーズが追加されたのは平成の頃か。

 

お店の佇まいも、気を付けないと見落としてしまいそうになるほどお菓子屋さんとしては素っ気なかったけれど、指名買いする固定客に支えられたお店はそんなものかも。文明開化の名残りをまとった西洋菓子の老舗は、和菓子の老舗とはずいぶん趣も異なって、異なる趣はそのままルーツの違いを表しているんだろう。

 

ロシアケーキにロシアチョコレート、バームクーヘンにフランクフルタークランツなどなど。フランス由来のお菓子はもちろん、ロシア由来のお菓子にドイツ由来のお菓子。明治になってからやってきて根付いた西洋菓子は、進化が著しいからつい忘れそうになるけれど、最初期に“西洋菓子”というフロンティアを開拓したお菓子屋さんはそっちの方。

 

お菓子に限らず何かを食べる時には思い出も一緒に食べている。

 

はやりすたりに関係なく、最先端から見たときにどんくさいと思われるようなものがどんくさい見た目のまま残されるのは、“思い出と一緒に食べている”あるいは“思い出があるから手に取る”という人の数は案外多いんだと知ってるからかも。

 

味覚が保守だと思うのはニューフェイスが残りにくいからで、ニューフェイスが残りにくいのはニューフェイスと共にする思い出はいつも少なくなりがちだから。

 

西洋菓子に西洋料理。そもそも根付きにくい歴史の浅いものがしっかり根付いて進化したのは、広告とか宣伝とか。最初期の物量が圧倒的だったという名残に思えてくる。

 

特定エリアでしか手に入らない食べ物の思いではルーツにつながって、ルーツにつながるからレシピも残りやすい。


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(皮の色が美しい種無しぶどう。煮詰めるといちごジャムのような色になった。ぶどうらしいきれいな紫色に発色するのは、種もあるキャンベルの方だった。)

逆にどこにいても手に入りやすい、特にルーツを持たない食べ物のレシピは残りにくく、作る人がいなくなると食べ物そのものが消滅してしまい、看板を付け替えて別のどこかでニューフェイスとして誕生しているのかも。かもかも。