クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

ハンバーガーがちっとも美味しそうに見えない、『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』見てきた

優秀なセールスマンは、なんでも売る人のこと。

 

では、この映画の主人公であるマイケル・キートン演じるレイ・クロックは、優秀なセールスマンかというとちょっと違う。何でもは売れなかったから。彼がとっても上手に売ったのは、ビジネスモデルというツルハシ。しかも、強引にその商材を我が物とした。

 

誰もが知ってる超巨大外食チェーン“マクドナルド”。その創業の秘密に迫った『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』は、ビジネス誌にありがちなPRかという先入観を思いっきり裏切ってくれる。ハンバーガー食べたいとは、微塵も思えなくなるから。

 

創業者はマクドナルド兄弟。なのに、彼らの影はどんどん薄くなる

ケンタッキーフライドチキン(KFC)の創業者は、カーネル・サンダースおじさん。では、マクドナルドの創業者は?と聞かれ、即答できる日本人はきっとそう多くはない。

 

正解は、マック&ディックのマクドナルド兄弟。でも現在では、影が薄いんだ。

 

KFCと違い、マクドナルドがピエロ(クラウン説もあり)のドナルドをマスコットキャラクターにしたのもさもありなん。主要顧客であるお子様には理解不可能な、“大人の事情”が絡みに絡んでいるから、創業者をマスコットにするわけにはいかなかった。

 

52歳の冴えないセールスマン、レイ・クロックは、ある日シェイクミキサーの大口注文を受ける。一体誰が発注したんだと発注先を訪ねてみれば、未だかつて見たことのないシステムを採用し、大人気となっているハンバーガー店“マクドナルド”があった。

 

ハンバーガー店“マクドナルド”創業者であるマック&ディックのマクドナルド兄弟は、創意工夫に富んだ、職人気質かつ実直な人たち。

 

品質管理にこだわり、作業効率にこだわり、顧客を満足させることにこだわった。

 

その知恵と工夫が詰まった“マクドナルド”を見て、レイは閃く。フランチャイズにして、全米に進出しようという野望を抱き、渋る兄弟を説き伏せ契約書にサインさせる。

 

レイ・クロックに共感できる人は、きっと野心家

この映画は、主人公であるレイ・クロックに共感できるか否かで、作品の見方も随分変わる。共感できるか否かで見る人の、野心があるか無しかもすっかりあからさま。

 

そもそも数の拡大を望んでない人に数の拡大を迫り、事前に契約書に取り決めた事項も次々と反故にしていき、挙句の果てには品質を落とそうとする。おもにレイの、もっと儲けたいという動機から。

 

そんなに儲けを独り占めしたかったら、自分で同じような店を起ち上げればいいのに、レイはあくまで“マクドナルド”にこだわった。創業者であるマクドナルド兄弟、大迷惑。

 

同じく野心家の女性との出逢いを経て、レイの野心には加速がかかる。家庭をも壊していくレイの行動も、一般的にお子様には聞かせたくないお話。

 

だからこの映画は、大人のための作品。

 

ひとりの猛烈ツルハシセールスマンによって、創業者兄弟の世界が壊れ、家庭が壊れ、レイが夫婦で築いてきた交友関係も壊れる。

 

その代わりレイが手に入れたのは、不労所得が転がりこんでくる、超巨大外食チェーンというシステム。

 

システムさえあればいいから、ハンバーガーショップであるにもかかわらず、レイの商品に対する愛情も関心も薄く、レイは成功者となるや以前の世界とはきっぱり手を切った。レイやレイの新しい世界での関係者にとって、得たものは多いけれど、レイによって破壊された人たちが失ったものは、二度と戻ることはなかった。

 

両方の世界を見てもなお、良心が痛まない人は、野心たっぷりな鈍感力の持主だから、オールドタイプなビジネスシーンでは成功しやすいかも。かもかも。

 

なぜ“マクドナルド”だったのか?

マクドナルド兄弟の“マクドナルド”に出逢うまでのレイは、そこそこ立派な家はあるものの、成功者とはとても言えない人。付き合いのあるもっと成功した人たちからは、時に嘲笑される立場でちょっと情けない。

 

50過ぎて出逢った“マクドナルド”は、レイにとっての金鉱脈。成功者とは言えなかったレイを、名実ともに成功者にした存在だから、レイは“マクドナルド”に執拗にこだわった。

 

もしもレイが優秀なセールスマンで、何でも売れる人なら“マクドナルド”にここまでこだわらない。彼を成功者にした、「特別な存在」だから“マクドナルド”にこだわり我が物にしたがった。盗んででも。

 

作れないから、盗むしかなかった。

 

あのマークを見れば、一目瞭然。誰にでもわかりやすく、マークを見ただけでそのお店の雰囲気や味まですっかり思い出せる。そんなお店は、誰にでも作れるものじゃない。商品やお店に対するこだわりから生まれたもの。商品に対するこだわりに欠ける人に、そんなお店が作れるはずがない。

 

誰にでも作れるものじゃないとの自負があったから、マクドナルド兄弟はオープンで無防備。まさかハンバーガーショップというコンセプトはそのままに、すっかり別ものにされてしまうなんて、夢にも思わなかったに違いない。

 

望まない競争に巻き込まれないために、どうすればいい?

レイ・クロックは、競争社会の弊害を体現したような人物。

 

競争社会のもっとも大きな弊害は、競争に負けた者が、勝者を素直に祝福できないこと。勝者の足を最大限引っ張りにくること。

 

レイは成功者ではなかったから成功にこだわり、人生終盤戦で手に入れた成功に、とことんこだわった。例え迷惑がられても。そのこだわりが、少なからぬ人を不幸にした。

 

そしてマクドナルド兄弟は、望まない競争社会に巻き込まれた被害者。金銭的には救済されても自尊心や生き甲斐を奪われ、失意に勝る人生が、幸福であるわけがない。

 

フランチャイズというシステムは、契約によって職能や権限あるいは給料が明文化された状態での起業意欲を掘り起こす面がある。

 

ギルド的で職能も権限も給料さえ不文律の多い世界では、起業しようという気にさえならない人でも、起業に前向きになれる。レイは起業意欲のある人を次々と登用し、家族のように丁重に扱うことで結束を強め、グループの原動力とした。

 

でもさ、その輪に入りたくなかった、最大勢力となることに微塵も興味も関心も抱かない人が、レイのような野心家に狙われたらどうすりゃいいんだか。

 

品質管理にこだわり、作業効率にこだわり、顧客を満足させることにこだわりはあるけれど、規模の拡大をめざさず勝てる土俵でしか勝負したくない人。そんな人や企業を貪欲な競争至上主義者から守るためには、新しい仕組み、Bコーポレーション的な認証システムっぽいものが必要に思えた。

 

競争に巻き込まれたくはないけれど、商売は続けたい人や企業が何らかの認証を受け、規模の拡大と利益の最大化をめざす企業や人から何らかの侵害を受けたら、強力なペナルティが課せられるようなイメージ。

 

声さえ上げられない人を守れるのは、結局のところ、最終的には法律しかないからさ。

 

ハンバーガーを売りたかったら、もっと美味しそうにハンバーガーを描くはず。だからこの映画がウリにしたのは、ハンバーガー以外のもの。

 

フランチャイズというシステムは世の中を均質にする一方で、均質化に巻き込まれたくない人は不幸にする。欠陥もあからさまで、世界で同時に均質化が進むグローバリゼーションって罪よねと認識されている今、レイのビジネススタイルを素晴らしいと褒めるには鈍感力が必要。

 

だからレイ・クロックを持ち上げるビジネス誌やビジネスマンは、鈍感ってことで、もうそろそろ老害になってるんじゃない?

 

品質管理にこだわり、作業効率にこだわり、顧客を満足させることにこだわりがあり、規模の拡大をめざさない店や企業こそ贔屓にしたい顧客、創造するまでもなく、今も昔も変わりなくその辺に居るんですけど。という気分も盛り上がったさ。

 

お休みなさーい。