クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

身近だけどよく知らない、『日本海 その深層で起こってること』

今日から9月。

 

・日本代表2018年ワールドカップに出場決定

民進党代表に前原氏が選任

・アメリカ中間層でオピオイド中毒が深刻化

 

文章を読むときには、それが一体いつ書かれたものなのか。とっても気にする。毎日大量のニュースを読んでいるけれど、今日気になったのはこの三つ。気になったというよりも、今日という日はこんな日だったを彩るニュースとでも申しましょうか。

 

種明かしされた手品だって楽しめる人は、鈍感って言うんでしょ。

 

海があってよかったを実感したばかり。だからというわけでもないけれど、『日本海 その深層で起こっていること』を読んだ。

 

あちこち旅行している人ならきっと気付いている。日本海側と太平洋側の景色の違い。一般的には日本海側の方が文化的遺産も多く、見るべきものもより多い。

 

太平洋は世界に通じているとはいえ、流されたらそれっきり。太平洋を航行してもヘーキな大型船や操船技術が発達する前は、日本海での交易や交流が活発だった。その名残が、裏日本には文化的遺産として残されている。

 

あってよかったね、日本海。おまけに大陸からの絶妙な遠さによって、独立も守られた。

 

日本海 その深層で起こっていること』は、そうした歴史的文化的考察も織り込みながら、基本的には日本海の科学的な特性に焦点をあてた本。なんたってブルーバックスだしな。科学的じゃなかったら逆にびっくりするわ。

 

専門領域に踏み込みながらも、基本的には初学者に優しい。

 

世界の海、外洋と比較すれば、日本海は風呂桶サイズの狭い海。けれどその奥行きは深く、いくつかある海峡はいずれも浅いから、ゆえに他の海とは独立した環境、閉鎖性を保っているんだってさ。

 

閉鎖した狭い環境だけど、その内部で起こっていることは、世界の海で起こっていることを、そのままスケールダウンさせたもの。だから世界でこれから起こることを真っ先に教えてくれる、「炭鉱のカナリア」的役割が期待できるんだとか。

 

注目してるのはもちろんアカデミックな人たちで、アカデミックな研究を多国間で同時推進したいから、彼らはいつだって国際協調の側に立つ。

 

さらに言えば、アカデミックな研究の一部は産業に還元されるものだから、結果的に経済的得失に繋がっている。環境の悪化による変化をいち早く知ることができたら、経済的損失に対する対策も、それだけ早く打てる。

 

海洋の酸性化が進めば殻や骨格が作りにくくなると知れば、あら甲殻類の未来はいかに???という気分だって盛り上がるさ。

 

日本海は古来、交易や文化交流の船が行き交った場所。善きものは取り入れて、善くないもの(例えば外敵とかさ)を絶妙にシャットダウンしてきた結果が、現在の日本につながってる。

 

壁なんか築かなくっても、天然の要塞に守られてきたようなもの。

 

日本海を語る上で重要なのは、「造水装置」と「熱塩循環」。

 

日本海沿岸はたいていの場合降雪量も多いけれど、降る雪のもとを正せば日本海の水。冬に雪となって降り注いだ日本海の水の一部は、地中に蓄えられ、豊かな森林を形成するのにお役立ち。

 

人工的に海水を淡水に変えようとすれば、素人考えでも途方もない費用と手間がかかることは、容易に想像がつく。

 

日本海という天然の造水装置を持っているおかげで、砂漠に雨を降らせるようなコストとは無縁でいられるんだから、ありがたい。

 

日本海のように、深い水深と閉鎖環境を持つ海にはトルコの黒海があるけれど、あちらは海面に近い海でこそ漁業は盛んながら、深層では無酸素状態の死の海。

 

日本海深層にまで酸素が存在するのは、表層と深層が適度に攪拌される、熱塩循環のおかげ。

 

とはいえ地表が温暖化の影響を受けて、環境に変化が現れるように、海中も温暖化の影響は免れない。海中での温暖化の進行は、熱塩循環の機能不全という形で表れて、熱塩循環が機能不全に陥れば、それだけ死の海にも近くなる。あら大変。

 

洪水や熱波といった、地上で進行する温暖化の影響は目に見えやすいから議論の俎上にも乗りやすいけれど、海中の温暖化は目に見えないだけに、わかりにくいし、伝わりにくい。

 

豪雪地帯単体にとっては、除雪費用が悩みの種で悩ましいけれど、もっと広い目で見た時の造水装置としてのメリットは、いまだ金銭に換算されていないのが現状。だから太平洋側、表日本に人も持ってかれてる。人口増が続いているのは、一貫して太平洋側なんだ。

 

考えてみればそれも、”技術は戦略を凌駕する”のいち形態かもね。外洋航行の技術の発展が、従来あった発展の図式を塗り替えたとでも言いましょうか。

 

とはいえいまだ金銭に換算されていないメリットを、ふんだんに内包した日本海の魅力について、まずは知ることができた。そういやメタンハイドレードとか、どこ行ったんでしょうね。

 

夏で海の季節だったから、夏の間に読み終わりたかった本。ようやく積読を消化して、スッキリさ。

日本海 その深層で起こっていること (ブルーバックス)

日本海 その深層で起こっていること (ブルーバックス)

 

 お休みなさーい。