クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

ローカルスタンダードがグローバルスタンダードになるか『Suicaが世界を制覇する』読んだ

タイトルには、“アップルが日本の技術を選んだ理由”と続く。なぜアップルが、国際標準でもないSuicaApple Payに採用し、JR東日本をビジネスパートナーに選んだのかが、よくわかった。

 JR東日本が乗降客数の減少を見越してSuicaを開発し、単なる交通乗車券にとどまらずにエキナカ需要を開拓し、さらには街ナカ需要も掘り起こして新しい収益源を作ったように、アップルにとって、新しい収益源となれる。モバイル決済という新しい市場で。

 

『決済の黒船 Apple Pay』に続く、Apple Pay関連書として読んだ。

決済の黒船 Apple Pay (日経FinTech選書)

決済の黒船 Apple Pay (日経FinTech選書)

 

 『決済の黒船 Apple Pay』は、モバイル決済専門のジャーナリストによる本だけあって、モバイル決済周りの技術や標準について詳しくなれる内容だった。その点こっちの『Suicaが世界を制覇する』は、クレジットカードや電子マネーに詳しい著者によるもの。

 

だから、ご自分の得意領域であるクレジットカードと電子マネー周りの話が多い。

 

ついでに、「なるのではないかと思ってる」とか推測の域を出ない話も多いので、眉に唾の用意も必要。Apple Payに関しては、アップルにとっても“第三の革命“となる大事な分野だけに、アップル側が情報統制には気を使ってることが伺えた。

 

日本のローカルスタンダートであるフェリカを、スマホのグローバルスタンダードであるiPhoneに採用させるまでの技術的障壁や国際標準の壁について詳述されているのは、『決済の黒船 Apple Pay』の方。だから、読む順番としても『決済の黒船 Apple Pay』を先に読んで、『Suicaが世界を制覇する』を読む方がいい。世界制覇がそう簡単なことじゃないことが、よくわかるから。

 

アップルには新しい収益の柱が必要

強いチームはオフィスを捨てるかのように、GoogleAmazonも、音声アシスタントを搭載したスマートスピーカーへとシフトしつつある。アップルはiPhone(あるいはiOS)の検索サーチとしてGoogleを標準とする見返りに、Googleから巨額の手数料収入を得ているとか。

 

ところで近年Googleの検索結果には疑義がつくことも多くて、一部ではGoogle離れも起き、Googleにとっての収益源である広告収入にとってはマイナスにもなっている。らしい、漏れ聞く限りでは。

 

かといってメンテナンスしないわけにはいかず、収益の源泉であるからメンテナンス意欲も湧くけれど、コストが収益を圧迫するようになったら、新しい収益源を探すのは必然。GoogleAmazonにとって、ハードはiPhoneスマホであらねばならぬ理由はなく、スマートスピーカーという新しい鉱脈がある。

 

でもスマホメーカーであるアップルはどうすんのさ?という文脈で出てきたのが、Apple Payというモバイル決済。新しい鉱脈となりそうだから、第三の革命、決済の黒船というフレーズも、決して大袈裟ではないように思えてくる。

 

技術的障壁についてはなーんにも触れてないところが、ポイントさ。

 

鉄道利用者が世界一多い日本

鉄道における世界の乗降客数ランキングを見ると、たいてい東京の主要駅が上位を独占する。新宿・池袋・渋谷の3駅合計で、2005年時点で一日980万人超。

 

一日に大量の人間が駅の改札を利用するから、フェリカを搭載したSuicaの処理速度は速く、現時点で大量輸送を正確かつ遅滞なく(この遅滞なくが何よりのポイント)さばいた経験のある非接触型ICカードSuicaだけ。

 

2005年と違って、今では新興国、例えばインドや上海でも通勤や通学で大量輸送が始まっている。Suicaは国際標準ではないけれど、大量輸送を可能にしたSuica、ひいてはJR東日本の知見やノウハウは、これから同様のことを試したい国や企業にとっては魅力的。

 

高速鉄道として新幹線が他国に採用されるかどうかは、他国の高速鉄道との競争で国策マターでもあるから、Suicaで世界制覇できるかどうかは、まずは国策マターに昇格できるかどうか。この『Suicaが世界を制覇する』は、技術面での障壁にはあまり触れていないから、多分にロビー活動的な読後感が強い。

 

それはさておき。黒山もこもこ人だかりをさばいた経験やノウハウも、今後新たに黒山もこもこ人だかりを経験するエリアでは、商売の種にだってなれる。

 

VISAカード、どうなるんですかね

モバイル決済が主流となれば、当然モバイルと親和性の高いサービスがこれからは有利となる。

 

新しいプラットフォームに古いままのシステムを持ち込むと、諸々コンフリクトを起こすから、古いシステムの覇者は往々にして邪魔になるんだよねと思う、Apple PayにおけるVISA外し。この本の刊行は2017年5月31日だから、最新の状態がどうなってるかは知らね。

 

ただクレジットカードという、モバイル決済のひとつ前の決済システムの覇者であるVISAは、アップルではなくGoogleと組むんだってさ。

 

アップルはSuicaと組み、VISAはGoogleと組む。VISAと組んだGoogleは、利用履歴などのビッグデータを収益にするつもりで、Suicaと組むアップルは、ビッグデータを使うつもりはない。

 

Apple Payの特徴として、暗号化されたトークナイゼーションという機能があり、個人情報には配慮してるところがウリ。モバイル交通乗車券として、日本以外での使用を、日本と同じくiPhoneの普及率が高い都市や国での普及をまずは目指すのか。もっと大きな話、世界制覇をめざすとなれば、やっぱりワクワクする。

 

少額決済を積み重ねた先

Apple PayはSuicaファーストで、プリペイド式ファースト。後払い方法であるクレジットカードも使用できるけど、「わざわざ」「国際標準でもない」Suicaを選んだのなら、そこにはきっと意味がある。

 

クレジットカードにはクレジットヒストリー(購買履歴とその決済状況)がつきもので、クレジットヒストリーがあれば、潜在的顧客を見つけ出しやすいので、マーケティングにも利用される。

 

Suicaのような交通系ICカードを普段使いしているような人は、チャージ金額にも上限があるからきっとクレジットカードと使い分けをしている。

 

高額決済はクレジットカード、みたいに。

 

Suicaに貯まっていくのは少額決済のクレジットヒストリーのみだけど、毎日決まった場所に出掛け、少額の買い物が多いけれど確実に決済されているクリーンな履歴があれば、薦めたくなるのはマイクロクレジット

 

投資のような高額なお金は使い道もないけれど、少額の融資があれば、日々の生活が楽になる人、生活コストが高くなる都市にはきっといる。

 

ディストピアっぽいからあんまり想像したくはないけれど、日々勤勉に働いてもちっとも生活が楽にはならない人、資本を持たないゆえに都市労働者として都市に流入し、生活コストの高さにめげてるような人に、生活インフラと密着したスマホから少額かつ極めて低利かつ返済もしやすい方法があったらどうなのよ。と、考えた。これ妄想です。

 

マイクロクレジットというと、新興国と相性がよさげ。だけど、都市の貧困にもマイクロクレジットの商機はあり、都市だからスマートな方が受け入れられやすい。

 

アップル製品を使ってるところがポイントで、プライドが高くて格安スマホは使えないけれど、消費スタイルが仇となって懐は確実にさみしい層、見えてる人には見えてるかも。かもかも。鴨がネギしょってそこにいたら、何とかしたくなるでしょ。

 

IT企業が銀行、金融機関へと変わる可能性

スマホというハードを持ち、通信料の支払いを通じてとりあえずの与信も本人確認も済んでいる。今は通信料を運んでいるだけのハードに、別のものを載せたら既に世界中にある通信網も有効活用できる。

 

モバイル決済はモバイルATMでもあって、現実のATMと違ってすでにハードが世界中に普及している。しかも通帳いらずで、スマホで完結するペーパーレスでキャッシュレス。

 

カード会社はすでに決済機能を代行していて、国際間における決済も経験済み。そのカード機能を取り込んだモバイル決済が日々の生活を侵食するようになったら、銀行の存在意義が、また薄くなる。長財布はアナログの象徴として、飾りでしかなくなるかも。飾りゆえに、生き残る可能性はあるんだけどさ。

 

と、技術まわりの話が出てこないだけに、大風呂敷も限りなく広くなる。EMV対応されていない店舗による偽造カードの損害は、これまでのカード会社持ちから、店舗や店舗管理者に課せられるライアビリティシフトには、一切触れてないところは故意なのか?

 

モバイルファーストで大量輸送をさばくこととなる、新興国の出方、そこで生まれる技術がかえって気になる一冊だった。

waltham7002.hatenadiary.jp

お休みなさーい。