クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

サヨナラは新しい日々のはじまり。新海誠による正統派ジュブナイル『星を追う子ども』見た

ジブリアニメでもう一度見たい作品ってなんだろな。。そう思いつつアマゾンプライムビデオを漁っていて見つけた作品

星を追う子ども

星を追う子ども

 

 ジブリアニメじゃないけれど、ジブリに似すぎと批判されてるくらい、『星を追う子ども』はジブリ風の正統派ジュブナイルだった。児童文学の系譜に連なるような作品が好物な人間の、ハートをわしづかみ。

 

秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』で有名な、新海誠作品。有名な人だけど、CMくらいしか見たことありません。初めて見る新海誠作品が、『星を追う子ども』なのは、もしかして異端なのかも。

 

ファンだったら、従来の作風との違いなどが気になるのかもしれないけど、そんなこだわりなんにもねーので、たいへん前のめりに楽しめた。

ある日、父の形見の鉱石ラジオから聴こえてきた不思議な唄。その唄を忘れられない少女アスナは、地下世界アガルタから来たという少年シュンに出会う。2人は心を通わせるも、少年は突然姿を消してしまう。

「もう一度あの人に会いたい」そう願うアスナの前にシュンと瓜二つの少年シンと、妻との再会を切望しアガルタを探す教師モリサキが現れる。そこに開かれるアガルタへの扉。3人はそれぞれの想いを胸に、伝説の地へ旅に出る―。

(公式サイトより引用)

 “イザナミイザナギ神話 + インカ文明風地下都市 + ボーイ・ミーツ・ガール”なストーリー。

 

  • 健気系優等生のヒロインが巻き込まれる形で旅に出る
  • 光る鉱石がキーポイント、謎の生物や謎の武装グループ登場
  • ダークヒーローな雰囲気満点かつ時に尊大な大人キャラ
  • 気のいい賢者位置の老人登場
  • ヒロインにまとわりつく小動物

 と、そのあたりが「ジブリに似てる」と批判されるゆえんかも。でもそれ、児童文学のお約束でもあるような。

 

亡き妻との再会を求めて地下都市アガルタへの入り口を探していたモリサキと、モリサキと同行することになったアスナ。彼女たちが旅する地下都市アガルタが、これまたたいそう魅力的。ムー大陸アトランティス帝国など、失われた古代文明が好きな人ならきっと好きになれる、インカ帝国風。

 

ケツァルト、アルカンジェリと出てくる名前もインカ風なら、ときに廃墟が広がる国の景色や、大草原、地上人に蹂躙された歴史を持つ地下帝国など、インカ文明を彷彿とさせるアイテムがいっぱい。

 

テーマは“サヨナラ”あるいは“生と死”。キャッチコピーは「それは、”さよなら”を言うための旅」。

 

アスナはアガルタから来た少年シュンと、アガルタの少年シンは兄と、モリサキは最愛の妻と、それぞれ別れを経験している。

 

それぞれが納得できない別れを抱えたまま、亡き妻の蘇生を願うモリサキの旅に、同行する形になるアスナとシン。

 

納得できない妻との別れを“無かったこと”にしたいモリサキの妄執が、ストーリーを引っ張っていく。年長者ほどあきらめが悪く、全身全霊を込めて愛せる対象に出会う機会は、年長者ほど希少だと知ってるからとも言える。

 

アスナは亡きシュンの面影をシンに見ていて、シンは兄シュンの尻拭いをさせられている。三者三様に、それぞれが“亡き人”に引きずられている状況。

 

それ以外にもヒロインが可愛がっているネコの死など、死がいっぱいで、無意味な死ではなく、意味のある死が描かれる。

 

生きていく上で、死や別れは避けらないという、真理を盛り込みまくり。避けられない死や別れと、どう折り合いをつけながら生きていくのか。死生観に踏み込んでいるあたりが、とってもジュブナイルっぽい。

 

普通の世界なら死は終わりを意味するけれど、異世界でなら蘇生できる方法があった時、試すのか試さないのか。

 

どんな困難を前にしても試そうとする人は、妄執に囚われている人。そうまでして蘇生を願うベースには、心ならずもそばに居ることができなかった後悔と、ひとりで取り残される、孤独への恐怖がある。

 

妻に先立たれた年配の男性が、ときに自暴自棄になるのは孤独に耐えられなくなるから。モリサキは孤独に耐える代わりに、タブーを破ってでもことわりを変えようとする。

 

ことわりを変えようとするモリサキの姿が、年若きアスナとシンに及ぼす作用が見もの。

  • 穏やかな死か、厳しさが待ち受ける生か
  • 死者の国でともに生きるのか。
  • 死者と生きるもの、二度と交わることはなくても相手の生を願うのか。

 そしてみんな仲良く暮らしましたとさ、メデタシメデタシとはいかないから、みんな仲良く暮らしましたとさで終るストーリーが、繰り返し現れるもの。

 

“喪失を抱えてなお生きろ、それが人に与えられた呪いで祝福“というメッセージが、どこまでも重く後を引く。

 

どうしても会いたかった人にすでに会っている人なら、きっと相手に祝福を贈る。誰かに救われた人は、より良き生を願ってシュンのように、救ってくれた誰かに祝福を与えて送り出す。醜いまでに相手の生を願う気持ちと、どこまでも優しく美しく相手の生を願う姿の両極端が描き出され、そのどちらもアリなんだと伝えてくる。

 

醜いまでに相手の生を願う人には孤独があり、美しく相手の生を願う人には諦観があるから、どちらも肯定できる。

 

空から降りてくる“神々の舟”シャクナビバーナの外観とか、キャラ以外もステキ過ぎ。死生観に踏み込みながら、最後はすっきりとした幕切れなところもジュブナイルとして秀逸。実によい拾い物で大満足した。

 

お休みなさーい。

 

今週のお題「映画の夏」

 

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