クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

子役の少年が超絶カワイイ『ルーム』見てきた

閉じ込められた人<閉じ込められなかった人。

世界の中でも圧倒的少数の、特異な体験をした人に寄り添った、とても誠実な映画だった。ちっちゃくて可愛くてベリーベリーキュートで、もう少し大きくなったら生意気な口も聞くようになるからもう少しこのままでいてと、可愛さいっぱいの年頃をスクリーンに閉じ込めたような子役の少年が、超絶可愛かった。これから出逢う世界が彼に優しくありますようにと願う、“はじめまして世界”というキャッチコピーがとてもいい。

 閉じ込められた<部屋>で暮らす、ママとジャック。体操をして、TVを見て、ケーキを焼いて、楽しい時間が過ぎていく。しかし、この部屋が、ふたりの世界の全てだった。ジャックが5歳になった時、母は<部屋>しか知らない息子に本当の世界を見せることを決意する。

(映画フライヤーより引用)

 キッチン・バス・トイレ。一瞥するだけですべてが視界に納まるような、狭い部屋に閉じ込められたジャックとママ。閉ざされた世界で暮らす二人は仲睦まじくて、閉じ込められた部屋で暮らす人たちなんでしょという悲壮感は薄い。


映画『ルーム』予告編

ジャックの目から見た世界が映し出され、バースデーケーキにキャンドルなしの生活も、文句は言いつつこんなものかと受け止めてる。ジャックはテレビ以外の他の世界を知らないから。

 

狭い部屋の中で、5歳児らしく元気いっぱいのジャック。ママと一緒に定期的にストレッチをして規則正しい生活を送ってるおかげで、健やかに育ってる。ジャックの暮らす世界は狭いけれど、その代わり想像力はどこまでも広がって、創造力がほとばしった空間になっている。

 

卵の殻で作ったおもちゃ、壁いっぱいに張られたジャック作のアート。拘束された不自由な生活でもみじめったらしくならないよう、精一杯の工夫が凝らされている。

 

健やかに育つジャックとその部屋を見れば、母親のジョイが脅威の忍耐力を発揮して、ジャックを育ててきたことがわかる。ジャックもママに全幅の信頼を寄せていて、ママと仲睦まじく暮らすその空間は、一種の神の国。そこに、時々悪魔が訪れる。

 

ジョイは、狭い空間でも悪魔がジャックに接触しないよう、細心の注意を払っている。不運なめぐり合わせが、たまたま三つか四つか重なって出来上がった閉鎖空間から、ついにジャックを脱出させようとするママ。ジャックにはママの決死の覚悟は伝わらないから、5歳児らしく泣きながら抵抗するジャックが痛々しい。

 

その部屋で暮らすのに、5歳はぎりぎりの年齢。ママのベッドで一緒に寝てもおかしくない、ちょっと大きなぬいぐるみ以上の存在になれば、それまでのようには暮らせない。

 

ジャックが外への脱出を図るシーンが前半のクライマックス。ここもジャック視点だから、恐ろしさと戸惑いが目いっぱい伝わってきて胸が痛む。「はじめてのおつかい」波乱万丈大冒険編だから、冒険が終わった時の安堵もひとしお。よくがんばった!!!怖かったねとおいおい泣ける(そこまで泣いてないけどさ。。)

 

 で、この映画が素晴らしいのはこれ以降。

 特異な経験は、一般化できない。誰の身にも起こり得ることではないから、完全な防御策も存在しない。特異な経験をした人に、後出しでこうすればよかったんじゃない?という一般常識をぶつけるのは、滑稽でしかない。

 

余計な好奇心で何かを語ることも、知りもしないことを訳知り顔で「こうなんでしょ」と詮索することも、被害者にとってはすべて余計なこと。傷が癒えるのを静かに待てばいいだけなのに、世間はほっておかない。

 

世間というモンスターの好奇心に応えようとしたママ・ジョイは、かえって心の傷を深めてしまう。

 

歯医者にも行けず、虫歯が取れる生活でも脅威の忍耐力を発揮して、ジャックを健やかなまま世界に送り届けたのはジョイなのにさ。ジョイの勇敢さや賢さには目を向けず、落ち度を探そうとするのが世間。世間というモンスターに餌を与えず飢えさせたまま、ジャックやジョイを好奇の目から守ろうという、優しい決意がみなぎっているから素晴らしい。

 

どうしてもジャックが受け入れらない人が居ることも描きつつ、それでも時が解決してくれると、優しい時間が通り過ぎていく。

 

普通の人よりも、ちょっと世の中に出てくるのが遅かった子。彼が過ごしていたのは、ジャックを健やかに育てるために細心の注意が払われた、ちょっと変わったゆりかご。ちょっと変わったゆりかごに、ジャックはただ長く居過ぎただけ。

 

遅れて世の中に出てきただけの男の子の世界が、歪んでしまわないように。ハンディにならないように。ただ優しく見守りましょうと呼びかけた映画。そのおかげで、ジャックは最後まで飛び切りキュート。

 

「ドアが開いていれば部屋じゃない」。閉鎖空間でもすくすくと育った子。大きな世界に飛び出しても、心のドアを閉ざさずオープンにしていれば、きっとのびのびと育ってゆけるはず。いつまでも健やかであれと思うラストで、すごーくよかった。

 

部屋 上・インサイド (講談社文庫)

部屋 上・インサイド (講談社文庫)

 

 

部屋 下・アウトサイド (講談社文庫)

部屋 下・アウトサイド (講談社文庫)

 

 

お休みなさーい。