クローズドなつもりのオープン・ノート

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宮部みゆきの原作をリメイクした韓国映画『火車 HELPLESS』見た

近頃は時代小説作家として活躍中の宮部みゆき原作の『火車』。山本周五郎賞も受賞した初期の傑作ミステリーをリメイクした韓国映画、『火車 HELPLESS』を見た。


「火車 HELPLESS」予告編

舞台も韓国になり、ストーリーには大胆な改変が加わって、登場人物もみな原作とは違う韓国風の名前を与えられながらも、中身はしっかり『火車』だった。

 

見終わった後のキ・モ・チ。

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借金が原因で人生を狂わされる女性がヒロインの映画を、お屠蘇気分も抜けきらない正月に放送するBS11、面白すぎる。年越しで歌って騒いでもチャラにはならない借金、お金にまつわる暗いストーリーは、浮かれ気分の正月に見るとより印象的。

 

原作では人々の証言の中にしか登場せず、最後まで物言わぬ設定だった美しいヒロイン新城喬子。正体のつかめない女性を追いかける元刑事の目や証言者を通じ、女性の哀しい境遇をあぶりだす趣向になっていた。いち個人ではどうしようもない、闇金の違法取立てやカード破産に陥る社会の病理ともいえる暗―い面も描いて、スケールの大きな話に仕立てていた。他にどうすればよかったのか?社会に大きな問いを投げかける作品だったから、社会の反響も大きかった。

 

火車 HELPLESS』では、突然姿を消すヒロイン・ソニョンを追うのは、彼女の婚約者で獣医のムンホ。育ちのいい好青年が、結婚間近の婚約者の失踪に翻弄され、失職した元刑事で従兄弟の協力のもと、ヒロイン失踪の謎に迫る趣向になっている。2時間以内におさまるよう登場人物を思い切って厳選し、婚約者目線で描かれるから、個人的、自分ごととして受け止めやすいストーリー運びになっている。

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ムンホが恋に落ちるシーンや、ムンホとソニョンの仲睦まじいシーンも挟み込み、結婚間近で幸せの絶頂から突き落とされる、ムンホの悲哀がより濃厚に伝わってくる設定になっていた。

 

親の反対を押し切って結婚を決めた女性が突然消えてしまったら?

失踪当時の状況が尋常でなく、何らかの事件性を疑わせるものだったら?

追えば追うほど、本当の彼女の姿は見えなくなっていき、愛したあの人は誰だったのかわからなくなってゆき、謎だけが降り積もるようにできている。

ムンホ、男性から積極的にアプローチして始まった恋。口説き落として、ようやく手に入れたと思ったら、スルリと掌から抜け出してしまったソニョン。

 

韓国映画だから、父系社会とでも言えばいいのか。父親に頭が上がらないにも関わらず、反対を押し切ってソニョンと結婚しようとし、見事不首尾に終わることになって父親の逆鱗に触れるシーンもあって、お国柄を感じさせる。

 

小説版の婚約者は、都市銀行勤務のエリート青年という設定になっていた。姿を消した婚約者の女性から犯罪や反社会的なもの(カード破産や自己破産)を感じ取ったら、さっさと逃げ出す薄情で小心な男性として描かれていた。

 

火車 HELPLESS』では、穏やかな好青年ムンホは執拗にソニョンを追い、激しい一面ものぞかせる。「情の国」、あるいはメンツを重んじるがゆえに、面目を失ったら激情が顔をのぞかせるのか。ムンホ演じる俳優さんも、ハンサム過ぎないところがいい。

 

カード破産がもとで過去が暴かれる。他人になりすます手口、どこでターゲットを見つけるかといった、『火車』を『火車』たらしめている要素はほとんど同じなんだけど、結末が決定的に違う。

 

社会が相手だったら、システムの狭間に堕ちた女性が取った非常手段に耳を傾ける人もいるけれど、対個人だったら無理。

 

小説版とのラストの違いは、大きく社会を相手にしたら通じる「情」(可哀そうの声)や「道理」(わかるわーの声)でも、相手が個人となったら説得力を持たないからこうなったと、受け止めたい。

 

相手が単なる個人だったら、いっしょに時間を過ごした人だったら、「僕を愛していた?」の問いが十分破壊力を持つ。

 

「いいえ」と答えながら、ヒロインはなぜ泣くのか。YESかNOかしか許されない、“でも“も”だって”も許されない状況なら、NOと答えるしかないじゃない。「愛してた」と答えたら、愛し合ってるもの同志が一緒にいられない、理不尽さや虚しさに囚われるだけ。

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借金がもとで他人の人生を生きるしかなかった女性の物語。引き裂かれる恋人たちに焦点を絞って、より個人ごととして捉えやすい内容になっていて、良かった。涙や慟哭が後を引くけど、ラストも含め、これはこれで好き。哀しくなるけどね。

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映画「火車 HELPLESS」 (字幕版)【TBSオンデマンド】
 
火車 (新潮文庫)

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 (火車みたいにバカ売れした小説、Kindle化されてないの???謎や)

 

お休みなさーい。