クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

キャンパスライフと音楽を描いた映画2つ

音楽映画を見直し中。音楽あふれるキャンパスライフを描いた映画『ドラムライン『ピッチ・パーフェクト』を見た。どちらの映画も大学生、それも新入生が主人公。
 
ドラムラインは、アメリカンフットボールのハーフタイムショーでみかけるマーチングバンド部が舞台。ただ演奏するだけでなく、エンターテイメント性あふれるパフォーマンスも彼らのウリ。マーチングバンドでは歴史と伝統のあるアトランタの大学AT&Tに進学したワガママ青年デヴォンが、挫折を経て成長する青春ストーリー。日本では見慣れない、マーチングバンドによるど迫力の演奏シーンがとにかくカッコいい。
ドラムライン (字幕版)

ドラムライン (字幕版)

 

 『セッション』でもジャズを学ぶ学生に対する壮絶なシゴキが描かれていたけど、名門マーチングバンド部における新入生の扱いもけっこう酷い。相当な体育会系。実際問題として彼らのチームが披露するのは、体力がないとできないようなパフォーマンス。超一流のパフォーマンスは、地道な努力の積み重ねでしか生まれないと納得する。

 

主人公のデヴォンは、口も達者ならパフォーマンスも達者で、入学早々大抜擢される。そのせいで、上級生からも指導者からも目をつけられるけど、デヴォン青年はそんなことで負けたり挫けたりしないという、王道のストーリーが展開する。

 
アメリカンキャンパスライフを描いた他の映画と一線を画しているのは、映画に出てくる白人が極端に少ないこと。出演者の9割方は黒人じゃないかと思えるくらい、白人が少ない。音楽をやってない時の彼らは、J.CrewBanana RepublicのCMで見掛けるアメリカ人と違って、 Yeah, manな感じ。プライベートではチャラチャラして見えるし、女の子とのお付き合いも含めて青春を楽しんでる。チャラ男君なのに、音楽に対する情熱は熱く、超生真面目。デヴォンや他の学生にとっても音楽、マーチングバンドでの活動がとても神聖なものとして描かれている。
 
学業面では決して優秀な学校ではないけれど、マーチングバンドでは超有名校という矜持がそこに潜んでる。超学歴社会のアメリカで、勉強一番スポーツ一番でなくても熱くなれる青春を描いている。
 
数少ない白人メンバーの青年は「お前なんで白人なのにこの学校来たんだよ」とか言われる始末で、白人がマイノリティーという環境を描いているところも珍しい。白人であればジョージア工科大辺りをめざすのが王道で、恐らくその方が「平穏な」キャンパスライフが楽しめる。白人に「俺たちの音楽」が出せるかよと、差別的扱いも受ける白人の彼がそうしなかったのは、この大学のマーチングバンドが憧れだったから。越境の原動力となるのは「憧れ」で、がんばりの源にもなっている。
 
ワンバンド・ワンサウンドでバンドは一体。最高のドラムラインを奏でるために、伸び悩むメンバーにきっちり手を差し伸べるメンバーシップが、見ていて心地いい。最高の音楽を奏でるためには練習が欠かせず、チームである以上メンバー全員が最高のパフォーマンスを発揮できなければ、勝利はないとする。アメリカ社会の合理性が垣間見える。
 
資金力のある大学は、金にモノを言わせて引っ張ってきたポップスターによる、派手なパフォーマンスで聴衆の心を掴みにくる。資金力はなくても、練習量と伝統に勝るAT&Tは、伝統と革新をミックスさせて、目新さに惑わされた聴衆の心を再度鷲掴みにする。
 
音と音がぶつかり合う文字通りのバトルシーンは、音楽映画なのに格闘技でも見てるよう。俺の音を聞け、という若者の熱い叫び。音楽に託されてるから、すんなり耳も傾けられる。都会にある大学と違って、地方都市では大学スポーツは大勢の人を集める花形イベントであること。ハーフタイムショーに花を添える彼らマーチングバンドもまた花形なんだという、アメリカ社会の一面が知れる。
 
『ピッチ・パーフェクトの舞台も、同じくどこかの地方大学。主人公は、音楽が趣味で人付き合いの悪い新入生の女の子ベッカ。自分で曲を作ったりアレンジしたり。よくも悪くも自分の世界をもっている女の子。自分が作った曲を人に聴いてもらえるとハッピー、曲を作る間はひとりで没頭。そのせいか、あんまり他人を必要としない。ひとりでも完結する、没頭できる趣味を持った人にはありがち。そんなベッカだけど、歌の上手さを買われて女子のみのアカペラグループに入部することに。
ピッチ・パーフェクト (字幕版)

ピッチ・パーフェクト (字幕版)

 

 アカペラグループのリーダーは、美人でスタイルもいい一見上品なブロンド・ガール。スクールカースト上位に属してそうだけど、実はとんでもない事件、大会でゲロをぶちまけるという大失態のために、カースト順位は地に落ちた。そのおかげでグループの評判も地に落ち、再起を誓った新生チームに集ってくるのは、音楽オタクのベッカだったり、太っちょエイミーだったりと個性的過ぎるメンバーばかり。メンバーは様変わりしたのに、以前と変わらずお上品路線で行こうとするから、見た目もパフォーマンスもちぐはぐで、大会での戦績もいまいち。

 
ちなみにこの映画でも、部活動という割りにはハードなトレーニングメニューが組まれている。大会をめざしているだけあって、結構本気。『セッション』でも『ドラムライン』でも、アメリカにはスパルタが根付いてる。のんびりゆとりあふれる本邦のキャンパスライフと比較すると、うむむとなるところ。誰かを本気で楽しませようとしたら、結局はスパルタになるのか。芸達者な皆さんがスパルタ礼賛気味なのも、ゆえあってのことか。
 
『ピッチ・パーフェクト』では集団行動に馴染めないベッカの成長が見どころ。彼女の得意とする音楽で、欠かせないメンバーとして最終的には受け入れられていくところが肝。ソリの合わないリーダーとも和解し、チーム自体も退屈で時代遅れなスタイルを脱して新境地を開いていく。
 
音楽が好き、歌うことが好きという共通項以外を探すのが難しいメンバーが、歌で表現するシーンがやっぱりいい。趣味の違いや性格の違いを超えて、”歌が、音楽が心底好き”で一緒になれる。ライバルとなる男性アカペラグループの存在が、映画にとってもベッカにとってもいいスパイスになってる。
 
学生アカペラグループ。最近はどうか知らないけど、大人気テレビドラマ『glee/グリー』効果もあってか、多分それなりにメジャーな存在。向こうの大学生はパーティ大好きだけど、映画ではパーティに呼ばれたりとイベントにも駆り出されてる。来日した有名大学のアカペラグループの公演を生でも動画でも見たことあるので、それなりに人気があると理解してる。
 
日本の地方都市では学生オケ(クラシック)の演奏会はそれなりにメジャーで、人もそれなりに集まってくる。チケットノルマがあるにしても、イベントとして根付いている。それと似たような存在がアカペラグループなのかと思ったり。歌って踊ってとパフォーマンスも要求されるから、ちゃんとした指導者がいないと上達も難しそうで、あらゆる意味で日本で根付くのは難しいと思える向こうの文化。
 
ベッカの寮でのルームメイトが韓国系で、ベッカが「よろしくね」とにこやかに挨拶してもムシなところが面白かった。白人・黒人・アジア系とあらゆる人種との共生が進んで多様化した社会では、結局「自分と同じ」というルーツの人といっしょに居る方が居心地いい。多分化共生社会のひとつの真実も描いていて、そこも面白かった。
 
glee/グリー』を凝縮したような映画で、ついglee/グリー』と比べてしまうけど、これはこれで面白い。2時間以内にきっちりオチがつくから、見ててラク。でも間違いなく楽しい映画。
 
ほんとは、写真多目のローコンテクストと長文のハイコンテクストと。交互に書いていきたいところだけど、さすがに12月ともなるとフラフラ出歩けず。ツルツル注意報も発令中で、雪が降るより恐い恐い、地面ツルツル・滑るよ・転ぶよシーズンに突入した。しばらく長文・レビューが多目になる予定。
 
お休みなさーい。