クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『イロイロ ぬくもりの記憶』見てきた

珍しいシンガポール映画というところに惹かれて見に行った。シンガポールの共働き家庭で育つ少年とメイドさんとの交流を描いていて、シンガポールの「アジア」な面が濃厚だった。

f:id:waltham70:20150308114946j:plain

 
1997年、アジア経済危機の中にあるシンガポールが舞台。危機を克服し、経済移民である富裕層がブイブイ言わせてる現在のシンガポールをイメージすると、かなり面食らう。それだってイメージのたまものではあるんだけど。
共働きで多忙な両親をもつ一人っ子のジャールーは、わがままな振る舞いが多く、小学校でも問題ばかり起こして周囲の人々を困ら せていた。手を焼いた母親の決断で、フィリピン人メイドのテレサ(テリー)が住み込みで家にやって来る。
 
映画『イロイロ ぬくもりの記憶』オフィシャルサイトより
 
海外ドラマ『ダウントン・アビー』で、イギリス貴族宅に雇われるメイドさん達を見てるものだから、この映画に出てくるメイドさん、テリーの扱われ方にとにかくびっくりした。
 
 
・小学生男子とメイドさんが同部屋ってどういうこと???
メイドさんがいる家庭なんだけど、どうみても団地。実際公共住宅という設定で、エレベーターもない。
・姑につかえる嫁みたいなもので、雇い主の気分に振り回されるテリーが気の毒。
 
 
面倒を見ることになる少年がまたクソガキで、当初はテリーが気に喰わなくて、相当なイヤガラセをする。パンいち姿でテリーの前に現われる亭主も含めて、やめてくれと思うデリカシーに欠けるシーンが最初は続いた。
 
 
特別非道なことはしてないけど、メイドさんにしては親切にしてるレベルで、そこに個人への尊敬は見られない。それなのに、メイドと雇い主家族との生活が密着 してるから、すごくアンバランス。メイドさんだと思うから、ダウントン・アビー思い出して微妙な気持ちになった。途中でこれは、「ねえやさん」なんだと思 うことにしたら、すっきりした。”夕焼け小焼けの赤とんぼ おわれてみたのはいつの日か”のねえやさん。
 
 
メイドとして初めて働くことになったテリーは、いい意味でプロではない。メイドとしてのペルソナを上手に被ることがまだできないから、クソガキ相手にも本気になる。本気で怒ったり心配するから、クソガキも懐く。
 
 
契 約に忠実で、ここから先は契約外と、公私の別をきっぱりつけるのが欧米流。そうだとしたら、テリーやその雇い主の在り方は、全くもってアジア。シンガポー ルは英語も通じるかなりアメリカナイズされた社会だけど、その中には全くもってアメリカナイズされてない人もいる。しかも、生活がいくら洋風になろうと、 その中身は合理で割り切れないものを多分に含んでいて、脆かった。
 
 
シンガポールもアジアだったのね。。というのが、この映画を見て一番強く感じたこと。
 
 
メ イドさん専用の部屋を用意できる、富豪でも富裕層でもない人がメイドさんを雇える。それは、シンガポールとフィリピンに経済格差があるから。テリーはクソ ガキ・ジャールーと打ち解けてからは、そんなにひどい目に遭ってないけど、テリー以外のメイドさんは、外出が制限されるなど結構ひどい目にあってる。
 
 
欧米視点で見ると、人権侵害けしからーんと思うところも多々目につくけど、じゃあメイドさんを無くせばいいかと言うとそうでもない。地縁・血縁から切り離された都会で、他人だけど親身になってくれる人は、金銭で結ばれたメイドさんだけ。メイドさんの存在に救われた人が、シンガポール社会には少なからずいるのかも知れない。
 
 
プライベートスペースに外国人が居て、外国人を雇えるのは国の経済格差によるもの。幼い時からその事実を目の当たりにしていたら、格差をより単純にとらえる人もいれば、より複雑に考える人もいそう。
 
 
お別れなのに、テリーの髪をひと房切ってしまう。感情的になると行き過ぎてしまうクソガキ・ジャールーだけど、テリーとの出会いと別れを通じて、複雑に考える大人への階段に一歩近づいた。
 
 
この映画、ジャールーが天使のような少年じゃないとこもポイント。万人に好かれるタイプではない少年にも、職業上の必要からかかわった人なら最後まで味方となって親身になってくれる可能性があること。そして、一時でもそういう”味方”を得た人が大人になって社会に存在することは、数値となって表れるようなものではなくても世の中にとってはプラスになる。そんなこともふんわりと盛り込んでた。
 
 
華はないけれど、見て良かった。


映画『イロイロ ぬくもりの記憶』予告編 - YouTube

 

シンガポール事情を解説した、こちらのエッセイも参考になった。


映画『イロイロ ぬくもりの記憶』オフィシャルサイト「Essay エッセイ」

*3/8 写真と最後の段落追記しました。