クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

朝食は巌窟王

日曜日の朝食は、カナダ生まれとかいうサンドイッチ、「モンティクリスト」で。

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食パンにハムとチーズをトッピングし、もう一枚のパンでサンドイッチ状態にした後で卵液にくぐらせ焼いたもの。クロックムッシュからべシャメルソースを抜いた、お手軽ホットサンド。
 
 
ハムとチーズに塩気があるから、塩抜きで黒こしょうやハーブをきかせるのが美味しさのポイント。カットしたらチーズがとろりと溶け出して、チーズ好きにはたまらない。でも語りたいのはそこじゃない。
 
 
アレクサンドル・デュマが書いた、『巌窟王』こと『モンテ・クリスト伯』を思い出させる名前がついたこのサンドイッチ。
 
 
エドモン・ダンテスが、失意と憤怒の14年を過ごしたシャトー・ディフで、こんなにちゃんとした食べ物が出るわけもなし。
 
 
主 人公エドモン・ダンテスが無実の罪で投獄されることもなかったら。これはメルセデスと幸せな結婚を果たしていたら、その食卓に上ったに違いない幸 せの象徴か。あるいは親世代の因習を断ち切り、新しい人生を歩むことに成功した二人、マクシミリアン・モレルとヴァランティーヌにこそふさわしいものか。
 
 
ナポレオン1世失脚後の、王政復古時代のフランスを舞台とした『モンテ・クリスト伯』。登場人物がめったやたらと多いにも関わらず、ちゃんと幸せを掴んだ人がとっても少ない大河小説。何人もの人が、無様に死んでいく。あぁ復讐は虚しい。
 
 
政治の季節の変わり目には、どうしようもなく不運な人が居て、そうした人はえてして妄執の虜となることも描いてる。
 
 
本人に落ち度はなくても、公言されてはまずいことを知っていた。あるいはその成功を妬み失脚を願う人の罠により、反逆者の汚名を着せられた。そんな二重苦三重苦に足を引っ張られ、シャトー・ディフという地獄に落とされる。エドモン・ダンテスは、冤罪が生まれやすい時代のヒーローであり、アンチヒーロー
 
 
ファリア神父の教えと財宝を受け継いで、モンテ・クリスト伯に生まれ変わったエドモン・ダンテスは、今度は復讐に乗り出す。自分や罪のないその他の人を地獄に突き落としてきた悪人を、地獄に突き落とし返すため。
 
 
kindle でコミックになった『モンテ・クリスト伯』を見つけたけど、コミック版ではシャトー・ディフでの壮絶な生活や、幸福な青年であった船乗り時代はカットされ てた。幸福の絶頂で生き地獄に突き落とされた。それが後の情け容赦ない復讐劇につながるのに、そこカットするなんて暴挙。モンテ・クリスト伯の善と悪とが せめぎあう内面の葛藤が、とっても薄っぺらくなってしまう。
 
 
恨みがモチベーションだった人の原動力が瓦解する、かつての婚約者メルセデスとの再会を経て、ようやく人を赦せるようになるモンテ・クリスト伯。赦せるというよりも、虚しさが先立ったから。
 
 
14 年かけて積み上げた恨みつらみをチャラにするのは「虚しさ」だった。初志貫徹して恨み続け、復讐を遂げても勝利に酔えないことに気付いたら、すべてが馬鹿 らしい。馬鹿らしいから恨むのはやめて、新しい人生をスタートさせた。そばにあったエデというささやかな光とともに。
 
 
「待て、そして希望せよ」は、新しい朝にふさわしい言葉。待てない人は、いつまでも明けることのない闇に囚われ続ける。夜明けの来ない夜なんてないのにね。
 
 
モンティクリストは、ハムとチーズと卵と。朝食に摂りたいものが一度に取れる、おすすめレシピ。『モンテ・クリスト伯』が、これ一冊(全7巻もある長編だけど)で人生に必要な、愛と勇気と知恵、そして寛容も摂取できる、栄養満点な一冊のように。
 
 
人生の最初期に、十分な栄養を摂取した効果は今も続いてる。
 
モンテ・クリスト伯 ─まんがで読破─

モンテ・クリスト伯 ─まんがで読破─