クローズドなつもりのオープン・ノート

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『四季・ユートピアノ』を見た。

『四季・ユートピアノ』を見た。NHKプレミアム・アーカイブスで放送された、映像作家佐々木昭一郎の世界シリーズのうちのひとつ。
 


ドラマ 四季 〜ユートピアノ〜 | みのがし なつかし | NHKアーカイブス

国際エミー賞優秀作品賞などの賞を受賞した、佐々木昭一郎の代表作とのこと。今回放送されたのは、海外向け編集版。
 
主 人公は、雪国から都会に出てピアノ調律師となった栄子。彼女の心の中には、いつもある音 が流れていた。それは、幼い頃に栄子が記憶してきた音だった。やがて栄子は、さまざまな人と出会いを重ねる。いつしか栄子の心に、新しい音の記憶が芽生え る。その音とともに、ひたむきに生きる彼女の姿を描き出す。1980年放送。(NHK・プレミアムアーカイブス)
主演女優の方の透明感が、とても印象的だった。
 
 
最初見た時は、初めて見るタイプの映像作品だったので、どう受け止めていいのか、とまどった。これと似た物を見たことがない。
 
 
ドラマではあるんだけど、主人公など主要な人をのぞけば一般の人を多用してるようで、ドラマを見てるような気がしなかった。
 
 
かといってドキュメンタリーのようにジャーナリスティックでもなく、もっとふわふわしてファンタジックでさえあって。
 
 
これ、生身の人間が出てくるリアルな映像だからとまどった。もしもこれが、アニメーションやコミックだったら、最初から全然違和感なく作品世界に入り込めた。
 
 
どこか物悲しいストーリー、極端に少ない状況説明、散りばめられるポエムなセリフ。ページをめくると全く違う世界が現われるように、連続性を欠いた映像がポンっと投げ出される。
 
 
おとぎ話風のストーリーを描きながら、現実を描く。そういうタイプのコミックの実写版だと思えば、見慣れないタイプの作品も、なんだかお馴染みのものに思えてきた。
 
 
”音”を記憶に留めて、成長していく女性が主人公。”音”が大事なテーマにもなってるだけに、鈴の音、ピアノの調律に使う音叉の音、ひばりの声など、澄んだ音色が耳に残る。使われている音楽のことごとくが美しい。
 
 
主人公は人生に起こるイベントのことごとくを”音”に変換して記憶してるような人。
 
 
客観的に見れば悲しい出来事も、彼女の中では美しい音色に変換されている。
 
 
起こった出来事だけをピックアップして「事実」を抜き出したら、結構悲惨な生き様が露わになるんだけど、悲しさいっぱいにはなってない。
 
 
事実と真実の差、みたいなもので、悲惨な出来事に見舞われた人が悲しさいっぱいで生きているかというと、そんな事もない。
 
 
にこにこしながら、美しい音を追いかけ続けてる。
 
 
この場面で流れてるのはどんな音なんだろう。そう詮索したくなるような、これはちょっと。。な場面もあるけれど、濁った音色は聞こえない。
 
 
濁った音を奏でたくなるような試練を経ても、美しい音を追い続けた。
 
 
どんなラストが待っていてもそれなりに感動したと思うけど、落ち着くべきところに落ち着いた。諦めないでよかったね。そう思えるラストだからこそ、美しい音を追い続けた人が最後にたどりつく音に、安堵した。
 
コミカルなシーンもあって、シリアス過ぎないところも良かった。
 
 
人に薦めてもらって見る気になった作品。そうじゃなかったら、スルーしてるタイプの作品だった。放送当時、多くの人に衝撃を与えたとも教えてもらったけど、それも納得。
 
 
とても美しいものを見たことと、とても美しいものを生み出した人がいた。その両方にやっぱり驚く。
 
創るということ

創るということ