たった一冊でも一編でも、誰かの記憶に残るものを書いたんだから、十分じゃない。
今となってはどうやってそのレビューにたどりついたのか、もう思い出せない。「全く読んだことのないタイプ」の本を求めてネットを巡回中に、たまたま見つけたのがこのコミック、『ラブフロムボーイ』のレビューだった。
暑苦しい言葉はひとつも使われてないのに、なぜか深い印象を残すレビューだった。本そのものよりも、レビューの方が印象に残ってるなんて経験は、ここ1年でも片手で足りるほど。
レビューの印象を壊したくなくて、ずっと読むのを先延ばしにしてたけど、そろそろいいかとようやく解禁した。
過不足なく作品の良さを伝えてくれるレビューの洗礼を受けてなかったら、ついうっかり2千字とか3千字を費やして、自分でも何かを書いたに違いない。
「物語」が好きな人の魂をもっていってしまう、そんな一冊。
全4編からなる短編集。それぞれのストーリーは独立している。表題作の『ラブフロムボーイ』と、その『ラブフロムボーイ』をめぐる物語となっている『もうひとりのジャン・エッグ』の2編だけが、いわば同じ世界観を共有している。
どの作品もラブ、愛情がテーマとなってるけれど、師弟愛や家族愛といった、恋愛以外の愛情を描いた『ラブフロムボーイ』がとりわけ気に入ってる。
イギリスのパブリック・スクールを舞台にした『チップス先生さようなら』、手許にある文庫本の解説では、「この一作においてのみ長く記憶されるのではなかろうかとさえ思ってる」なんて、やや失礼な誉め方されてる。
『ラブフロムボーイ』、これ一冊で完結かと思ってたら、どうも続巻も出るらしい。続刊でも引き続き、いろんな愛情の形を描くんだろうと予想してる。何を書いたとしても『ラブフロムボーイ』が根底にあると思えば、きっと好きになれる。
たった一作で、その作者の全作品を肯定してしまいたくなる。
『ラブフロムボーイ』そのものが、いろんなものを許せてしまう、世界への肯定に満ちてるからそう思うのかも。
そのステキなレビューを書いた人、今ではHONZでコミックのレビュアーをされていて、つい最近も熱いレビューで注目されていた。
これからも、ステキな作品を紹介してくれそうなので、生きるヨロコビが増えて嬉しい。
お休みなさーい。