クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『幕末太陽傳』見た

”邦画アクション時代劇”というジャンルがあるなんて、初めて知った。

邦画自体ほとんど見ないからねー。

 

邦画はほとんど見ない。ましてや時代劇なんて、お金出して見たことない。

だったんだけど、『幕末太陽傳』は面白かったー。DVDリマスター版で見た。
 
 
時代劇にもコメディーがあるんだね。とにかく明るい時代劇で、何かと新鮮だった。
遊郭が舞台なだけに、ことさらドライに描いてるのかもしれないけど、そのカラッカラのドライさ加減がすごーく良かった。
 
 
57年前の映画なんだけど、57年前の方がもっとドライだったんじゃないの、日本?なんて思ってしまった。いつの間にこんなにじめじめしちゃったんだか。
 
 
明治まであと6年という、幕末の品川遊郭が舞台。今でこそ高層マンションが立ち並ぶ品川だけど、昔は吉原と並び称される遊郭があったとこなんだね。
遊郭で無銭飲食やらかした、昭和の喜劇役者・フランキー堺演じる『居残り佐平次』を主人公に、尊皇攘夷で揺れる幕末の史実も織り交ぜて、お話しは進んでいく。
 
 
嘘っぱちばかりでも、リアリティを追求するばかりでもない。虚実の入り混じり具合が絶妙で、何回見直しても面白い。見終わった後すぐにもう一度見返したい映画なんてあんまりないので、拾い物だった。
 
内容に触れてるので、この後は折畳み。長いです。

 

 
この映画、石原裕次郎小林旭という、「男前」もちゃんと出てるんだよね。
普通だったら男前が主人公になりそうなところなのに、フランキー堺が主人公やってる。
 
最初は「何このちゃらんぽらんなオジサン」と思うんだけど、この佐平次、やたら器用で「使える」人なんだよね。いつの間にかそのお店に無くてはならない人になってる。
 
そうなるまでの根回しがすごい。とにかく頭の回転が早くて器用で、でも器用貧乏。お金は無いみたい。お金は無いんだけど、結局は世事に通じた人が一番たくましいし、頼りになるのねと思わせる、チャーミングなおじさん。
 
お金持ちも色男もたくさん見てきた遊女たちに、いのさん、いのさん(居残りさんだから)と何かにつけて頼りにされる。佐平次はそんな人。
 
 
この映画には幕末のヒーロー、高杉晋作久坂玄瑞も出てくるんだよね。小林旭演じる久坂玄瑞のちょんまげ姿、正面から見るとバッタみたいだった。へんな毛が飛び出してて。
毛量に応じてか、ちょんまげ姿もいろいろなのね。
 
あと、後の伊藤博文、伊藤春輔なんかも出てるんだよね。そんな幕末の志士達に、遊女は目もくれない。左平次が、遊女の恋文代筆したり、按摩やったり、面倒な客あしらったりと大活躍してる間、彼ら幕末のヒーローが何やってるかというと、「人の迷惑」になってる。
 
 
教養はあっても教養の生かしようもなく、ひがな昼寝したり、借金で飲み食いして、遊女からも鼻つまみもの扱い受けてる。酒癖悪いし、横柄だし。お国のために 何か素晴らしいことしてるのかもしれないけど、町人からすれば単にメーワクな集団。そういやゆすりたかりにもなってたね。窮すれば、意外と生活力を発揮し たりする、メーワクな方向で。そんな彼らが何かやらかすと、血なまぐさいことにしかならない。
 
 
理想語ってもごはん食べられる。そんな人でないと理想は追えないし、そうじゃない人が理想追っても、周囲にとってはメーワクなだけ。
 
 
幕末・維新のヒーローを、理想に燃えたなんだかカッコいい人達みたいに描くフィクションが多いけど、当時の町民からすれば案外それが本音だったのかも。そんなヒーロー達に啖呵きる佐平次を主人公に持ってきた、そこがこの映画の一番いいところじゃないかな。
 
ついでに言えば彼らのお国は”長州”で、江戸のことじゃないから。江戸の人からすれば、なんで彼らみたいな”浅葱裏”のために、江戸が火の海にならなきゃなんないの。そんな感覚だってあったかもしれない。
 
 
そんな中、高杉晋作だけは最後まで「いい人」に描かれてる。監督が高杉晋作好きだったのか、石原裕次郎びいきだったのか。
 
ググったら、高杉晋作は幕末の風雲児なんて呼ばれてたんだね。彼の破天荒な生涯は、実は佐平次の影響を強く受けていた。なんて考えると、虚実入り乱れる感じでさらに楽しい。
 
 
古典落語が下敷きになってるらしく、そうしたわかる人にはわかる楽しさも散りばめられてた。中でも品川心中のエピソードが一番好き。
 
遊郭のような色街で働く人達と、そこを遊び場にする人達と。ちゃらんぽらんなのは、一体どっちなんだろうね。
 
 
ひとつだけ残念なのは、カラーじゃないこと。花魁たちの衣裳、遊郭内部の意匠(インテリア)、カラーで見れたらもっとステキだったのに。
 
昭和30年代だと「江戸」の記憶持ってる人、まだ相当いただろうから、幕末の品川遊郭の雰囲気、平成に作る映画よりもかなり江戸に近いんじゃなかろうか。江戸も遊郭も見たことないけど、ちょっとした小物の使い方が、より博物館の展示品に近い気がしたんだよね。
 
荒神(こうじん)さん」。
関東の人が口にすると、イントネーションが違って変な感じだったな。
 
 
wikiによるとこの映画、幻のラストシーンがあるらしい。
 
幻のラストシーンは、斬新過ぎて結局は採用されてない。「意味がわからない」と出演者にも反対されたとか。wiki調べだけど。同時代の人には理解できない、ついていけないような発想、どうやったら出てきたんだろうと、監督の人に興味がわいた。
 
 
監督の人、川島雄三も、ググったら面白い。その人となりを知れば知るほど、創作の不思議を思って興味深い人だった。太宰治が嫌いな人のこと、たいてい好きになれるのよね。
 
 
過去を照射することで現在を照射する。そんな手法を一部取り入れた作品を、よりによって品川がいろいろ微妙な時期にあった時に作っておきながら、語りたいのは現在の品川ではないと、断り入れてる。すっとぼけてるのか、何なんだか。
 
 
散財家だったらしく、映画製作はお金のためと割り切ってた、なんて記述も見つけたけど、ほんとのところはどうだったんだろう。とにかくお金になることだけを考えた、そうしたら究極のエンターテイメント作品にたどりついた。それもありだとは思うんだけど、それだけではないとも思いたいんだよね。
 
お休みなさーい。
 
(2559文字)
 

 

幕末太陽傳 デジタル修復版 Blu-ray プレミアム・エディション

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