クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

後世に宝物を残すという勝ち方『ブレンダンとケルズの秘密』見てきた

美しい絵本のようなアニメーション映画、『ブレンダンとケルズの秘密』見てきた。

 

日本の萌え絵やディズニーアニメを見慣れていると、新鮮に感じるちょっと古風なキャラクターに作風は、アイルランドと呼ぶより、ケルティッシュと呼びたくなる。音楽も、幻想的かつどこか懐かしい響きですごーくステキ。

 

最近すっかり影が薄くなったけど、アニメはジブリやディズニーや萌え絵だけのものじゃなく、『森は生きてる』のように、児童文学の系譜に連なる作品だって、その中に含まれてたね、そういや。

 

とにかく美しくて、装飾的

セリフ少なめ、「絵」以外の情報も少なめ

 

児童文学の系譜に連なるような、絵本のようなお話だけあって、セリフ少なめ、説明的長セリフも少なめ。もしもこのお話を絵本にしたら、何ページで納まるかな?と考えたくらい。

 

舞台は9世紀のアイルランド、その頃の日本は平安時代。両親をヴァイキングに殺された少年ブレンダンは、おじであるケルズ修道院長ケルアッハのもとで育てられていた。

 

修道院なので、規律が支配する世界。言ってみればブレンダンたちは「文化」を守る存在で、文化を守る存在である彼らは、彼らの文化を破壊するヴァイキングの襲来に脅えていた。

 

武力の前に、文化は無力。

 

ある日スコットランドのアイオナ島から、ヴァイキングに襲来され、ケルズ修道院へと逃れてきた高名な修道士エイダンがたどり着く。パンガ・ボンという白い猫と、「聖なる書」と呼ばれる貴重な書物を携えて。

 

ケルズ修道院という閉じた世界で育つブレンダンにとって、エイダンは外の世界からやって来た珍しい人。おまけに「聖なる書」という、秘密に満ちた不思議な書物も携えてきたから、ブレンダンはすっかり魅了される。

 

おじからは「聖なる書」あるいはエイダンに近づき過ぎるなと注意されるけれど、お年頃の少年が、そんな言いつけ守るわけねぇ。聖なる書をきっかけに、ブレンダンの冒険が始まる。

 

聖なる書に必要な、緑のインクとなる木の実を手に入れるため、出入りを禁じられた森へと出掛け、不思議な女の子アシュリンと出逢う。また、封じられた古代の神クロム・クルアハと対峙する羽目になったり、そのおかげで失われたクリスタルを手に入れたりするけれど、結局はケルズ修道院ヴァイキングに襲われ、焼け野原になってしまう。

 

常道の少年冒険物語だったら、ここはブレンダンが剣を取ってヴァイキングと戦うところだけど、ブレンダン、柔弱なんですわ。文化を守る徒だから、戦うようにできてない。

 

戦うようにできてないから、逃げる。エイダンと共に、「聖なる書」の完成をめざしつつ逃避行。

 

そして歳月は流れ、ついに聖なる書、世界一美しい「ケルズの書」が完成するよ!というお話でした。

 

セリフ少なめで、少ないセリフをすべて美しい絵が補ってた。

 

時には装飾過多ともいえるほどみっちり描き込まれていて、絵に興味関心がある人なら、ストップ&モーションで何度も見返したくなるはずだから、ほんとは動画向き。

 

セリフが少ないから、武力を前になす術もない、文化を守る砦の中の人の恐怖や諦念がかえってあからさまで、そこは胸が痛んだ。残酷さを表すのに、言葉はいらない。無くても通じる、暴力の力かな。

 

とはいえ最終的に誰が勝者かというと、文化を守る側の人たち。

 

ブレンダンやエイダン、あるいはアシュリーによって守られた「聖なる書」こと「ケルズの書」は、世界でもっとも美しい装飾写本として、現代にまで伝わってる。

 

武力の前に文化は無力で、多数の犠牲者を出したけれど、守られ切った「ケルズの書」は現代に伝わる宝物として、21世紀の現在も、観光客という富を呼んでくる。

 

実在する「ケルズの書」とその伝説をもとに作られたこの映画は、アイルランドの宝物をより尊く感じられる趣向になっている。

 

ヴァイキングが奪った富や黄金は、いっとき彼らを豊かにしたとしても、宝物として「ケルズの書」のように形の残る宝物として、現代にまで伝わってるかというと、そこは謎。ウップヘリーアーのように“お祭り“として残ってはいるけれど、お祭りだから、いつも見られるわけじゃない。

 

というわけで、常設展示で観光客を呼べる「ケルズの書」の方が、トータルで見た時に富(=観光客)を生み出す総量が多そう。

 

そもそも残す宝物さえなかったら、いっときの豊かさに流れるのもしょうがないわな。

 

史実に基づき、実在する場所をいくつかモデルにしているだけあって、聖地巡礼もはかどりそう。

 

「ケルズの書」が展示・収蔵されているトリニティ・カレッジ図書館は、ジェダイアーカイブのモデルとして知られる、今でもスターウォーズファンにはお馴染みの場所だとか。これはパンフレットの受け売りです。

 

宝物を後世に残すという勝ち方と、その勝ち方が生み出す富が、誰を豊かにしてるのかもよーく考えたくなる。

 

アイルランドケルトという発想で、ローズマリー・サトクリフが読み返したくなったのに、電子書籍になってないから、ポチッと買えない。大人だって、児童文学読みたいんだけどさ。

 

同じ監督による『ソング・オブ・ザ・シー』もこの映画も、アカデミー賞長編アニメーション部門ノミネート作品とはいえ、動画化は遠いのかも。かもかも。

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた [Blu-ray]

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた [Blu-ray]

 

 

SECRET OF KELLS

SECRET OF KELLS