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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

偉人の数奇な人生を描いた『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』見た

グーグルのトップロゴで紹介されたら、その人は偉人。

 

数学者で科学者のアラン・チューリングチューリングマシンでその名を後世に残す、普通じゃない人の人生は、やっぱり普通じゃなかった。

 

ベネディクト・カンバーバッチアラン・チューリングを演じる『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』見た。

 

 第二次大戦中のイギリスが、主な舞台。ケンブリッジ大学の若き天才数学者アラン・チューリングは、対ドイツ諜報戦に従事するためブレッチリー・パークに赴く。

 

レッチリー・パークは、旧日本陸軍中野学校や、江田島にあった旧海軍兵学校みたいなものと思えば、まぁ大体合ってるんじゃないかと。

 

アラン・チューリングは、非暴力主義者かつ政治的にも中立で、愛国心とはほど遠い人。なのに、自ら望んでブレッチリー・パークの一員となったのは、当時史上最高の暗号通信機と言われたドイツの暗号通信機“エニグマ”攻略のため。いっちゃん難しいパズルを解いてみたかったという、純粋に学究的な興味から。

 

現代の数学者が、“解くのが非常に困難“なポアンカレ予想問題(ちなみに解決済み)に挑むように、第二次大戦中のアラン・チューリングが取り組むべきテーマとして選んだのが、”エニグマ“の暗号を解くこと。

 

見た目は複雑なタイプライターちっくな暗号通信機エニグマだけど、意味不明の暗号文を意味の通る平文に直すにはルールブックが必要で、159×10の18乗通りはあるというルールブックの内容を探っていくのが、チューリング達のお仕事。

 

チェスの世界チャンピオンや数学者、言語学者からなるチューリング達のチームは、銃や大砲が飛び交うことはないけれど、戦場の最前線でインテリジェンス業務につく、軍属になる。

 

エニグマの暗号が解読できれば、次の戦闘地や戦力がわかることになり、対ドイツ軍攻略に大いに役立つ。ただし暗号が解読できなければ、単なる役立たず集団。

 

戦時中とはいえドンパチシーンはほとんどなく、インテリジェンス戦の戦い方と、その指揮を執ることになった不遇な人物に、スポットを当てている。兵隊にしかなれない人の戦い方があるように、兵隊には決してなれない人の戦いが描かれているところが、この時代のものとしてはちょっと珍しい。

 

戦時中という非常時ほど、適材適所が徹底される。

 

チューリングは、銃をとって戦うにはまったく向いてない人。ついでに人の気持ちよりも機械の気持ちがよくわかる人で、そんな人、現代のCaltechカルテック)やMITあるいは東工大にインド工科大辺りだったらいくらでもいそう。

 

人間よりもマシン、無生物に傾倒するチューリングには、そうなってしかるべき過去があり、生命の危機を感じるほどではないにしても、かなりひどいいじめに遭っている。

 

チューリングみたいな人、人の気持ちよりも機械の気持ちがよくわかって、何時間も機械と向き合っていてもヘーキで人付き合いが下手で自閉気味な人、現代でもいくらでもいるけれど、時代に早すぎた悲劇で、当時はグーグルもなければアップルもない。

 

コンピューターという概念さえなかった時代に機械自身が考える、電気脳という概念をすでに考えてた人。エニグマ攻略に最も近い人物であったにも関わらず、時としてシングルタスクに専念させてももらえず、上層部の無理解でクビになりそうにもなる。

 

一見これ以上はないほど才能を生かした職場に身を置きながら、それでもやっぱり順風満帆とはいかないあたりが、『風立ちぬ』とはまったく違う戦時の職場が描かれる。

 

最先端の数学者の考えが理解できる人、同時代では常に片手くらいしかいないと思ってまず間違いない。

 

ついでに、戦闘行為という単純作業に従事しないかわりに、単純作業である戦闘行為の効率を高めることで大きな功績を残した人でもあった。功績は大きかったけれど、その代償として同時代に生きた人からは、決して手放しに英雄と持ち上げられない、戦時のダーティーヒーロー、それがアラン・チューリング

 

誰を生かして誰を見殺しにするのか。

 

人の気持ちよりも機械の気持ちの方がよくわかり、機械的に処理できたからの悪魔的所業。神様的所業でないのは、それが破壊行為に直結していたから。

 

大局的にその行為が正しく、結果として戦争の早期終結をもたらし、イギリス軍の損害を減らすことになっても、戦死者の遺族からは、非難もされる。だから、彼の功績は徹底的に隠された。

 

望まずしてダーティヒーローとなったものの、そもそも学究肌でピュアな人。インテリジェンス業務にはとことん向いてない人が、スパイや二重スパイと共に“不純”な職場で働かざるを得ない悲劇でもあった。

 

ワーカホリックで自閉気味で、いじめで受けた暴力行為の反動で非暴力主義者となり、目覚ましい功績を挙げたマイノリティとして、サン・ローランを思い出した。

 

暴力の反動で、サン・ローランは美の世界に傾倒し、アラン・チューリングはロジックの世界に傾倒した。

 

もしチューリングが生まれたのが、あと30年は遅かったら。あるいはサン・ローランのように、公私にわたるビジネスパートナーに恵まれていたら、その人生は、もっと違うものになっていたのに。

 

一芸に秀でるほど秀でた人物の不遇な人生を、映画にしてトレースすることは、同じような被害を繰り返さないためと思いたい。

 

一見響きはカッコいいサイバー軍だけど、インテリジェンス戦の最前線に身を置くことは、往々にして非正義や非人道的な行為と仲良しなのさ。

 

そしてマイノリティ中のマイノリティは、最も餌食にされやすいから要注意。

 

名誉回復によって正しさは後から取り戻せるけれど、彼が味わった哀しさとかやるせなさとかやり場のない怒りとか孤独とか。そんなものは、もう今さらどうしようもない。

 

人の気持ちより機械の気持ちがよくわかることは、現代では錬金術になり得るけれど、その代わりに人でなしにも近くなる。他の誰にもできないことができた人の悲劇が、ただ悲しい。

 

ロジックの世界を選んだ人が、ロジックではもう遊べなくなったら、そりゃ死にたくもなるだろう。と、ラストシーンを勝手にそう解釈した。

 

お休みなさーい。