クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『決済の黒船 Apple Pay』 読んだ

決済の黒船と言われましても。おサイフケータイですでに経験済みだしな。。という先入観が、大きく覆った。

 

その姿はよく知るおサイフケータイにそっくりだけど、中身が違う。規格や使われている技術が、そもそも違う。

 

ガラパゴスな日本のおサイフケータイ市場を牛耳ってきたFelica方式に、Appleの方から歩み寄ったところが画期的で、黒船来航という例えもちっとも大袈裟じゃない。

 

 一時は死に体だったNFCを生き返らせたApple Pay

アメリカにおけるおサイフケータイ、デジタルウォレットをめぐる開発競争で、グーグルとAT&Tベライゾンなどの携帯電話会社が、足を引っ張り合って自滅し、一時は死に体となりっつあったところを、Apple Payが美味しくいただきましたという知られざるエピソードは、最高にクールでAppleらしい。

 

Appleらしく、クールでモダンな装丁かつ文字も少な目、行間もスッカスカで読みやすさにたいそう配慮されているけれど、その中身は濃かった。。

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  • NFC:(非接触型近距離無線通信技術)
  • EMV:(ICチップ内蔵クレジットカードの統一規格のひとつ。4桁のPINコード入力にyり本人確認する方式)
  • Touch ID:(指紋認証
  • ライアビリティ・シフト:(EMV対応されていない店舗による偽造カードの損害は、これまでカード会社持ちから、店舗や店舗管理者に課せられる)
  • トークナイゼーション:(オリジナルのクレジットカード情報からバーチャルなクレジットカード情報を生成し、バーチャルなクレジットカード情報にて決済処理する仕組み)

 見慣れない用語のおかげで頭痛が痛くなりそうだったので、整理するとこんな感じ。この辺の用語がすでにわかってる人には、もの足りなく感じるかも。かもかも。

 

そうでない人には、必要にして十分な、決済、とりわけデジタルウォレット市場における世界動向が、コンパクトにまとまってた。

 

現在の決済システムがそのまま使える

 Apple Payにビットコインに。近頃目新しい決済手段が何かとクローズアップされるのは、端末読み取り機、リーダーの更新時期を迎えつつある事情とも大いに関係ありそ。

 

端末が増えても、読み取り機、リーダーが更新されなければ、端末の持ち腐れ。ビットコインを受け入れる端末はまだもの珍しいけれど、Apple Payを受け入れる端末は、コンビニやファストフード店など、そこかしこにあり。

 

つまりApple Payは、トークナイゼーションという新しくより安全な技術を使いながらも、クレジットカードその他で使われている、現在の決済システムがそのまま使えるところがよいところ。

 

大規模なシステム改修を必要としないので、システム構築を請け負う人たちにとってはガッカリポイントかも。反面コストがかからないから、普及させやすい。

 

トークナイゼーションのいいところは、バーチャルなクレジットカード情報で決済処理する仕組みなので、スキミングや個人情報漏洩の心配が無用になるところ。

 

スキミングも個人情報漏洩もイヤなので、無記名のICカードに都度現金でチャージしてる身としては、これ朗報。あら便利じゃん。その感覚で使えるようになるんだから。

 

おまけにトークナイゼーションには「ドメイン化」という拡張機能もついて、メールを振り分けるように、「限度額の設定」や「利用地域国内のみ」といった条件を付けることも可能とか。これは「可能」なことであって、現状ガラパゴスな日本のFelica方式を取り入れたApple Payが、そのまま海外で通用するわけではないけれど。

 

通用しないのは、そこに世界標準であるType A/Bの壁がそびえ立っているから。

 

Type A/BとFelicaが仲良く併用されたリーダーが世界に普及するようになれば、世界旅行も山手線一周くらいの感覚で、出掛けられそうで、地下鉄その他の公共交通システムに乗り入れるのが、Apple Payの近未来における野望っぽい。

 

おサイフケータイの普及にはずみをつけたのは、間違いなく「電車賃(あるいはバス代)を勝手に計算して払ってくれる」だったからな。狙いは正しい。

 

ライアビリティ・シフトが普及を後押しする

 Apple Payのようなモバイルウォレットに、「トークナイゼーション」は続々搭載されつつあって、グーグル・マイクロソフトサムスンが各々開発中のモバイルウォレットにも採用中とか。

 

その背中を押しているのは、VISAのような国際ブランドカードというところがまた興味深い。Apple Payは、従来のクレジットカード決済によるビジネスモデルを踏まえたソフトランディングスタイルなので、どこかの仮想通貨のように、目の敵にもなりにくい。

 

クレジットカード決済方式の何がいいって、現金をチャージする必要がないから、キャッシュレス社会にもそれだけ近くなる。現金の流通量を下げたかったら、現金が必要なシーンをことごとく潰していけばいいという、設計思想もそこには垣間見える。

 

クレジットカード決済方式をベースにしているので、Apple Payも手数料を徴収するモデルとなっている。

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手数料無料の代わりに、個人情報収集モデルのグーグルと、果たしてどっちがいいのか。そこは好みが分かれそう。個人情報を貯めこむことは、かえってリスクと考える人や組織がApple Pay向き。

 

偽造クレジットカード使用時の賠償責任が店舗側にふりかかる、ライアビリティ・シフトが、より安全で便利な決済方法へのアップデートを強力に後押しする。

 

利用者にとっても、「この店舗でクレジット決済すべきか」は常に心配なところ。不安な店では買い物しない、あるいは現金支払いを選ぼうとすると、キャッシュレスにも逆行する。

 

2016年10月からは、Safariでのブラウザ決済にも対応し、ECサイトで買い物する人への利便性向上も打ち出してきているApple Pay。

 

ユニバーサルデザイン

普及拡大の先に見据えているのは、ブルートゥース通信で、財布代わりのスマホを取り出す行為さえ追放する、決済のスマート化。最終章にはApple Payが可能にする便利なことが、あれもこれもと並べられ、そのあたりはビットコインの普及に伴うバラ色の未来予想図とさして変わりなし。

 

ところでキャッシュレス社会、デジタルウォレットによるスマート決済が、一日でも早く実現することを望んでいる人は、きっと健康で口も達者な人じゃない、

 

どんなに店側に急かされようと、「はいはい、ちょっと待ってくださいね~」と上手に店員をあしらえる人には、一日でも早いデジタルウォレットによるスマート決済は、今のところ必要なし。

 

むしろ、図々しくも口達者に振る舞うこともできず、常に申し訳なさと不自由さとともに日々過ごしている人にとってより福音となるはず。

 

すでにある決済システムを利用すれば、デジタルウォレットによるスマート決済の実現がそれだけ早くなる。

 

初めて買ったパソコンは、Appleだった。女こどもが乱暴に扱ってもいいようにデザインされた、使い勝手の良さが決め手だった。

 

Apple Payにも、老若男女を問わず、体のどこかに不自由がある人でも使いやすいよう配慮された、ユニバーサルデザインに通じる設計思想を感じる。

 

トークナイゼーションは、新しい概念であっても理解しやすく、理解しやすいものだから、使いやすい。使いやすいとハードルを下げていくこと、大事やね。

 

よく知ったおサイフケータイとよく似ているけれども、その中身は新しいApple pay。日本というガラパゴスを脱することができるのかどうかが、今後の課題だね。

 

規格や規制という消費者には見えない「国の壁」を、今後も越えていくのかどうか。越えたい人が多ければ、壁もそれだけ早く消滅する。

決済の黒船 Apple Pay (日経FinTech選書)

決済の黒船 Apple Pay (日経FinTech選書)

 

 お休みなさーい。

 

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