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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

いつまでたっても戦争が終わらない戦士が可哀想すぎる『マン・ダウン 戦士の約束』見てきた

3月になると、年度末の予算消化工事や予算消化出張のように、一挙に映画の公開本数が増える。わりとマメに上映予定をチェックしてるのに、まったくノーマークの映画がひょっこり顔を出す。

 

『マン・ダウン 戦士の約束』も、まったくノーマークな戦場を舞台としたシリアスな映画。“圧倒的想像力をかきたてる衝撃のラスト8分!“のコピーにつられて見に行った。

 

ラストに仕掛けたっぷりで、つい語りたくなる。そんな作品だった。

 

戦場が舞台ながらもゲームチックで、ドンパチもスプラッタ―も嫌いな女性であっても嫌悪感なく見れた。ストーリー自体も霧がかかったようにミステリアスで、ミステリアスなストーリーに合わせて、映像もミステリアス仕立て。クリアーで明るいシーンは、すべて戦場に行く前のもの。過去がことさら明るく幸福に見えるなんて、悲しいね。

 

アフガニスタンから帰還した、アメリカ海兵隊員のガブリエルが主人公。戦場から帰還した故郷からは人が消え、妻も息子の行方もわからない。戦場から帰還した後も、戦場のような故郷で姿なき敵と闘い、消えた妻と息子を取り戻そうとする、哀しい戦士のお話。

 

予告編を見ればわかるけど、ガブリエルの息子ジョナサンが、とってもかわいいんだ。

 

とってもかわいいジョナサンは、ちょっとだけ気弱で線が細くて、そこがガブリエルにとっての悩み。ガブリエルは妻と息子を何よりも誰よりも大切に生きている人。根っからの職業軍人というよりは、生活のために軍人を選んだようなタイプ。

 

とはいえ海兵隊に入れるくらいだから、それなりに素質ありで、厳しい訓練にも耐えて立派な職業軍人へと成長する。

 

立派な職業軍人になるということは、立派な殺人マシーンになるということとイコールとはいえ、心、内心まで立派な殺人マシーンになることはできなかったのがガブリエル。

 

何よりも大切だと思っているものと、よく似た何かをすっかり破壊し尽し、取り返しがつかないことをしてしまったと悟った時、善良な人は罪の意識に耐えられない。狂う。

 

おかしくなる方が、正常なんだ。

 

言語化して他者に説明できるのは、「そのこと」について語ることができるのは、その人の中ですっかり整理がついた後。その時何があったのか。ガブリエルは、心の整理がつかないまま、故郷へと帰ってくる。

 

帰ってきた故郷はゴーストタウンのようで、愛しい妻と息子の姿も見えない。家族のようにいつも一緒だった親友も、もういない。

 

傷ついた心、魂を癒す場所や拠り所さえ失われたまま、どうやって傷ついた魂を癒すのか。

 

それなりに戦闘っぽいシーンも多いけど、リアルさからは遠く見えるのは、リアルな現実から遠く離れている戦士の心象風景に沿っているからと思えば納得。現実感なき世界を生きてる方が、ガブリエルの現実に近いんだ。

 

故郷は戦場ではないはずなのに、戦いは終わらず、家族の姿は見えない。

 

最終的に傷ついた戦士を受け入れるのは家族しかいないのに、その家族はおらず、家族にさえ受け入れられなかったら、その戦士はどうすれば戦いを終えることができるのか。

 

これじゃあいつまでたってももリアル、現実に戻れなくなるばかり。

 

ターゲットとした街を確実に落とし、住民が全滅しようが気にも留めず、大量虐殺も意に介さないマシーンのような人間なら、マシーンに置き換えてしまえばいい。マシーンにだってできるようなことを、やってるんだから。

 

感情のある人間だから、狂うし、おかしくなる。おかしくなる方が、戦場以外の場では、まともな人間さ。

 

衝撃のラスト8分間は、言ってみれば混乱と混乱の衝突。

 

そこが映画のキモだから、語りたいけど語れない。でもやっぱり語りたくなる。あのシーンは、戦場に最適化されたばかりに混乱してる人間と、平和な暮らしに最適化されて、戦場にある人の心理や背景を理解できない人との混乱がぶつかってできてるシーンだよね、と。

 

戦場経験者が見ている世界を、彼らにとっての現実を見せにくる映画。決して戦場に立つことはない人にでも、彼らの見てる混乱した世界はこうなんだよと、よくわかる。

 

戦場に行く前と後ではすっかり人が変わり、「あなたは一体誰?」となっても、在りし日の姿を思い出させるものさえあれば大丈夫。

 

息子のもとに帰りたい、ただ息子をもう一度抱きしめたいという父性愛が、ほとばしってる。父性愛に的をしぼったあたりが、とってもリアル。哀しいけど、職業軍人家庭ではありがちなことなんだろう。ありがちなことだったら、対策取ればいいだけのことなのに。

 

ちょっとひねりの効いた戦争もの。たとえどんなに話題になっても、『フューリー』なんかは絶対に見ることはない人間でも楽しめた。

 

お休みなさーい。