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シネマ歌舞伎『NEWシネマ歌舞伎 三人吉三』見てきた

シネマ歌舞伎で『NEWシネマ歌舞伎 三人吉三(さんにんきちさ)』見てきた。原作は河竹黙阿弥(幕末から明治の人だ!)作と古―い作品。現代風にアレンジ&ブラッシュアップすると、めっちゃカッコいいんだ。


シネマ歌舞伎『三人吉三』予告編

 3時間半の舞台を、2時間15分にギュギュっと凝縮。10巻完結のコミックを1本の映画にまとめたようなもので、シネマ歌舞伎はどれもそうだけど、これも濃い。伏線が何本も張り巡らされた、それでいてそのどれもがキッチリと回収される、複雑なストーリーが見どころ。

 

三人吉三巴白浪 | 歌舞伎演目案内 - Kabuki Plays Guide -

 

 こちらのキャラクター紹介には出てこない、「主も悪よのう。。」という台詞がぴったりな、悪徳代官様風の強欲な人物のもとに、名刀庚申丸と、その代金百両が届けられたところから物語はスタート。

 

縦糸になるのは、百両という大金。横糸になるのは名刀庚申丸。

 

金は天下の回りもので、グルグル回るこの大金百両が、関係者全員を引き合わせて、振り回す。振り回すのは大金だけでなく、将軍家より下賜されたいわくつきの名刀庚申丸をめぐっても諍いは絶えず、諍いが人の業や因果を明らかにしていく。

 

主役級の三人、和尚吉三・お嬢吉三・お坊吉三以外にも、夜鷹(←枕ありの夜職のこと)のおとせ、おとせと恋仲になる十三郎に其々の父親にその他大勢と、登場人物も入り乱れまくり。

 

誰が何をめぐって争って、何を欲しているのか。目まぐるしく展開するストーリーに置いてけぼりになった時は、大金と名刀に紐つけると、理解が進みやすい。多分。

 

天下の回りものである大金が、知り合うはずのなかった関係者を引き合わせて、ぶん回す。その様子は、アフィリエイトによる巨額のアフィリエイト収入が、攻守ところを代えて、関係者間をコロコロ行ったりきたりする様子とそっくりさ。

 

こっちに寄越せ、いや俺・私のもんだ。無くなったら生きてはいけませぬと、命懸けで取り戻そうとする様子、ほんとそっくりで醜いよー。諍いの元になるからと、いっとき預かることになった和尚吉三が、ストーリーの要で登場人物をつなぐ要。

 

彼がおとせと兄妹であったために、知らなくていい秘密を抱え込み、その秘密は地獄まで持って行くと決心したからさぁ大変さ。

 

三人吉三は、悪党が活躍するピカレスク・ロマン。

 

盗みに人殺しと悪事に手を染めまくっているけれど、それがカッコよく見えてしまう悪党のお話。三人揃ってチャンチャンバラバラの立ち回りシーンは、中村勘九郎中村七之助尾上松也の息もピッタリで、ただもうひたすらカッコいい。BGMまでカッコいい。歌舞伎なのに、サントラ欲しいと思ったくらい。あるのか知らないけどさ。

 

悪党が主役で「お日様の下では語れない」お話だから、舞台も暗め。

 

時折市井の人のシーン、子供の世話や煮炊きといった料理に他愛も無くお喋りに興じる姿が映し出されるけど、和尚にお嬢、お坊吉三の三人は、決して「生活」の中には入っていけない。

 

その生い立ちからも決して「生活」の中には入っていけない三人の姿は、行き場もなく深夜のコンビニにたむろするヤンキーにそっくりで、悲哀も漂いまくり。和尚吉三はなぜかぶっとい鎖のネックレス?を首から下げていて、それがまたヤンキーあるいはラッパーぽい。(←そういうファッションを何と表現するのか、語彙に乏しいだけです)

 

「お日様の下では語れない」お話だから笑いも必要で、セリフにもダジャレ多目で、ギャグ担当のキャラもしっかり登場。年食った夜鷹の三婆トリオは、そのまんまニューハーフショーでも通用するかも。かもかも。

 

お金と名刀に振り回されながら巡り合う関係者たち。実はずっーと前から切っても切れない“縁“で結ばれていて、百両の大金と名刀が、セットで揃うとさらなる不幸を招き寄せる。

 

チャンチャンバラバラの立ち合いシーンについ騙されそうになるけど、ストーリーはめっちゃシリアスかつ入り組んでいて、トーンも暗め。関係者全員が不幸になっていく、本来とっても救いのないお話なのに爽快感があるのは、景気のいい効果音とBGMのおかげ。ストンプみたい。

 

和尚吉三とおとせの父親である土左衛門伝吉から、おとせについての重大な秘密を聞いてしまった和尚吉三。家族の闇も深いのに、義兄弟といっていいお坊吉三とは、庚申丸をめぐって親の代から因縁のある間柄であることが判明して、こっちも八方塞がり。どこにも救い、“光”の見えない状態に置かれる。

 

ストーリーの要で関係者をつなぐ要でもある和尚吉三が、もはやこれまでと観念するところで、すべては反転する。暗闇から真っ白な世界へ。

 

舞台ではきっと最終幕だったに違いない、和尚吉三が捕えられ、お嬢吉三とお坊吉三が逃げ惑うのは、雪が舞い散る白銀の世界。季節は節分を過ぎた頃だから、雪が降っていても全然おかしくない。

 

景気よくヒラヒラと、真っ白な雪が舞い散るなか最後の大立ち回りを見せる三人の姿は、この作品の中で一番の山場で見どころ。そりゃもう、惚れ惚れとするほど美しい。

 

誰が悪かったのか、どこからやり直せばよかったのか。たらればなしでやり直しのきかない三人の生き様は、ただ哀れで美しくて哀しい。

 

そしてすべては真っ白になって、ジ・エンド。悪党と呼ばれた三人は、真っ白な世界でこと切れる。

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一回しか見てないからよくわかんないんだけど、最初しか出番のなかった八百屋久兵衛に、百両も庚申丸も託すヒマあったっけ???ここは動画で見直したいところ。

 

百両という大金と、いわくつきの名刀庚申丸がふたつ揃った時は、また新たな諍いが始まる時。そう勝手なエンディングでもつけて、蛇足を台無しにしておこう。

 

衣装はひびのこづえ。暗い舞台でも、真っ白な舞台でも、衣装が際立っていたのはそのせいか。着物の柄見るのスキーとしては眼福だった。

www.kabuki-bito.jp

 三人吉三は、何度も上演されている古典だけに、決め台詞もいっぱい。ここぞという決め台詞では、観客からの合いの手も飛び込んで、観客との掛け合いがよりいっそう舞台を盛り上げてた。「バルス!」で盛り上がるルーツ、意外とこの辺なのかも。かもかも。複雑怪奇に入り組んだストーリーを、堪能した。

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(これは記事とはまったく何の関係もなし)

お休みなさーい。