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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

音楽のまだ活用されてない力に思いを馳せる『パーソナル・ソング』見た

映画 レビュー

アマゾンビデオより発掘した、短めのドキュメンタリー映画。1時間18分と、短めなところがいい。

 文学か音楽か。優劣をつけるのは馬鹿らしいけれど、文字を読むことと音楽を聞くことと。どちらがより長く続けられるかと言えば、きっと音楽を聞く方。音楽によって失われた人間性を回復する人たちを追った、音楽療法がテーマの作品。

 

音楽が限りなくフリーに近づいて、ミュージシャンとしてはたまったもんじゃないかもしれないけれど、敷居が低くなることで新しい可能性も見えてくる。ような気がした。

監督は90歳の老女に問いかける。「あなたはどんな子供だった?」「・・・まったく思い出せないわ」「何を思い出せないの?」「・・・若いころにどう過ごしていたのかがまったく思い出せないわ」

そんな彼女に、iPodルイ・アームストロングの「聖者の行進」を聞かせてみる。すると老女の目がキラキラと輝き始めた。「これはルイ・アームストロングね、学生時代を思い出すわ。母に内緒でコンサートに行ったの!」

ひとつの歌から紡ぎ出される思い出は次々にあふれ、彼女は記憶を呼び覚ました。

(アマゾン内容紹介より引用)

 お年寄りの方に「あなたの好きな歌は?」と問いかけ曲を聞いてもらうと、驚くほど饒舌になったり、体でリズムを取り出す人が多数続出。

 

年を取れば感情が死んでゆき、外部からの問い掛けにも鈍感になりがち。無感動にただ生かされてるような人も、音楽を聴くことで生き生きとした表情を取り戻す。

 

“目覚めの芸術”としての音楽のプラス面は、若者だけでなく、人生の終盤を迎えつつある老人にさえ有効なんだ。

 

取り上げられる老人はそれぞれ老境を迎え、痴呆やアルツハイマーを患っている。施設で暮らす人もいれば、家族と共にある人もいて、音楽の力を借りることで、より長く家庭に留まることができている人もいる。

 

施設に暮らすお年寄りは、まずは患者として扱われる。患者として扱っているうちに、その施設で働く人たちは、患者が人間であることを忘れていってしまう。そんな時にも、音楽でご機嫌になってリズムを取ったりハミングし出す人がいれば、お年寄りが患者である前に人間であることが思い出せる。

 

音楽が、お年寄り本人の人間性だけでなく、機械的に扱いがちな周囲の人の人間性をも目覚めさせるんだ。

 

その一方で、全世界で高齢化が進み、年齢別の人口分布が歪になるデータも示し、今後は精神疾患を患う人が増加する未来も指摘している。痴呆の人が増えたら、当然そうなりますわな。。

 

感情を失った人は粗雑に扱われ、粗雑に扱われるから、尊厳が失われていく。

 

粗雑に扱われる人の増加は、世の中や社会全体から尊厳が失われていくこととトレードで、そんな未来はゾッとするだけ。

 

この作品では、音楽療法で人間性を取り戻そうと奮闘する人が取り上げられていて、彼がやろうとしていることは、世の中や社会全体に、尊厳を取り戻す行動でもあった。

 

聴き放題のストリーミングサービスが浸透して、誰が音楽をタダにしたのかとお怒りの人もきっといる。けれどこの作品を見ると、怒る人がどれだけ出てこようと、音楽は限りなくタダにした方が人類全体の役に立つと、強い意志で決断した人が居たんじゃないかと思ってしまう。

 

ただ人間性を失いつつある、あるいは奪われそうな現場からお送りするだけでなく、予想外のエピソードを挟み込んでくるから面白い。途中経過はNHKスペシャル風。ひどい悲しいといった感情面に訴える要素を極力なくし、淡々と説得する語り口がいい。

 

全世界で進む高齢化は、尊厳を失った人が多数生かされる社会で、ノイジーマイノリティとなった若者が、高齢者の尊厳を潰しにかかる。尊厳を取り戻すひとつの手段が音楽で、尊厳を取り戻した人が多い社会の方が、万人にとってもきっと生きやすい。

 

目覚めの芸術としての音楽にフォーカスした、ドキュメンタリー。この種の作品が、もっと増えると嬉しい。

 

お休みなさーい。