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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

荒唐無稽だから心底楽しめる『オーケストラ!』は、映画的楽しさにあふれた秀作。

傑作よりも秀作の方が、しみじみとした情感にあふれてそうで、贔屓にしたい響きに溢れてる。クラシック音楽がテーマだけど、内容はロック。ロックって反逆のことでしょ、本来は。

 

こちらの企画に合わせ、音楽映画を見直し中。12月まで受付中だから、まだ間に合うよね。ベストワンは不動だけど、それ以外の順位を決めるのが難しい。

d.hatena.ne.jp

『オーケストラ!』は、エモーショナルなチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴きたくなったら思い出す映画。ロシアの名門オーケストラを舞台としたハートフルコメディ。喜怒哀楽のバランスが、とてもいい。

 

元天才指揮者でロシアを代表する名門オーケストラを率いていた、主人公のアンドレイ・フィリポフ。旧ソ連統治下で時の権力者*1に逆らい、清掃員に格下げになった不遇な人。

オーケストラ! (字幕版)

オーケストラ! (字幕版)

 

 それから30年後。かつての仲間もみな散り散りになり、当局に逆らった彼らはそれぞれ辛酸を舐めている。そして、アンドレイが今も清掃員として働くボリショイオーケストラに、憧れのパリの劇場から客演依頼が舞い込んだところから、アンドレイの暴走が始まる。

 

アンドレイは、清掃員となっても頭の中にはいつも音楽が流れてるような人。彼にはどうしてもパリに行きたい理由と、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏したい理由があった。どうしてその曲なのか、なぜパリなのか。

 

パリに出発するまでのすったもんだと、パリに到着してからの多事多難と。ロシアに生きる元オーケストラ団員の困窮ぶりと、フランスのアート界隈の人々のハイソな暮らしと。音楽を生業とする、していた人たちの対比がとっても皮肉。

 

“子どもはロンドン留学、いい身なり。でもみんなマフィアよ”の劇中のセリフには、ソ連からロシアへと国が変わって混乱したに違いない当時の様子も透けて見える。全編こんな感じで、世相への皮肉なスパイスがたっぷり効いている。

 

ロシアを舞台にし、ロシア語の台詞がほとんどだけど、実は2009年公開のフランス映画。ロシアン・マフィアに怒られなくてよかったねと思うくらい、マフィアやマフィア的なものをコケにしまくってる。笑いに昇華してるけど、根底には相当な恨みつらみがないと、ここまでコケにできないよねと、思ってしまう。

 

成金ロシア人の豪華結婚式シーンがキョーレツ。2009年といえば、リーマンショックが後を引き、混乱する資本主義大国と違って新興経済国がブイブイ言わしてた頃。BRICsとかありましたよね、そういや。大破壊後の復興需要でめいっぱいフトコロ潤ってた人に対する恨みはきっと深い。

 

30年のブランクがある、元天才指揮者と名門オーケストラ奏者。果たして彼らは、世界で活躍する現役の一流ソリストとの共演に相応しい演奏ができるのか。

 

元オーケストラのメンバーがまた、みなさん素晴らく個性的で大丈夫かいな。。と心配だけが募るようにできている。商魂たくましいユダヤ人に、情熱的な演奏で若き女流ヴァイオリニストを圧倒する、合法スレスレほとんど非合法にどっぷりのロマの人まで。

 

奔放過ぎるメンバーのハートに火を付けるのは、オケと共演する若き女流ヴァイオリニスト。彼女のために集結したといってもいい、オーケストラと彼女の因縁が、この映画の最大の肝。

 

アーティストが本気になるのは金銭欲や名誉欲を超えて、魂が揺り動かされた時。エモーショナルなチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が、とびきり美しく響くように計算されている。

 

アンヌ=マリー・ジャケは、解放と明るい未来へのアイコン。

 

政治に道を狂わされ、過去に囚われていたメンバーたちが、ようやく未来に飛び立てるシーンだから、とびきり力強い。音楽とともに明るい未来を踏み出せる、解放の喜びにあふれた演奏だから、とびきりエモーショナル。

 

アンヌ=マリー・ジャケとの共演は、過去と決別し明るい未来への旅立ちでもあるから、歓びいっぱいに描かれてる。

 

生活のための音楽から、世界に美しいハーモニーを響かせるための音楽へ。

 

真の意味での共産主義者、魔法の音とメロディーを、共に産み出そうと心をひとつにした人たちが誕生したシーンでもあるから、感動的。不協和音しか奏でられないロシアン・マフィアのメンバーは、お呼びじゃない。

 

ロシアンマフィアとパリの劇場サイドとのやりとりは、狐と狸の化かし合いっぽくて滑稽極まりない。元オーケストラのマネージャーで、現KGBメンバーで唯一フランス語が堪能なガブリーロフや、気のいいチェロ弾きのサーシャまで。脇を飾る人たちもみな、いい味出してる。

 

第二次大戦中ならともかく、80年代に入ってもまだそんなことしてたの???というエピソードには正直モヤモヤも残る。真偽が確かめられないから。それでも、笑いに昇華するしかなかった。現実にあったかもしれない悲劇や理不尽にも、ピリオドが打たれる日は必ず来るとのメッセージが、とにかく心強い。

 

政治と芸術。無邪気に笑い飛ばすには互いに相当な胆力も必要で、シーソーみたいな危ういバランスが崩れたら、無邪気な賞賛も非難も送りにくくなる。

 

すべてのモヤモヤにピリオドを打つ、エモーショナルな演奏がいつまでも耳を離れない。わかりやすい喜怒哀楽に満ちた映画。わかりやすさが好きさ。

 

ヴァイオリン協奏曲だけでなく名曲が多数使われているので、クラシック寄り(演奏は奔放でお固くない)の音楽が好きな人におススメ。

 

お休みなさーい。

*1:ブレジネフ書記長。ソ連も政権末期になると、次々と最高指導者が変わりましてな。アンドロポフ、チェルネンコゴルバチョフと正しい順番に並べろとかテストに出ましたわ。。