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クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『千年の一滴 だし しょうゆ』見てきた

映画 レビュー
日仏合作のドキュメンタリー映画『千年の一滴 だし しょうゆ』を見てきた。
和食がユネスコの世界無形文化遺産登録された記念に制作された、2013年のNHKドキュメンタリー番組をブラッシュアップしたもの。ニンジャにゲイシャ、サムライだけじゃなく、種麹を扱う”もやし屋”を擁する日本ヤバ過ぎ、奥深すぎ。
 
 
そして、そんな奥深い和食の世界を最を最も正しく理解できるのは、チーズとワインの先進国、ヨーロッパしかないのかもしれない。
 
 

”日本人と自然との関係を、食を切り口に見つめるドキュメンタリー”(公式サイトより引用)。第1章「だし:大自然のエッセンス」と第2章「しょうゆ:ミクロの世界との対話」の二部構成で、まず映像がすばらしくきれいだった。

 

 

桜咲く京都や雪景色の京都が映し出されたシーンに、「そうだ 京都、行こう」のコピーをつけたらそのまま観光誘致のポスターになる。北海道の海辺のシーンの片すみに「いいちこ」を置けば、そのまま「いいちこ」のポスターになる。

風景の中の思想―いいちこポスター物語

風景の中の思想―いいちこポスター物語

 

 オーセンティックな日本はきれいでしょ美しいでしょと、素晴らしい日本のプロパガンダに仕上がってる。日本人以外の経営による日本食レストランが世界で増え続ける中、ばったもんとほんまもんはこれだけ違うというプロパガンダ、あってもいいと思う。

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(日本人以外が経営する日本食レストラン。しょうゆはキッコーマン。)


だし効かずと薄味はまったく別のもの。

 

昆布にしいたけ鰹節。だしの素材、旨味の元となる各素材の中でも一級品となる物は、収穫から出荷まで、工業製品とは全く異なる”手仕事”によること。一級品になるためには「菌」の力が欠かせないことを伝えてる。

 

 

食品を扱う工場だったら、無菌状態が好ましい。工業製品では「菌」は悪者。均一な商品を大量に生産する工業生産の現場では、「菌」でさえコントロール下におかれる。

 

 

一 方この映画に登場する食品は、どれも工業製品じゃないから「菌」の力が欠かせない。築130年の町屋に住みついた「菌」は、悪者ではなく必要なもの。諸条件によってはうまく育たない、下界に降りてこない気まぐれなものだから、神様みたいなものかも。無菌状態は人為的に作り出せても、時には神様のような働き をする「菌」が大量に棲みついた環境は、人為的には作れない。

 

 

その貴重さがわかるのは、発酵や醸造を経たワインやチーズのような食品に馴染みがあり、一級品とばったもんでは、その製造工程に大いなる違いがあると知っている人だけ。フランスやドイツで放送時には大反響となり、6度のアンコール放送に繋がったのもうなずける。

 

 

「菌」 の力と、彼ら「菌」にいい仕事をする時間が与えられるから、自然のものが素晴らしい食べ物に変る。その貴重さをわかってはいても、自分が口にするのは経済 的・時間的制約から工業製品。消費者の嗜好に合わせて”手仕事”の品が周囲から姿を消しつつあるなか、海の向こうでは”手仕事”が健在だったと知ったら、 コーフンするのも無理はない。

 

 

カメラにテレビ。日本といえば、エレクトロニクスな工業製品の国としか思ってなかった人たちの目も、すっかり覚めたんじゃないかな。

 

 

伝統の中に科学あり。

 

 

築130年の町屋で醤油を作り続ける醤油さんや、京都の割烹料亭「祇園 川上」の仕事ぶりは、伝統を踏襲してるだけじゃなく科学的根拠がある。エビデンスベースの科学的根拠をいち早く見抜いて伝えてきたことが、現代の科学知識で上書き・補強されてるところが面白い。

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和食といえば、米・味噌・醤油。麹ときけばおばあちゃんの手作りっぽくて、”オリゼ”ときけば最先端科学っぽく聞こえる不思議で、オリゼは日本にしかいない菌。

 

 

そ のオリゼを扱う種麹屋は、世界最古のバイオビジネス企業になるわけで、「も、もやし屋が世界最古のバイオビジネス。。」と、そこに一番驚いた。物は言いよ うで、世界の人の目を意識したらそういう言い方もできるのかと、目から目玉が落ちそうだった。映画に登場する種麹屋「菱六」の、文化財級の町屋の奥で行わ れている菌の培養シーンに、心を奪われる人が増えたら日本の勝利も、もうすぐそこ。

もやしもん(1) (イブニングKC)

もやしもん(1) (イブニングKC)

 

 アボカドとモッツァレラチーズの寿司や、カリフォルニアロールも大好き。でも、だしがたっぷりきいたお吸い物の美味しさは格別なのよ。

 

 

ミラノで行われている食の万博には、ほんまもんの和食を伝えようと、日本を代表する和食料理人がチームで乗りこんでいる。ばったもんとほんまもんはこれだけ違うと、殴り込みに行っている。

 

 

ばったもんが幅をきかせる状態を変えたかったら、ほんまもんの素晴らしさを伝えるしかない。

 

 

フォションにペックにダロワイヨ。本国で彼らが提供する超高級品には縁がなくても、彼らが提供する普及品になら手も出せる。フォションのアップルティーに、ダ ロワイヨのチョコレートケーキ。根付いてるとは言わないけれど、知ってる人は知っている。知る人ぞ知るになるだけでも、大きな前進

 

 

世界で和食がブームになっても、ばったもんが幅をきかせている限り日本に利益は生まれない。和食いいねと思った人たちと、ほんまもんの和食が繋がる仕組みがあれば、工業製品の外にある、”手仕事”の品にも生きる道がある。

 

 

日本の一級品は健在なり。世界に向けての高らかなアナウンスとしても、いい映画だった。マルサワの醤油もしっかり買って帰った。

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どうでもいい豆知識だけど、「祇園 川上」は歌舞伎研究者で直木賞作家の松井今朝子さんのご実家。高齢を期に引退したお父さんのお店を、そこで働いていた方が引き継いだとか。『吉原手引草』をたまたま読み返した後に見たので、シンクロニシティにちょっと嬉しくなった。

吉原手引草 (幻冬舎文庫)

吉原手引草 (幻冬舎文庫)

 

 お休みなさーい。