クローズドなつもりのオープン・ノート

~生きるヨロコビ、地味に地道に綴ってます~

『F1ビジネス戦記』読んだ

新しい事業やスタートアップならではの話なら、牽引役となった人から聞くのがいちばん面白い。逆に、ある事業の終焉ならではの話なら、現場で手を動かしていた人から聞くのがきっと一番面白い。

 

F1ビジネス戦記 ホンダ「最強」時代の真実 (集英社新書)

F1ビジネス戦記 ホンダ「最強」時代の真実 (集英社新書)

 

 ヨー ロッパのものだったカーレースの最高峰F1にホンダが挑み、勝ち続け、撤退するまでをつづった本書。ホンダの黄金期と言われる83年~92年までの第2期 を取り上げている。著者は、元ホンダのF1広報マネージャーという要職にあった人。ホンダ「最強」時代と組織人としての青春が重なった、とても幸運だった 人が振り返るモータービジネスの舞台裏は、表舞台と同じくエキサイティングで波乱に満ちていた。

 
 
ホンダ、ついに小型ビジネスジェットまで飛ばしちゃった。

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二輪車メーカーとして創業したホンダ。四輪事業に参入し、エンジンサプライヤーとしてF1にも参入する。ホンダの参入は車体重視なF1の流れを変え、「最強のエンジン」を擁するものがF1を制する、エンジンこそ王者な時代をもたらした。
 
 
ほんと強かったのよ、ホンダ。
 
 
16戦して15勝。1988年のマクラーレン・ホンダは、アラン・プロストアイルトン・セナという最強最速レーサーを二人もそろえ、連戦連勝を続けて伝説になっている。
 
 
F1 にはチームの勝利とレーサーの勝利の二通りある。レーサーの勝利は、年間得点王とか、最多勝利投手みたいなもの。チーム名は、車体提供メーカー+エンジン サプライヤーから成っていて、マクラーレンの車体にホンダのエンジンをのせてるから、チーム名はマクラーレン・ホンダ。こうしたF1基礎知識も織り込んで いるので、F1ビギナーでもとっつきやすくなっている。
 
 
F1 マシンを至近距離から見ると、頼りないくらい軽そうに見える。最速で走り抜けるために技術の粋を集めたら、あらゆる部分を軽量化しましたという風情で、 とっても頼りない。例え道路で一回転しようと中の人はピンピンしてる、ベンツやアウディといった高級車のどっしりずっしりした風情とは真逆。こんな頼りな さそうな車体で、時速300キロも出すのかと思うと恐怖だった。
 
 
F1 の醍醐味は、一歩間違えば走る凶器ともなるモンスターマシンを、人間が制御しているところにあると思ってる。普通だったらモンスターに負けそうなところを、人間が乗りこなすから面白い。マシンの強さだけでも、最速のレーサーだけでも勝てない。マシンを凶器から翼に変える、巧みに乗りこなすレーサーあっての勝利。そのジレンマがまた、ファンにとってはたまらない。
 
 
日本でF1が熱狂的に受け入れられたのは、セナという「操縦の天才」がいたから。この本も、セナとホンダの出会いから始まっている。まずはセナという不世出のレーサーに、世界が熱狂したから。
 
 
アメリカにはアメリカのモータースポーツインディカーがあり、F1はカーレース最高峰とはいえヨーロッパのもの。ホンダがF1に参入するということは、 ヨーロッパのビジネスシーンに乗り込むことでもあった。文化文明の衝突でもあって、契約の取り決めを通じ、あるいは契約外のプリンシプル(原理原則)に接することで、ホンダはヨーロッパとの流儀の違いを学んでいく。
 
 
アメリカ流合理主義的ビジネスとはまた違い、社交も欠かせないなど、とっても階級的な一面もあるのがモータースポーツでモータービジネス。ホンダを勝たせまいとする相次ぐルールの変更にバッシングと、サラッと書かれてたけど舞台裏の争いも厳しかったもよう。
 
 
階級意識の乏しいジャパニーズビジネスマンが、24時間闘うだけでは勝ち抜けない、階級の壁にぶつかるところは、それだけで別のストーリーができそう。もっとねちっこく突っ込んだ方が面白そうだけど、過去は美化されるもの。あるいはそこを詳しく語る事は本意ではなかったのか。イジワルされた話もサラッとしか出てこない。
 
 
ホンダがやっているのはビジネスで、著者もビジネスマンだから、個人の恩讐にはとらわれてない。F1からの一時撤退にも、ホンダならではのビジネス感覚が生きていた。
 
 
ホンダは1993年に、F1活動を休止する。
 
 
バブルがはじけ、新車販売が厳しい時期だったから、金食い虫のF1が休止されることに驚きはなかった。ファンにとっては残念であっても。
 
 
F1を休止したあと、ホンダは1994年にオデッセイを発売する。この車、新車が売れない時代にバカ売れした。スカイラインからオデッセイに乗り換える人もいて、新車への買換えなのにお釣りが発生するという、珍事もあったりした。
 
 
家族みんなでお出掛けするのにちょうどいい、「RV車」ブームを牽引した。F1に象徴される、「走り」から「ファミリー」への鮮やかな転身だった。
 
・北米市場を始め海外市場でのシェアを拡大
・小型農機具にも参入
 
と、F1休止後もホンダは着実にビジネス面で進化している。極めつけは、創業者の悲願だった小型ビジネスジェットへの参入ですよ。
 
 
F1へも休止と撤退を経て、ついに今季2015年から4度目の挑戦をスタートさせる。新しい事業も古くからの事業にもチャレンジし続けるホンダ。最近一番なごんだニュースはこれ。

www.huffingtonpost.jp

黄金期だったホンダ「最強」時代を創ったのも、ヨーロッパに比べればはるかに若くて情熱あふれた、若きエンジニアたちだった。
 
 
人生でもっとも情熱をもって仕事に打ち込める時期と、会社の成長期が重なる。そんな蜜月を過ごした人ならではのストーリーが、これからもホンダからは生まれ続ける。かつてのホンダ車ユーザーも、そう思うと胸が高まるってもの。EVやPHVでの健闘にも期待してる。
 
 
お休みなさーい。